通信業界再編案は「天下三分の計」

市場構造におけるアンバランス、という問題を解決するためには、携帯キャリア最大手の中国移動を対象にしなければならない。しかし、今回の通信業界再編にあたっての最も基本的な共通認識は、旧中国電信が中国電信と中国移動に分割された2000年に続く、中国移動の再分割を行ってはならない、ということであった。

中国移動の過去数年来の発展は、きわめて順調だった。確かに、そこには政策サポートがあったという要因もある。だが、同社の企業としての実行力、マネジメント能力も高く評価されるべきだろう。中国政府の立場からすれば、同社がせっかくここまで実力をつけてきたので、国際市場での競争にも参入できるよう、このまま順調に成長させたいという思いがある。

2000年の通信業界再編では、強大な旧中国電信が中国電信と中国移動の2社に分けられた結果、中国電信が経営不振に陥った。さらに、2002年の中国国務院の通信事業再編政策により、中国電信が新中国電信と中国網通集団(チャイナネットコム)とに南北2分割。

この中国網通も、さらに深刻な経営不振に直面。このような状況が再び発生することは許されない。このため、市場構造のアンバランス問題を調整しつつも、中国移動の発展に影響しないよう細心の注意を払うことが、中国政府の基本的な立場であった。

中国電信による中国網通の合併は再編のコストが比較的低く、企業文化も近いため、どちらかと言えば、困難は少ないだろう。両社が合併すれば、固定電話ネットワーク領域での実力は、とても他社が追随できるレベルではなくなる。もしそうなれば、中国聯通が相対的に弱体化することは明らかで、中国移動と中国電信にこっぴどく挟撃されることだろう。

こうして見てくると、中国聯通と中国網通の合併などの現在の再編案は確かに理屈が通る。全体的に見れば、各方面のバランスを満遍なくとろうとすれば、選択できる案はそうそう多くないからだ。こうして六社体制だった大手通信キャリアは、中国電信、中国移動、中国網通・中国聯通を核とした「天下三分の計」に落ち着いた。だが、この先本当に天下三分の態勢になるかどうかは、まだまだ予断を許さない。

中国移動は今後もモバイルに専念

興味深いのは、業界再編を伝えるニュースが報道されてから、国内の資本市場が3G関連株を好感。ストップ高となった銘柄が続々と現れ、中国聯通の株価も大幅に上がったことだ。

だが、同じ頃、香港証券取引所では中国移動の株が売られていた。香港の株式市場は中国通信業界の再編を注視していたが、中国移動の先行きについては必ずしも楽観的でないと市場が判断したということだ。少なくとも、短期的には先安との見通しを立てたということである。

一部の投資銀行も、中国における通信業界再編と、中国移動が直面している圧力に対し、懸念を表明していた。通信業界再編というビッグニュースは、すぐに中国聯通と中国網通の株価上昇という形で反映した。しかし競争の激化にともない、中国移動の株価は今後も弱含みになるかもしれない。なぜなら、通信業界再編と3Gライセンス交付は、そもそも中国移動の一人勝ちの状況を是正することを目指すという動機で始まったからである。

業界筋によると、通信業界再編は業界の構造を変えるが、中国移動の地位は変わらず、少なくとも今後2年間は中国移動がトップの座を維持する。その後、他社の努力次第で市場構造に変化がもたらされる可能性はあるが、中国移動が相変わらず一人勝ちを続ける可能性も否定できないという。

市場は、おおむね中国移動の将来を楽観視している。今回の再編も、中国移動にとっては大きな影響はなく、中国移動による中国鉄通の吸収合併も、あくまでも中国鉄通の落ち着き先を確保するため、と受け取られている。

中国移動が中国鉄通の力を借りて固定電話市場に踏み込もうとしている、などという見方は間違っている。固定通信ネットワークの運営は、すでに魅力のない事業だからである。中国移動はこの先もモバイル市場での発展に専念し、GSMネットワーク運営や、TD-SCDMAの構築に注力するものと見られている。