最近、X上で海外のユーザーに呼びかけるような投稿をよく見かける。
当初その投稿のほとんどが「海外のみなさん…聞こえますか?…」と脳内に直接語りかける口調だったため、ついに電脳化が実現したのかと思ったが、実現したのは「自動翻訳機能」だったようだ。
元々Xには翻訳機能がついており、タップ一つで翻訳が可能だったのだが、今回のアップデートにより自動的に翻訳表示されるようになったらしい。
つまり日本語でつぶやいた投稿が、何もしなくても外国語で海外勢のTLに出現しているかもしれない、ということだ。
よって、海外ニキやネキたちが見ていることを期待して手を振るような投稿が多く見られ「俺たちヒョロガリ焼肉マンたちに、本物のバーベキューを教えてくれ」という日本の呼びかけにアメリカンたちが呼応し、膝小僧に貼れてしまうようなカルビを肉と呼んでいたことが恥ずかしくなるような本場BBQを披露するなどの異文化交流も行われたようだ。
この自動翻訳機能は、概ね好評であり、ほほえましい投稿ややりとりが増え「荒れていたXが一気に平和になった」という声さえ目にした。
Xの怒り誘発システムが翻訳でマイルドに
私はこの意見に当初、懐疑的であった。
「世界最大規模の下水道」
これは前パリ市長がXを退会する時に放った捨て台詞であり、長らく私の心のベストテン第一位と言えるXの汚名だったのだが、最近「喧嘩マッチングアプリ」という、それに並ぶ秀逸な罵倒を見つけた。
正確にはXというより、Xのおすすめ欄のアルゴリズムがそうなっており、とにかく喧嘩が誘発されそうな投稿、もしくはすでに大喧嘩している投稿が表示されやすくなっていた。
怒りというのは最も伝染しやすく、不快なのに何故か中毒性がある感情なため、Xのおすすめ欄を一度見始めると、自分に直接関係ないことでムダに怒り狂った上に小一時間経過しているのが普通になってきた。
ここまで「体に悪い上に時間の無駄」と断言できるものは覚せい剤以来である。
少なくとも感情的になりやすい私にとっては危険なものなので、最近は意識的におすすめ欄は封印している。
Twitter時代から15年以上、Xを一日62時間見続けた私が「見るに堪えない」と感じるのはただ事ではない、ついにガンジーが助走なしで人を殴り殺せるようになったぐらい汚染されているということだ。
それが、海外のつぶやきが入って来た程度で浄化されるものか、という話である。
相手は同じ人間なのだから、むしろ自動翻訳により国境を越えた喧嘩がはじまり、リアルストリートファイターと化すだけなのではないか。
そう思っていたが、確かに「翻訳」を挟むことにより、やりとりがマイルドになり、TLが穏やかになる、という現象はあるような気がしてきた。
私は、去年アイドルのオーディション番組にハマっていたのだが、日本製の番組は見ずに海外のものばかり見ていた。
オーディション番組とは、アイドルになりたい一般人が集められて審査を受け、勝ち残った者がデビューできる番組である。
おもしろいのだが、審査員からは厳しい言葉が飛ぶし、チーム戦もあるため候補者同士の諍いも起こる。
これを、ディテールやニュアンスまで理解できる日本語による「生の声」で見るのは厳しいと判断し「翻訳」というオブラートに包まれる海外版ばかり見ていたのである。
翻訳もかなり正確なのだろうが、やはり翻訳特有の堅さが残っており、生々しさがかなり軽減されるのだ。
Xの場合自動翻訳なので、オブラートがさらに厚く、ボンタンアメみたいな投稿が増えてTLが穏やかになるというのは確かにありそうだ。
しかし翻訳が若干拙いことにより、あどけないやりとりができる一方で、細かいニュアンスやスラングが伝わらず誤解を招くパターンもあるようだ。
「ち、ちくしょう!悪魔!人殺しっ!ああああ~!」
日本のインターネット野郎であれば、これが相手のベッドテクを褒める最高の賛辞であると瞬時に理解できるが、外国人、もしくはゴルゴ13のことなど知らない人間からすると急に言葉の限り罵倒されたとしか感じないだろう。
実際、日本の絵師が海外の人から「その絵を消せ」と言われ、ショックを受けて消したが、実はオタク特有の「待って無理」的な表現であったことが判明する事故も過去に起こったそうだ。
良さみの限界を超えたオタクが「しんどい」「死ぬ」など否定的な言葉を口にしてしまう現象は日本だけではないようだが、それを誤解なく翻訳して伝えるのはまだ難しいようである。
最近は「死ぬ」に代わる柔らかい言い方として「滅」が広まり、日本人には大体通じるようになってきているが、これも翻訳を通すと「突然日本人に『滅び』を願われた」と、ある意味死よりも強く伝わってしまうかもしれないので、海外に向けてのスラング使用はまだ慎重に行う必要がある。
