2010年6月、Adaptecが半導体ベンダのPMC-Sierraに買収された。Adaptecといえば、SCSIが全盛期だった10年以上昔にお世話になった方も多いと思う。一時期、半導体設計部門を売却し、各種の通信カードを販売していたが、2008年同社は再び半導体設計技術を自らの物とし、チップの設計から各種ボードの提供まで行う業態に転換を果たしていた。そんな同社が何故、PMCに買収されるに至ったのか、そして今後はどうなっていくのか、かつてAdaptecのスタッフで、現在はPMCのVice President&GM,Channel Strage Division(CSD)であるJared Peters氏に話を聞いた。

買収の経緯

AdaptecがPMCに買収された理由を簡単に説明すると、2008年ころから、アクティビスト・ヘッジファンドであるSteel Partnersが同社の株を買い始めたことが発端となる。「そのころ我々は株価のわりにキャッシュを多量に保有していた。そこが狙われた」とPeters氏は当時を振り返る。

PMC-SieeraのVice President&GM,Channel Strage Division(CSD)であるJared Peters氏

その後も株の買い増しを続けるSteelに対し、自社を守ろうと当時のCEOがほかの株主に呼びかけを行うも、多くの株主がSteel側の提案に応じ、結果CEOは解任、Steel側が主導権を握ることとなり、Peters氏はこの後、同社の実質的な事業遂行の責任者として立ち回ることとなった。

その後、Steelが同社の事業資産の売却を検討。実際に同社の買収に手を上げたのは「複数あった」(同)とのことだが、その中において、「PMCが一番マッチすると感じていた」(同)とする。その理由をPeters氏は、「PMCは通信機器向けチップなどを中心に手がける半導体ベンダ。SAS 2.0対応のサーバ向けRAIDコントローラチップなども他社に先駆けて提供するなど実績を有していた」と、通信分野という親和性の高さを強調する。

PMCの概要。SAS 2.0対応サーバ向けRAIDコントローラチップなどを他社に先駆けて出すなど、通信関連などで強みを発揮している

こうしてPMCは2010年6月にAdaptecの社員、IP、技術のほとんどを買収した。「CSDのセールス、マーケティング、エンジニア、サポートスタッフ、すべてが元Adaptecで、その数は約100名。代理店も変わっていない」というので、逆にAdaptec Storage Divisionでも良かったのではないかと聞いたところ、「そうしたかったが、社内的な問題でできなかった」との回答をいただいた。

左はPMCの2003年と2010年9月末から過去12カ月の売り上げ比較。ネットワークのトラフィック増大にともなう、ストレージ要領の増加が追い風となっている。右はPMCが狙う市場規模の推移予測。RAIDアダプタ市場の成長が予測されており、そうした意味でもAdaptecの買収は両社にとって良い方向に動くという

半導体からボードまでを1社で提供 - ブランドはほぼ継続

PMCの一部となったAdaptecは、すでに会社組織としては存在していない。ブランドもこれまでの「Adaptec」から現在はデザインはほとんど変更されていないものの「Adaptec by PMC」というものへと変更されている。

PMCにおけるCSDの概要。チップ技術のPMCと世界的な知名度を有するAdaptecの融合は、より良い方向に向けたビジネスの拡大へと続くものと同社では説明している

今後は、PMCが開発、製造したチップをAdaptecブランドのボードに搭載して市場に提供するということだが、ここで1つ疑問が生じる。というのもAdaptecは2008年にRAIDチップやストレージ向けチップなどを手がけていた米Aristos Logicを買収して、半導体設計技術を手に入れていたからだ。それについてPeters氏は、「Aristosの資産はPMCは買収していない」という。そちらの資産を中心に旧Adaptecの一部の資産はAdaptecから分社されたAdptという会社に引き継がれており、Steelの傘下に収まったままだという。

「確かに我々は(旧Adaptec時代に)自社で半導体設計技術を獲得し、それを搭載しようというロードマップを描いていた。しかし、PMCの方がSAS 2.0においてはより先を行く技術を有している。いわばリーダー的な存在だ。これにAdaptecというブランドが足し合わされたということを考えると、自分達ですべてを行おうとするよりもベストの組み合わせだと思っている。まさに"Very Good Marriage"だ!」とこの買収が非常に良い方向に動いていることを強調する。

旧Adaptec側の人間としては、「Adaptecというブランドのインタフェースボードにさらなる価値を上乗せしてくれる優秀なチップ技術が欲しかった」ということが本音であり、そういった意味では、「そうした技術分野で強みを持っているPMCが買収してくれたことは、ブランドの将来を考える上で、非常に安堵している」という面もあるという。

「AdaptecというSCSIの時代から築いてきたブランドは世界規模で通じるものだ。そこにPMCの半導体技術力が加わることで、新しいAdaptecが誕生した。半導体+インタフェースボードとなった今は、なにやら10年ほど以前の、半導体技術を手放す前のAdaptecに戻ったような気分になっている」と、新しい会社であるが、どこか懐かしい感じもしているという。確かに、半導体を自ら設計、自社製品に搭載していたかつての姿が新生Adaptecの姿に被らないことはない。

Peters氏もそれは否定せず、「確かに我々は新たな事業体となったが、感覚的にはどこか懐かしい時代のAdaptecに戻った感がある」と述べている。しかし、今後はAdaptec by PMCという新たなブランドとしての成長も目指すとしており、「将来的には(Adaptecという名称を)、Coca-Colaのような誰でも知っているブランドに成長させたい」と将来に向けた意気込みを語ってくれた。