X(旧Twitter)、Facebook、InstagramといったSNS上で、芸能人や著名人の名前で投資を呼びかける広告を見たことはないでしょうか。あの広告は、ほぼ投資詐欺を狙ったものです。
警察庁の調べによると、架空の投資話を持ちかける「SNS型投資詐欺」、そして恋愛感情を抱かせて金銭をだまし取る「ロマンス詐欺」の被害額が、2023年は約455億2,000万円に上ったそうです。これは、2023年の特殊詐欺における被害額の約441億円を上回ります。特殊詐欺よりも、被害金額の単価が大きいことが影響しているのでしょう。3億4,000万円もの金額をだまし取られた人もいたそうです。
なぜSNSで投資詐欺にあってしまうのでしょうか。今回は、SNS型投資詐欺がどのような手口で行われるのか、実際に広告の先へ行ってみました。あくまで検証目的なので、日常生活のなかでたとえ興味をそそられても、こうした広告は絶対にクリック(タップ)しないようにしてください。
FacebookやInstagramで勧誘されてLINEへ
FacebookやInstagramに表示される有名人のなりすまし広告では、本人であるかのようにこれまでの人生を語り、投資によって救われた、もしくは桁違いのお金持ちになれたなどと書かれています。
広告の「詳しくはこちら」に進むと、投資のすばらしさを語るページに移り、投資の基本やノウハウを教えるので完全無料の投資講座へ参加するように促されます。そのために、有名人本人を装ったLINEアカウントを友だち追加するように言われます。有名人とLINEでつながれると、喜ぶ人もいるかもしれません。
実際に、3つのなりすましアカウントとつながってみました。
1つめは、「優良株の銘柄コードを入手したいのか、それとも知識を学びたいのか」と尋ねてきました。特に答えずに返事をすると、投資知識と銘柄コードを教えるというオープンチャットに登録するように言われました。そして、自分は忙しいからとアシスタントのLINE公式アカウントを友だち追加するように言ってきました。
2つめと3つめのアカウントも同様に、何を学びたいかを尋ねられたのちに、LINE公式アカウントを追加するように言ってきました。このLINE公式アカウントは最初の有名人とは違い、「投資に詳しい人だ」と紹介されます。この段階で、有名人とは関係のない、投資を指南するLINEアカウントとつながった状態になります。
ちなみに、「LINE公式アカウント」とは企業や店舗などが顧客との連絡に使うためのアカウントですが、個人でも開設でき、無料プランも用意されています。つまり「公式」とは呼ばれていますが、LINEヤフーに認証されているアカウントというわけではありません。
そこで紹介されたオープンチャットには為替の情報などが流れてきて、メンバーからお礼のメッセージが返されています。私がつながったLINEアカウントはそれほど動きが活発でないのか、今のところ投資話を持ちかけられていません。
警察庁の調べでは、何度かやり取りを重ね、深いつながりができた段階で信用させて投資話を持ち出してきたり、サクラと思われる別のグループメンバーからも後押しさせることで投資を促したり――といった手口が使われるそうです。そして、指定の口座に振り込みをするように繰り返し言われ、詐欺だと気づいたときには多額の被害を受けているのです。
こうしたやり口は、若者が性被害に巻き込まれるときの「オンライングルーミング」と同じです。時間をかけて相手を信頼させ、相手が油断したと確信したら犯行に及びます。「ロマンス詐欺」も同様。相手を信じているからこそ、大金を振り込んでしまうのでしょう。言葉巧みに誘導してくる犯人に出会ってしまうと、誰もが罠にはまる危険性があるのです。
たとえ有名人を使った広告が表示されても、クリックしてはダメ(こうした詐欺広告は本人に無断で画像を使っています)。一度クリックすると、それ以降は何度も表示されるようになってしまいます。表示だけなら問題は起きませんが、段々と興味を持つようになってしまっては大変です。
有名人をうたっている場合は、本人が発信しているアカウントを検索して発言を確かめてみる方法もあります。「投資指南はやっていない」などの発表をしているかもしれません。
また、FacebookやInstagramの広告では、広告を出しているアカウントが表示されます。筆者が確認したところ、大手企業や有名番組を装うアカウントや、広告のためだけに作成したと思われるアカウントが多く見られました。広告が気になった場合は、このように広告を出稿しているアカウントを確認してみるのも良いかと思います。
プラットフォームが詐欺広告への対応をすべき
SNSに表示される有名人のなりすまし広告は、なぜ後を絶たないのでしょうか。2022年9月9日、Facebook Japan 代表取締役 味澤将宏氏は報道関係者向け事業説明会で、「深刻に受け止めており、人力とAIによって対応をしている」とコメントしました。しかし、一年半以上が経過しても詐欺広告が減っているとは思えません。Metaの広告ライブラリを見ても、数多くのなりすまし広告が表示されます。
警察庁の資料を見ると、SNS型投資詐欺、ロマンス詐欺とも、男性はFacebook、女性はInstagramで被害に遭う確率が最多。広告だけでなくDM(ダイレクトメッセージ)による接触もあるそうですが、広告では名前や顔を使われた有名人も大きな迷惑をこうむっています。投資詐欺師はGoogleにもなりすましの広告を出稿しているため、Google検索の結果にも注意です。プラットフォームとして、早急に対応すべき事案だと考えます。
また、ビジネス系SNS「LinkedIn」やマッチングアプリ「Tinder」で投資詐欺にあった人もいるようです。こちらのファーストコンタクトは広告ではなく、メッセージです。
どのSNSやWebサービスでも怪しい人がはびこっています。うまい儲け話はないことを改めて念頭に、ネットを利用するようにしましょう。もし詐欺被害に遭ってしまったり、不安を感じたりしたら、消費者ホットライン「188(いやや!)」に相談することをおすすめします。