ヒト型を水中に適用させる意味はあるのか?

さらに、真面目な質問ばかりしていても筆者っぽくないので、そろそろ変な質問ということで、人型の水中ロボットは難しいのかを聞いてみた。水中で活動する人型ロボットなんて、パナソニックの2011年(4代目)のトライアスロンバージョン「エボルタくん」の「スイム・ロボット」(画像25)以外では、あまり見たことがなく(意外とお風呂用のオモチャにありそうだけど)、現状、ホビーロボットなどを無理矢理水中で活動させようとしたら、完全防水のウェットスーツのようなものを着用させるしかないと思うのだが(そうすると発熱の問題が大変そうなので、熱をうまく外の水中に逃がす必要が必要だろうけど)、どうなのだろうか。

画像25。4代目エボルタくんのスイム・ロボット

すると浦特任教授は、「魚型はMIT(動画)がだいぶ前からやっているし、国内でもいくつかあるけど人型はあまりないですね。魚型は結構あって研究もされているんだけど、僕自身は、実は魚型はあまり好きじゃない(笑)。なぜかというと、ロボットは楽しいというのがあるんだけど、例えば、昔は馬が活躍していたわけですが、馬のように四足歩行するロボットはあるけど、単純に速度で行ったら自動車には勝てない。自動車が出てきた時に、馬でいいって人と、そうじゃない人がいたわけで、馬がいいって人は馬は荒れ地も行けるし、砂漠でも行けて、当時の自動車では無理なところも行けた。つまり、馬と自動車を競争させてはいけない。介護士と介護用ロボットを競わせてはいけないのと同じ理由ですね」と、テクノロジーで自然のものと勝負する時の鉄則をおさらい。

MITの魚型ロボットが泳ぐ様子

さらに、「なので、僕らの目指している実際に水中・海中での活動がしやすくて役に立てる水中ロボットと、人型ロボット、そして魚型ロボットというのは、また違うんじゃないかと。なぜかというと、水中で一番速く動けるのはプロペラで推進するのが一番いいから。遅い推進に限ったら、ヒレの動きも性能がいいんだけど。つまり、魚ロボットで何をさせるのかというのがやはりポイントになってくる。魚型ロボットのメリットは何かというと、まず省エネルギーというのがある。あと、身体をくねらせる仕組みだから、180度ターンがとても素早い。魚雷型ロボットは180度ターンが不得意なんです。イルカやアザラシなんかの水棲ほ乳類も含めた魚型をした生物は、180度ターンをする時は身体をひねってヒレでコントロールしてノンストップで行うけど、そうしたメリットを活かせる海中・水中での活動があるかどうかが問題。たぶん、楽しいというのとは別に何かあるとは思うんだけど」とする。

魚型ロボットはMITが以前より研究を行っており、日本でも複数の研究者が研究開発を行っているが、もちろんそれぞれ研究目的があり、浦特任教授はそれらを否定しているわけではない。浦特任教授の考え方としては、実際の現場で活用できることが重要、ということである。なので魚型とはまた異なるが、「ウナギ型ロボットなんかは必要だと思う。どういうところで使えるかというと、パイプなど狭くて曲がりくねっているような環境を点検するのに使える。90度曲がっているようなところがいくつもあるようなパイプを通って行くには、クネクネしていないと曲がれないから」という。

浦特任教授がそうしたパイプとして具体例を挙げると、「今なら原子力発電所の各種の配管。その中を通れるロボットにしようとすると、とても小さくしなければならないけど、ウナギ型なら長くすることで解決できる。ただ、これまではあまりウナギ型も好きじゃなかったから、僕自身は研究してこなかったんだけどね(笑)」とした。ウナギ(ヘビ)型ロボットといえば、東工大の広瀬茂男教授が開発した水陸両用ヘビ型ロボット「ACM-R5」や、それらをベースにハイボットが製品化した「Pipetron」などが有名である(画像26、動画2)。

画像26。
動画2。広瀬教授の研究をベースにハイボットが開発した「Pipetron」がパイプ中を90度曲がりながら移動する様子

そして人型の水中ロボットについては、「人型は水中で活動するには適してないんですよ。人は泳ぐことはできるけど、実際のところは水上・水中でも移動するのに適した体型はしていない。だから、人型の水中ロボットというのはなかなか作られないと思う。例えば、海底で何かの調査をするとしても、カメラとマニピュレータが備えられていればいいわけだから、人型である必要はない。だったら、魚型ロボットでマニピュレータを装備するという方が現実的。ダイバーみたいに両脚に足ヒレをつけて(そういう構造にして)泳がせるぐらいだったら、魚型、アザラシ型とかにしちゃった方が全然効率がいい」だという。

確かに、しんかい6500なども、身体をくねらせて泳ぐわけではないが、形状だけを見れば、魚型といっても差し支えないだろう(画像27)。あと速度的なものでいったら、人間は水上ですらあまり出ないし、水中となるともっと遅い。足ヒレをつけても、限界がある。海底に何かの建造物を作るのにどうしても人型でないと作業ができないといった必要な理由が出てくれば別だろうが、人型ロボットが水中で活躍するというのは、今のところはなさそうである。

画像27。三菱みなとみらい技術館のしんかい6500のカットモデル。

ただし、浦特任教授は、脚部を持つロボットを完全否定しているわけではない。「水中で活動するのに、カバなんかも意外といいんですよ。カバってノンビリしているイメージがあるけど、水中で結構活動するし、素早い。陸上だと巨大で重量もあるけど、水中だと浮力がカバーするので素早くなるんです。まぁ、あとは四足歩行である理由かな。何のために四足歩行にするのかという意味がなければ、作る意味がない。僕が研究している熱水鉱床をそばで観測するのに何らかの生物に似せた形にするのなら、やっぱり魚型かな。深海ザメとかをモデルにするよね。水中での活動に適しているいないでいったら、やっぱり人型は難しい」ということで、作れないわけではないけど、作る意味がなかったら作る必要はない、というわけである。

そして、魚型ロボットに関する弱点。「魚ロボットが観測や計測に適していない大きな理由があって、身体をくねらせて運動するということは、カメラも右に左に動くということ。海底の写真を撮ろうとしたら、いつも決まったアライメントで行いたいから、これはよくない。なので、魚雷型のようにまっすぐ推進できるのがいいということになる。もちろん、魚型ロボットでも左右にブレずに撮影できるのであれば、それも悪くはない」とした。