ガラケーやパソコンでネットを使っていた世代にとって、ネットで知らない男女が出会うサービスといえば「出会い系」を思い浮かべる人が多いでしょう。当時の出会い系サービスは、一時的なお付き合いを求める男性が多く登録していて、課金し続けても実際に会うことができず、女性はサクラだった……ということも少なくないサービスでした。

しかし、今は「マッチングアプリ」が増え、本気で交際相手や結婚相手を探す人も利用しています。マッチングアプリのほとんどは公的な身分証明書による本人確認が必要で、男性は月額制の課金をして利用するなど、健全に利用できるように配慮されています。SNSやメッセージ機能に慣れ親しんでいる世代は、マッチングアプリをどのようにとらえているのでしょうか。

  • マッチングアプリで幸せな出会いを見つけた人がいる一方で、「出会い」をきっかけにした詐欺などのトラブルも増えています

テスティーが2021年7月に公表した調査によると、マッチングアプリの利用経験を持つ20代は51.2%、30代は42.5%と、約半数の結果でした。とはいえ、「現在も利用している」と回答した人は20代で19.1%、30代で16.8%であるため、試しに登録してみただけの人も多そうです。

私が10代~20代の若者たちに聞いたところ、「ネットで知り合った人と会うことには抵抗がある」「性的な目的を持った人しかいないような気がする」という考えで利用していない人がいた一方、「実際に出会って付き合っている」「共通の知り合いがいる人とマッチングして驚いた」など積極的に使っている人も。シンガポール在住の知人からは、マッチングアプリへの抵抗感を持っている人は少ないとの意見も聞けました。

Tinderの安全対策は日本向けにも行われている

マッチングアプリのひとつに「Tinder」があります。Tinderは2012年にアメリカで誕生し、190の国と地域、45以上の言語で使えるアプリです。利用者の過半数は18歳から25歳の若者であり、日本では利用経験のあるマッチングアプリとして5位(18.5%、MMD研究所調べ)に入っています。

Tinderは男女とも無料で利用できることから、婚活などよりも気軽にデートを楽しみたい人たち向けという印象が多いようです。そのため、トラブルも割と多いイメージを抱いているユーザーもいるかと思います。Tinderの安全対策について、Tinder 安全対策統括責任者のローリー・コゾル氏によるメディア向けラウンドテーブル(2023年5月30日開催)から紹介しましょう。

  • Tinder 安全対策統括責任者 ローリー・コゾル氏

コゾル氏は「日本は安全やプライバシーに関して意識が高い国」と認識しています。アメリカではTinderを利用するとき、自分のFacebookアカウントを登録しなければならないのですが、日本のユーザーからは知り合いに自分のプロフィールを見られたくないとの要望があったそうです。

そこでTinderは、「連絡先ブロック」機能を用意しました。連絡先ブロックとは、Tinderに表示させたくない相手の連絡先を事前に指定し、アプリ内で顔見知りに遭遇することを避ける機能です。

「リサーチの結果、連絡先をブロックすることがもっとも効果的だと判断しました」(コゾル氏)

また、「顔写真を載せたくない」との声も日本からあるそうです。この点についてコゾル氏は、「世界のほかの国ではそれほど気にしないのですが、日本の人たちは恥ずかしいから顔を出したくないと考える人が多くいます。顔を出さなくても自分らしさを表現できる方法を開発中です」と話しました。コゾル氏のお話から、情報の公開範囲を細かくコントロールしたいという日本ユーザーの要望も反映されていることがわかりました。

Tinderは、安全性やプライバシー機能に関する情報をまとめている「セーフティセンター」や、コミュニティを安全に保つための「コミュニティガイドライン」を用意し、安全なプラットフォーム作りを進めています。また、メンバーが不快に感じる可能性があるメッセージを検知し、送信側には送る前に警告を出す、受信側には違反報告をしやすくする「迷惑メッセージ防止機能」を提供しています。

  • Tinderの迷惑メッセージ防止機能は、送信前に警告を出します

「どういう会話が適切で、どれが不適切か、意図が合わなかったか――といった範囲をパターン化することは非常に難しいのですが、こちらから問いかけることはできます。それがもっとも精度が高く、良い手段だと考えています」(コゾル氏)

青少年保護の面では、メッセージのやり取りを行う前に18歳以上であることを身分証明書で確認する必要があります。なりすましを防ぐために、プロフィール写真が本人であることを確認する「自撮り動画による認証機能」も搭載しました。

コゾル氏は、「Tinderはお互いがLIKEすると初めてDMでやり取りできるようになります。公園やナイトクラブ、バーといったリアルな場所では、左にスワイプ(拒否)することはできません。これこそがTinderのDNAであり、もっとも安全な機能だと思っています」と締めくくりました。

  • 自撮り動画による認証機能でなりすましを防ぎます

各プラットフォームがどれだけ安全対策を行っていても、人と人が出会うアプリには悪意を持った人が入り込んでしまうものです。国民生活センターによると、出会い系サイトやマッチングアプリなどをきっかけとする投資詐欺は2021年度に大きく増加しています。

マッチングアプリを利用するときは、プラットフォームが提供する安全対策の機能をよく調べて活用してほしいと思います。実際に会うことになったら、合う前に相手が安全な人物なのかをしっかり確認してください。もっとも、悪意を持って近づいてくる人間は素性を巧みに隠すので難しいのですが、疑ってかかるスタンスや警戒感はなくさないようにしたいものです。