低周波ノイズへのゼロドリフトの影響

ゼロドリフトチョッパ安定化アンプは、低周波での正確で高ゲインの増幅に特に適しています。一般に、リニアオペアンプのような広帯域幅は備えていないため、エイリアシングに関するセクションで説明したように、クロック周波数により、信号忠実度に対して周波数の実用限界を規定します。このため、低周波における性能が特に重要となりますが、チョッパ安定化アーキテクチャでは、従来のリニアオペアンプの1/f入力電圧ノイズ(図14参照)を除去することにより、低周波で一層有用性が高くなります。

高ゲインのセンサアプリケーションの多くは低周波であるため、この機能にはゼロドリフトアンプが当然の選択となります。ここで「低周波」という用語を使用しているにもかかわらず、これらのアンプでは一般に約100kHzまで優れた性能が得られます。

  • オペアンプ

    図14 従来のアンプ(NCS2005、プロット(a))およびゼロドリフトアンプ(NCS333、プロット(b))の電圧ノイズ密度のプロットは、ゼロドリフトアンプにおいて1/fノイズが除去されていることを示している。従来型アンプのプロットが10Hzで止まっているのに対し、ゼロドリフトアンプのプロットは1Hzまで拡大されている点に留意

電圧ノイズと同様に、チョッパ安定化では、1/f電流ノイズも除去されます。しかし、チョッパ安定化アンプは、入力スイッチの電荷注入により、チョッピングからの入力電流ノイズの増加が見られます。この電流増加により、電圧ノイズのレベルと同等以上のノイズを生じる入力インピーダンスのレベルが低下します。1kHzでの入力電圧ノイズが62-nV/√HzであるNCS333を例にとると、350-fA/√Hzの入力電流ノイズは、177kΩより大きな入力インピーダンスを使用すると、入力電圧ノイズを超えるノイズになります。

これと比べると、ゼロドリフトオートゼロアンプは、ベースバンドまでエイリアシングノイズの発生が低下します。このことは、入力信号が直流または低周波の場合には、オートゼロアーキテクチャはチョッパ安定化アーキテクチャに比べ不利になります。

入電流へのゼロドリフトの影響

すべてのゼロドリフトアンプには、チョッパ安定化手法に起因する入力電流スパイクが存在します。この電流スパイクは電荷注入とクロックのフィードスルーによって発生します。入力電流は平均化されIIBという仕様になりますが、入力バイアス電流は正確には一定ではありません。実際には、入力電流スパイクはクロック周波数にともない周期的に発生します。

入力電流が入力抵抗を流れるため入力電圧スパイクとなり、ゲイン倍されます。電圧スパイクを最小限に抑えるために、大きな入力抵抗値を使用することはお勧めできません。入力電流スパイクは、図13に示したように、単純なローパスRCフィルタを用いてフィルタリングできます。フィルタの周波数は、チョッパのサンプリングレートよりも低く設定する必要があります。

さらに、入力電流スパイクのために、ゼロドリフトアンプは、入力電流を測定するように設計されているトランスインピーダンスアンプの候補としては劣ることになります。

SPICEモデルでのゼロドリフトの影響の欠如

SPICEシミュレーションでは、ゼロドリフトアンプのエイリアシングなどの挙動についての洞察は得られません。ゼロドリフトアンプのSPICEモデルはすべて連続時間モデルです。SPICEモデルは、可能な限りオペアンプの線形性能に近いモデルとなるよう設計されています。チョッパはモデル化されていません。クロック動作およびサンプリング系のシミュレーションはずっと遅いため、SPICEモデルは連続時間です。

結論

ゼロドリフトアンプは最高の直流および低周波性能を発揮します。ゲイン帯域幅積は、特に内部クロックがこの帯域幅以内であるため、ゼロドリフトアンプ回路の実用帯域幅を決定するには理想とは言えない仕様です。最高性能を実現するには、内部クロック周波数を知っている必要があります。内部クロック周波数は、必ずしも利用可能とは限りませんが、他のヒントやテストによって判明することがあります。

本稿を執筆するにあたり、NCS325のエイリアシングを見い出し、指針を与えてくださったJerry Steele氏に感謝します。

著者プロフィール

Farhana Sarder
ON Semiconductor
アプリケーションエンジニア

アナログ回路設計のバックグランドを有し、高精度オペアンプ、電流検出アンプ、コンパレータなどのアンプ製品を専門としています。
電気工学修士号を取得。