そのほか - ロボット関連の展示物

続いて、ロボットそのものではないのだが、ロボット用として開発されていて興味深かったのが、「飛行ロボット用静音ジェットエンジン」。飛行ロボットというと、つい背中に巨大な翼を備えた人型ロボットを想像してしまいがちだが、さすがにそういうロボットではなく、研究開発で使用されているのは車両型に主翼を備えさせ、このジェットエンジンのプロトタイプを2基搭載した「自動空中輸送機」である。振り子制御により自動的に姿勢を安定化させられるので墜落の心配が少ない点も大きな特徴だ。

自動空中輸送機の開発は、現代の輸送手段の大半を占める自動車輸送のバイパスとなることをまず目標の1つとしている。同時に、災害時に現地までの陸路が寸断された場合でも被災地に物資を届けられることも当然考えられており、新しいインフラとして活用されるよう開発されているというわけだ。

自動空中輸送機は人のすぐ近くで離着陸をする必要があることから、ジェットエンジンは静音性を重視して開発されている。ジェットエンジンの前後に2種類の周波数特性が異なる吸音材を配し、バイパスエアによる空冷冷却により、推力損失を最低限とする一方で吸音効率を最大限とする設計だ。また、軽量化のためにマグネシウム合金を多用している。

今後は、自動空中輸送機の2地点間移動の実証を行うための実験特区の整備などを検討していく予定だ。

画像16。飛行ロボット用静音ジェットエンジンの全景。サイズは全長で1mほど、直径は20cmほど

画像27。後方から。実際に焼け焦げた後があることからわかるように、自動空中輸送機の実験機に搭載して飛行を経験したエンジンである。離着陸は、離陸はあっという間に上がれるそうだが、着陸はそれよりも長いそうである

また、昨年発表された重心を考慮して自動的に倒れない姿勢に修正してくれる機能を持つロボット用高機能モーション作成ツール「Choreonoid」(コレオノイド)と、ステレオビジョンによる複数の同一形状物の同時位置姿勢計測技術を組み合わせた、ロボットアームによるペットボトルの把持のデモ「人が指定した物を取ってくれるロボット」なども行われていた(画像18・19)。

画像18。コンビニをイメージしたような、棚に2種類の形状のペットボトルが複数本箱詰めで置いてある中から、1本を取り出して別のところに置くというパフォーマンス

画像19。ロボットのペットボトルの把持動作に関するモーションの作成には、産総研が昨年発表した「Choreonoid」を使用した。Choreonoidは、CGクリエイターが感覚的に使えるようなシステムでデザインしてあるのが特徴。二足歩行ロボットのモーション作成の場合は、転倒してしまうようなポーズを設定しても、重心位置を計算して倒れないよう修正してくれるといった仕組みを持つ。画像はChoreonoidのプレスリリースより

複数のペットボトルの位置や姿勢を同時に計測するのに、ペットボトル全体を見て認識するのではなく、あらかじめ登録されているキャップの形状と一致するもののみを計測する仕組みで、それによって認識にかかる時間を短縮している。

画像20。3Dで認識した際の様子。あらかじめ登録されているキャップの形状と一致したもののみを認識する仕組みなので、ペットボトル全体を認識するのに比べて大幅な時間短縮が実現している

画像21。ステレオビジョンカメラをアーム上に取り付けて、目の前の物体の形状を認識するといったデモも同じ部屋で行われていた

そして、ペットボトルをつかんで別の場所に移す動作の作成に利用されたのが、Choreonoidだ。Choreonoid上でもペットボトルが置かれている棚の形状も入れられており、そうすると、アームをどう動かせばぶつけずに取り出せるかまで自動で計算してくれる。

人間なら何の苦もなくできてしまう多数のペットボトルの中から1本ずつ取り出して別のところに並べ直すという作業も、どれだけロボットにとっては大変かが逆にわかり、人間の認識能力や運動能力の高さを改めて浮き彫りにしてもらった形のデモあった。

なお、Choreonoidは無償公開を発表当時からアナウンスしていたが、それがもう少しで実現するという。ダウンロードしても利用者がまったく使えないのでは意味がないため、データを揃えたりする周辺作業に時間がかかったようだ。

以上、ロボット関連の展示の中でも一部のデモなどを拝見できたものに絞らせてもらったが、産総研では住宅のRT化、RTミドルウェア、学習的ロボット対話制御、上肢障害者用ロボットアーム「RAPUDA」など、多数の研究開発がなされている。

また、ロボット以外にも産総研では環境・エネルギー、ライフサイエンス、情報通信・エレクトロニクス、ナノテクノロジー・材料・製造、標準・計測、地質など多岐にわたって最先端の研究開発が行われており、冒頭で述べたように今回展示されたものだけでも340点を数える。産総研つくばセンターは年に1回、一般公開も行われているが、このオープンラボも非常に見応えがあるので、興味のある方は来年はぜひ足を運んでみてほしい。