産業技術総合研究所(産総研)、東京大学大気海洋研究所(東大大気海洋研)、横浜国立大学(横浜国大)は10月20日、仙台沖~大槌沖の海底堆積物表層に東北地方太平洋沖地震により堆積したと考えられる「タービダイト」を確認すると同時に、仙台沖において地震動で変形した堆積物を発見した(画像1)。研究は産総研地質情報研究部門の池原研副研究部門長らによるもので、10月24日から26日まで京都大学で開催される「第5回国際海底地すべりシンポジウム」で発表される予定。

画像1。仙台沖St.1から採取された海底堆積物コアの写真(左)、X線CTによる透過X線画像(中央)とそのスケッチ(右)。海底面直下に通常時の堆積物とは構造の異なる泥を含むタービダイトが認められ、その下位に地震動によって破壊された堆積物が確認できる

今回の発見は、7月29日~8月5日にかけて行われた、海洋研究開発機構が所有する学術研究船「淡青丸」(たんせいまる・610t)による海底調査におけるものだ。

またタービダイトとは、「混濁流」(海水と堆積物が混ざることで周囲の海水よりも重くなり、重力によって斜面を下る流れのこと)から堆積した堆積物のことで、深海底において過去の地震発生履歴を知るための情報源として利用されている(ただし、洪水や大波などでも形成される場合がある)。今回の変形した堆積物は、タービダイトの直下にあり、海底で破壊された後にタービダイトが形成されたと推測された。これらの結果は、今回の地震による海底の擾乱(破壊、変形や崩壊)が震源域の広域で発生したことや、海底の振動が極めて大きかったことを示している。また、海底堆積物を用いて地震発生履歴を検討する上で非常に重要視されている次第だ。

東北地方太平洋沖地震による最も大きな地形的地質的な変動は海底に残されていると考えられる、実際に深海有人探査船「しんかい6500」によって海底の亀裂などが確認されているが、その詳細は必ずしも明らかになってはいない。つまり、今回の大地震でどのような変化が海底で生じたかを明らかにすることは、今後の日本周辺での地震研究ならびに地震による災害の軽減に重要だ。

産総研は日本周辺海域の地質情報整備のため、海洋地質図の作成を継続して行っている。東北地方太平洋地震が発生する以前の海底堆積物の情報も保有しており、それを活かして、産総研と東大大気海洋研、横浜国大は、東大大気海洋研が地震発生後に公募した震災対応緊急航海の課題「東日本大震災による深海底生生物相への影響評価」および「地震動にともなう海底懸濁層の発生と堆積についての研究」に対応して、今回の淡青丸による2011年度第17次航海(KT-11-17)海底調査を実施した。

第17次航海において、仙台沖~大槌沖の水深122~5500mの地点(画像2)で、海底表層の堆積物を不撹乱で採取するために開発された採泥器(堆積物採取装置)「マルチプルコアラー」によって海底堆積物資料(コア)を乱れのない状態のまま柱状に採取した。

画像2。第17次航海によるコア採取地点図。分析は、マルチプルコアラーによるコア(St.1、2、4、5、6、9、11A、12、13、14、15、19、20Mの13地点で採取)を使用した。St.20M以外の地点のコアに明瞭なタービダイトを認定

そのコアを産総研において、肉眼、X線CT装置、透過X線が増刷営巣地などを用いて観察。その結果、13地点の内の12地点で地震にともない発生した海底崩壊や津波によって形成されたと考えられるタービダイトがコア表層部にあることを確認した。

最も厚いタービダイトは、大陸斜面下部の水深5500mから採取したコアに確認。約25cm長のコアのすべてがタービダイトだった。

仙台沖の水深122mから採取したコアには、厚さ約11cmのタービダイトの下位に約5cmの厚さの破壊された堆積物を発見(画像3)。この破壊された堆積物には、より下位の底生生物によってかき乱された部分とは異なり、縦方向の筋状の割れ目が見られた。これは地震の強い揺れによって海底が壊れたために作られた構造と推測されている。

画像3。仙台沖のSt.1から採取された堆積物コアの透過X線画像(画像1と同じもの)。タービダイトの下位に縦方向の筋(割れ目)の入った堆積物が確認できる

このような大きな地震動による海底の破壊は、過去の記録では、1993年の北海道南西沖地震の際にも見られた。東南海地震の震源域である熊野沖でも見つかっている。

大陸棚~大陸斜面上部域と大陸斜面中・下部域のタービダイトの泥は色や組成がそれぞれ異なるので、タービダイトを構成する堆積物の供給源が異なっていることが示唆された。また、今回の地震原近くの水深893mから採取したコアのタービダイト(画像4)には、複数の浸食面が認められている。これは、複数回の混濁流の流下であった可能性があるということだ。

画像4。震源に近いSt.6から採取された堆積物コアの透過X線画像。タービダイト中には複数の侵食面が見られ、複数の海底斜面崩壊の発生が推測される

これらのことから、混濁流を発生させる海底斜面の崩壊が多くの場所で発生したものと考えられ、今回の地震による海底の擾乱が震源域の広域で起こったこと、そして海底の震動が極めて大きかったことを示している。

現在も以下の5つの点で分析中だ。1つ目は、北海道大学および産総研で行われている、今回の地震による土砂輸送であることを最表層堆積物試料の放射性元素の分析を通じての確認だ。2つ目は、産総研における土砂の供給源を特定するための堆積物の組成や構造の分析。3つ目は、海底の地震動の大きさを推定するための堆積物の物性や強度の測定で、これも産総研で行われている。4つ目は、産総研が1982年に取得したデータとの比較による堆積物ならびに底生生物の変化の把握による地震の海底環境への影響の解明で、横浜国大、静岡大、東大大気海洋研、産総研の4社が共同して分析中だ。そして5つ目は、海水中の濁度分布の解析による地震の海水/海底環境への影響の解明。東大大気海洋研が担当している。

今回の結果により、大規模な海底地震はその発生海域で地震性タービダイトを堆積させる能力を持つことが明確になった。この海域からより長い柱状の海底堆積物を採取してその中に残された地震性タービダイトの堆積年代を決定していくことで、長期間にわたる同海域の地震発生履歴の解明に貢献できるとしている。