日本で一番売れているスマートフォンはiPhoneシリーズですが、全世界で見ると1位はサムスン、2位Apple、3位シャオミというのが2021年の結果でした(IDC調査、出荷台数ベース)。それでは世界で一番売れたスマートフォンはどの機種だったのでしょうか? サムスンやシャオミは年間10機種以上を出しており、ハイスペックな高価格帯のモデルから格安なエントリーモデルまで様々な製品を販売しています。それに対してAppleはiPhoneの年間新機種数は数モデル。そのため1機種当たりの販売台数はAppleが常に上位に位置します。

  • 機種別出荷台数でiPhoneは常に上位にランクインする

Omdiaの調査によると、2019年に一番出荷台数の多かったスマートフォンはiPhone XR、2位はiPhone 11でした。翌2020年を見ると1位がiPhone 11、2位がiPhone SE(2020年モデル)。2020年はiPhone 12シリーズが登場しましたが、販売開始時期が例年より1か月遅れたこともあり、値段も手ごろになったiPhone 11がよく出たようです。

それでは2021年はどうだったのでしょうか? Omdiaは2021年第4四半期のデータを発表していますが、下から見ていくと、4位がiPhone 11、3位がiPhone 13、2位がiPhone 12でした。iPhoneの基本モデルが3世代にわたって上位を占めるとはさすがというべきでしょう。ところが1番になったのはiPhoneではなかったのです。2021年に出荷台数が一番多かったスマートフォンはサムスンのGalaxy A12でした。

  • 2021年に最も売れたスマホはGalaxy A12だった

Galaxy A12はチップセットがメディアテックのHelio P35というエントリークラスの製品です。日本でもGalaxy Aシリーズは低価格モデルとして販売上位に顔を出すことがありますし、日本でサムスンのシェアがここ数年高まったのもAシリーズが好調だったからです。Galaxy A12の価格は約150ドル、2万円以下であり、シャオミなどは同等スペックでより低価格なモデルを出しています。しかし低価格なスマートフォンを選ぶ際に、サムスンのブランド力や信頼性を重視する消費者が多くいるのでしょう。

Omdiaの調査を見てみると、上位10モデルのうちAppleは7機種が入っています。残りの2機種は5位にシャオミの「Redmi 9A」、10位にサムスンの「Galaxy A02」が入りました。どちらもGalaxy A12よりさらに安いエントリーモデルですが、新興国を中心に売れまくりました。一方、iPhoneの7機種の中には「mini」モデルは入っていません。世界的に小型モデルの人気はあまり高くなかったと言えそうです。

  • 2021年第4四半期の機種別出荷台数(Omdia)

2020年と2019年のトップ10のラインナップも見てみると、やはりiPhone以外でランクインしたモデルはGalaxy AシリーズとRedmiシリーズでした。グローバル総合で1位と3位のサムスン、シャオミですが、フラッグシップモデルでユーザーの興味を引きつけブランド力を高めつつ、中低価格モデルを大量に販売していることがわかります。

  • 2020年と2019年の機種別出荷台数(Omdia)

さてサムスンとシャオミの中低位機種が売れていることで、スマートフォンの心臓ともいえるチップセット(SoC、System on Chip)の出荷台数のシェアにも大きな変動がみられました。クアルコムの名前を聞いたことがある人も多いと思いますが、同社は長らくスマートフォンSoCの代表メーカーでもありました。またAndroidスマートフォンメーカーのフラッグシップモデルは今でもほとんどがクアルコムの最上位Socを搭載します。

  • クアルコムはスマートフォンのSoCのトップメーカーとして君臨してきた

ところが最近になり台湾のメディアテックがクアルコムを抜き去りました。メディアテックは中低位機種向けSoCに強く、中国メーカーの多くも低価格機種に採用しています。また自社でSoC「Exynos」を製造開発しているサムスンも、低価格機にはメディアテックのSoCを搭載しています。ちなみに2021年のスマートフォン機種別ランキングで、iPhone以外の3機種はいずれもメディアテックのSoCを搭載していました。

  • スマートフォンSoCのシェア。棒グラフの左が2020年Q4、右が2021年Q4(Counterpoint)

Counterpointの調査によると、2021年第4四半期のSoCの出荷数シェアは1位メディアテック、2位クアルコム、3位Apple、4位UNISOC、5位サムスン、6位ハイシリコンでした。ちなみにUNISOCは以前はSpreadtrumという名称で、今でも低価格タブレットなどに採用されています。またハイシリコンはファーウェイの子会社であり、ファーウェイのスマートフォンが採用しています。しかしアメリカ政府の制裁により、現在はSoCの製造が行えない状況になっています。

スマートフォンの技術をけん引するのはハイエンドモデルであり、ディスプレイ、カメラ、バッテリーなどに最新の技術が惜しげもなく投入されます。チップセットの世界も同じことが言えるのです。とはいえ低価格なSoCであっても出荷台数が増えれば、製造技術も向上します。また利益が増えれば技術革新に対する投資も行えます。Appleと互角の出荷台数を誇る低価格スマートフォンがメディアテックのSoCを採用し、メディアテックが1位になったことで、同社の技術力はここ数年急激に高まっています。

  • メディアテックは5G対応SoC「Dimensity」も開発、多くのメーカーが採用する

2022年は新型コロナウイルス蔓延からの回復が進む一方、ウクライナ情勢などまだまだ先が読めない1年になりそうですが、果たしてどのスマートフォンが一番売れるのでしょうか。日本でも売られているスマートフォンがどのくらいランクインするのかも気になるところです。