Qorivva MPC5645S

次はPowerPCベースのMCUであるMPC5645Sの話である。このMPC5645Sのターゲットは、どちらかといえば低価格向けの計器パネル表示(Photo25)で、複数の表示パネルをMPC5645Sだけで制御する仕組み(Photo26)である。CPUはe200z4dで、これに2Dグラフィックと1MBのフレームバッファ用SRAM、及びその他必要な回路を集積する形だ(Photo27)。Technology Labでは動作デモ(Photo28)も行われていた。

Photo25:こんな具合に、複数の表示を切り替えながら行える仕組み。ただフレームバッファは1MBなので(外部に増設はできるが)それほど凝った事は不可能。

Photo26:ステッピングモータを使い、いくつかのアナログ(風)計器の駆動は可能だが、原則LEDは1枚だけとなる。

Photo27:FlexCANやLINなどをかなり沢山搭載しているのも特徴といえば特徴。グラフィックにはAMD(旧ATI)のZ160が搭載されている。

Photo28:液晶の下に措かれているのがサンプル基板。部品点数の少なさが良く判る。

ただ問題は、このマーケットにFreescaleはi.MXも投入していることだ(Photo29~31)。計器以外の用途も積極的(Photo32)だが、PowerPCベースで新たな用途を目指した例も展示される(Photo33)など、両者が混在している印象を受ける。

Photo29:i.MX53をLinuxで動かし、複数のOpenVG GPUを搭載して60fps表示が可能なデモ。1280×480/1440×540ピクセルの表示が可能。

Photo30:こちらはFordのSYNCの最新型。i.MX51を使い、MicrosoftのAuto 4.1をFreescaleのWinCE BSP上で稼動させている。

Photo31:これはまだ計器パネル表示というレベルには達していないが、i.MX53の上Automotive向けに最適化したAndroidを搭載したデモである。今はまだボタンを押して表示するといった、コントロールパネルとかナビ系を想定したデモである。

Photo32:これはi.MX53ベースのマシンにMicro Kernelベースの仮想化OSを乗せ、その上にAndroidベースのInfortaimentシステムとAUTOSARのautomotiveアプリケーションを同時に乗せて実行するというデモ。

Photo33:こちらはMPC5646C MCU上で構築したSecurity Demonstration。Secure Boot/Secure Comminicationg/Secure flashing/UDI(Unique Device Identification)を実施している例。

業界全体で言えば、特に計器パネルはARMベースのMCUに高性能なGPUを組み合わせたSoCを使うというパターンが多い。性能は専らGPUで決まるので、CPUコアそのものは通信と描画指示が主要な用途であり、なのでARM11クラスでも足りるというケースも見受けられるほどだ。もっともPhoto30のSyncの様なマルチファンクションデバイスになるとCPU性能も相応に必要になるからi.MX51/53クラスが使われることになるのだが、では逆にMPC5645Sの必要は? という事になる。このあたりについてTechnical Labの説明員に話を聞くと、「今はPowerPCはローエンド向けのみで、それ以上がi.MXであるが、ただ今後はPowerPCの性能も上がってくるから、そうなると少しずつ(i.MXが使われるような)上の方に広がってゆく」という説明だった。ただ同じ事をLehmann氏に聞くと「PowerPCは常にローエンドだ。もちろんPowerPCの性能は今後どんどん上がってゆくと思うが、それと同時にi.MXの性能も上がってゆくわけで、なので相対的な性能差は常にあるわけで、PowerPCはローエンド向けという形に変化はない」という説明だった。

これを筆者なりに解釈すると、問題なのは性能ではなく価格なのだろう。i.MXはどうしてもARMにライセンス料を支払う必要があるし、プロセスも一世代先(MPC5645Sは90nm、i.MX5シリーズは65nm)だから、ダイサイズが同じならば旧プロセスの方が安く上がる。だから、低価格性が強く求められる市場や車種にはPowerPCを、高機能とか高性能が求められる市場/車種にはi.MXをという切り分けをしているものと思われる。これはこれでリーズナブルな選択ではあるが、とはいえちょっと判り難いという印象を受けたのも事実だ。