16bit S12ベース MagniV
さて、こうしたMCUでちょっと目を引くのが、16bitのS12をベースにしたMagniVである。「今更16bitを?」というのが正直な感想なのであるが、このあたりをStephan Lehman氏(Photo13)がじっくり説明してくれた。
Photo13:Director, Global Automotive MarketingのStephan Lehmann氏。ただ会社名を見たらFreescale Halbleiter Deutschland GmbHになっていて、普段はドイツに居られる方の模様。 |
MagniVのコアそのものは、従来からFreescaleが自動車向けに投入している16bit MCUアーキテクチャで、ここには大きな違いはない。最大の違いは、新しく採用されたLL18UHVというアナログ/デジタル混載プロセスである。これは同社の180nm CMOSプロセスをベースとしているが、最大40Vまでのアナログ信号を混在させることが可能である。これを利用することで、MagniVは12V電圧で直接駆動される。
これによるメリットは部品コストの劇的な低下である(Photo15)。車載向けだから、基本的に12Vは車内どこでも入手できるが、逆にそれ以外の電圧が必要な場合はECU側でこれを作ってやる必要がある。旧来のMCUは大体が5V以下での駆動なので、少なくとも12V→5VのDC-DCコンバータがECU上に搭載される必要がある。
また入出力信号もそれなりに高電圧となるから、こちらも従来のMCUではそのまま扱えないので、入出力用にドライバを用意するか、もしくは高電圧に対応するコンパニオンチップを使う必要があった。こうした周辺回路をMagniVではすべてオンチップでサポートできるから、周辺回路が最小限になる訳だ(Photo15,16)。
実際、Freescaleの試算では部品コストを7割に、実装面積を4割に抑えることが出来るほか、エラー率も0ppmに近くすることが可能としている(Photo17)。
Photo17:SiPでもそれなりに効果は期待できるが、まだ下がる余地はあるしエラー率も1ppm程度発生しており、これを完全に1チップ化することで更なる改善が可能、という話である。これはこれでなかなか面白い。 |
さて、話をMCUに戻す。先もちょっと触れたとおり、現在FreescaleはAutomotiveの特に車体関連製品向けに、8bitのS08と、16bitのS12をベースとした製品展開を行っている(Photo18)。このうちS12に関してはかなり色々な製品が既に投入されている訳だが(Photo19)、今後はこのMagniVを更に他の用途にも適用してゆく事を明らかにした(Photo20)。
ここでLehman氏に質問したのは、S12をPowerPCベースに置き換える可能性はないのか? ということであったが、これははっきりと否定された。Lehman氏によれば「S12は既に長年にわたって自動車業界に採用されてきており、今後もまだ継続して供給を行うことを約束しているし、機能を考えた場合PowerPCはオーバースペックで、S12がちょうど良い」ということである。必ずしもアーキテクチャを統一するのは、こうしたマーケットには得策ではない(まぁ確かにパワーウィンドウとEFIでアーキテクチャを統一する意味がどの程度あるのか? と問われると微妙ではある)という話で、逆に今後は(Photo20に示すように)もっとMagniVを広く使ってゆくという話であった。
逆に言えばMagniVで使われるLL18UHVをPowerPCに適用した場合、ダイサイズはもっと肥大化するだろうし、パワーウィンドウの制御にそんなにハイパフォーマンスが必要な訳ではない。こうした車体制御向けには引き続き8/16bitのラインナップを幅広く展開してゆく、という話であった。
さて、このMagniVの最初の製品がS12VR64 MCUであるが、内部構造はこんな具合(Photo21)である。
これを使ったアンチピンチ機能付パワーウィンドウ制御の仕組みがこちら(Photo22)となる。会場では実際にこれの動作デモ(Photo23,24)が行われた。アンチピンチはホールセンサで窓の位置を常時監視することで、指を挟んだことにより窓の上がり方が鈍ったら即座にそれを検知、窓をとめる仕組みである。これを安価なホールセンサだけで実現できるのがこの技術の肝である。もちろん部品コスト自身はホールセンサを追加する分上がるが、その一方で周辺ディスクリート部品や基板サイズを節約できる分で相殺できるため、従来と同じコストで新たにアンチピンチ機能を追加できる(もしくはアンチピンチを省けば、従来よりも安価にパワーウィンドウが構成できる)というのが、ここでのポイントという訳だ。