今回から価格が10万円を切るノートPCを短期集中で紹介していく。2020年の6月にも同様の企画を「ある事情から国民全員が手に入れることができるようになったお金で買えるノートPC」として掲載したことがあるが、それとは別にして(また同様な施策があるとかないとか関係なく)、10万円を切るノートPCというのは、特に法人や個人事業主にとって経費として一括計上できることから重宝する。
こういう事情から10万円を切るノートPCは、主に法人導入用としてPCメーカーもラインアップをそろえていた。ただ、費用を抑えるためにCPUのグレードを抑えたり、ディスプレイの解像度を下げていたり、システムメモリの容量がWindows 10を快適に動かすのには不足していたり、キーボードがカチャカチャと華奢だったりと、何かした我慢を要するモデルが少なくなかった。
しかし、最近では十分なスペックと高い処理能力を確保しながらも価格を10万円未満に抑えたモデルが登場してきた。そこで今回は、
- CPUにRyzenシリーズ
- システムメモリは8GB以上
- ストレージはSSD
以上の条件をそろえたモデルを短期連続でレビューしていく。今回は、日本HPの「HP ProBook x360 435 G7」を取り上げる。
Ryzen 3 4300Uで優れた費用対効果を発揮
「HP ProBook x360 435 G7」は、13.3型ディスプレイを搭載した2-in-1 PCだ。ディスプレイが360度開いて、クラムシェルスタイルのノートPCとスレートタイプのタブレットを使い分けることができる。価格は税別で87,800円だ。税込みでも10万円を切るモデルながら、OSにはWindows 10 Proを導入している。なお、ラインアップには、CPUにRyzen 5 4500Uを搭載した構成、システムメモリ容量を16GBとして構成、そして、ストレージ容量を256GBまたは512GBにして接続バスをPCI Expressとした構成も用意している。
CPUには、ノートPC向けの第3世代Ryzenシリーズとしてはバリュークラスとなる「Ryzen 3 4300U」を採用する。Ryzen 3 4300Uは、4コア4スレッド対応、動作クロックは基本で2.7GHz、最大ブーストクロックは最大で3.7GHzとなる。L2キャッシュ容量は合計で2MB、L3キャッシュ容量は合計で4MBだ。ミドルレンジモデルのRyzen 5 4500U(6コア6スレッド対応、動作クロックは基本で2.3GHz、最大ブーストクロックは最大で4.0GHzとなる。L2キャッシュ容量は合計で3MB、L3キャッシュ容量は合計で8MB)と比べると、コア数スレッド対応、キャッシュ容量で控えめとなっているが、基本動作クロックはRyzen 3 4300Uが高い。なお、グラフィックスコアはRyzen 5 4500Uと同様にRadeon Graphicsを導入する(ただし、GPUコア数は6基から5基と少なくなり、グラフィックスコアの動作クロックは1500MHzから1400MHzとわずかに低くなった)。
その他、処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、システムメモリはDDR4-3200MHzを採用して容量は8GBとなる。構成は8GB×1枚だが、メモリスロットは2基用意しており、上位構成モデルでは8GB×2基の16GBを搭載できる。ストレージは容量128GBのSSDでSerial ATA 6Gbpsだった。
製品名 | HP ProBook x360 435 G7 |
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CPU | Ryzen 3 4300U 4コア4スレッド、動作クロック2.7GHz/3.7GHz、L3キャッシュ容量4MB) |
メモリ | 8GB (DDR4-3200) |
ストレージ | 128GB M.2 (Serial ATA 6Gbps) SSD |
光学ドライブ | なし |
グラフィックス | Radeon Graphics (CPU統合) |
ディスプレイ | 13.3型 (1920×1080ドット) 光沢 タッチパネル |
ネットワーク | IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax対応無線LAN、Bluetooth 5 |
サイズ/重量 | W308.5×D222.9×H17.9mm / 約1.45kg |
OS | Windows 10 Pro 64bit |
Ryzen 3 4300Uを搭載したHP ProBook x360 435 G7の処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、CINEBENCH R20、CrystalDiskMark 7.0.0 x64、ファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズを実施した。なお、比較対象として“競合他社”の10万円未満ノートPC(CPUにCore i5-8250Uを搭載し、システムメモリが8GB、ストレージがSSD 256GB(Serial ATA 6Gbps接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。
ベンチマークテスト | HP ProBook x360 435 G7 | 比較対象ノートPC |
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PCMark 10 | 4084 | 3054 |
PCMark 10 Essential | 8257 | 6679 |
PCMark 10 Productivity | 5915 | 4467 |
PCMark 10 Digital Content Creation | 3787 | 2593 |
ベンチマークテスト | HP ProBook x360 435 G7 | 比較対象ノートPC |
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CINEBENCH R20 CPU | 1625 | 1026 |
CINEBENCH R20 CPU(single) | 423 | 350 |
ベンチマークテスト | HP ProBook x360 435 G7 |
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CrystalDiskMark 7.0.0 x64 Seq1M Q8T1 Read | 555.23 |
CrystalDiskMark 7.0.0 x64 Seq1M Q8T1 Write | 307.66 |
ベンチマークテスト | HP ProBook x360 435 G7 |
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3DMark Night Raid | 7503 |
ベンチマークテスト | HP ProBook x360 435 G7 |
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FFXIV:漆黒のヴィランズ(標準品質ノートPC) | 2651(やや快適) |
全てのベンチマークテストにおいて、そのスコアは従来の10万円未満ノートPCを大きく超えている。それどころか、先日レビューを掲載したレノボ・ジャパンの「Yoga Slim 750」のベンチマークテスト結果の比較対象としてスコアを掲載した「CPUにCore i7-1065G7を搭載し、システムメモリがLPDDR4X-4226の16GB、ストレージがPCI Express 3.0 x4接続のSSD 512GB」なノートPCのスコアと比べてもそん色ない(スコアの値はさすがに下回っているが)。
ただ、1点だけ気になるのがストレージの転送速度を評価するCrystalDiskMark 7.0.0 x64のスコアだ。Serial ATA 6Gbps接続のため、現在のノートPCで主流となっているPCI Express x4接続のモデルと比べて6分の1という低いスコアにとどまっている。
日本HPでは、HP ProBook x360 435 G7の訴求ポイントとして長時間のバッテリー駆動も挙げている。公式のバッテリー駆動時間はMobileMark2014のスコアで約17.25時間(JEITA測定法 2.0では約14.9時間)となっている。内蔵するバッテリーは固定式の3セルリチウムイオンポリマーで、PCMark 10のSystem informationで検出したバッテリー容量は44964mAhだった。バッテリー駆動時間を評価するBBenchで測定(ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスにそれぞれ設定)したところ、スコアは12時間46分9秒となった。
加えて、PCを使用しているときの快適さに影響するキーボードやボディ底面の表面温度とクーラーユニットのファンが発する騒音も測定した。測定条件としては、電源プランをパフォーマンス優先に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パークレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した表面温度と、騒音計で測定している。
表面温度(Fキー) | 33.5度 |
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表面温度(Jキー) | 33.9度 |
表面温度(パームレスト左側) | 29.3度 |
表面温度(パームレスト右側) | 29.2度 |
表面温度(底面) | 40.3度 |
発生音 | 41.4dBA(暗騒音36.28dBA) |
Ryzenを搭載しているノートPCとしては意外と、というと失礼かもしれないが、表面温度、特に手が触れる機会が多いホームポジションのキートップ、パームレストは30度前後の温度にとどまっている。「熱い!」と感じるところはなく、せいぜい「ほんのり温かい」レベルだ。また、発生音も比較的静かで、これなら静かなカフェだけでなく図書館でも気にせず使えるだろう。
バリュークラスにあるまじき充実したセキュリティ機能
HP ProBook x360 435 G7の本体サイズは、幅308.5×奥行き222.9×厚さ17.9ミリで13.3型ディスプレイを搭載したノートPCとしては標準的なサイズだ。ただ、重さは1.45キロと13.3型ディスプレイ搭載ノートPCとしてはやや重めになる(それでも、1.5キロを切っているので十分にモバイルノートPCといえるが)。この重さで「タブレットとして使えるのか?」という疑問があるかもしれないが、2-in-1 PCのメリットは「ノートPCとしてもタブレットとしても使える」ことだけではない。形状可変による柔軟な設置形態も2-in-1 PCの優位性といえる。例えば、ディスプレイを300度開いた“テント”形状で設置し、外付けキーボードを組み合わせれば、書類やコーヒーカップで乱雑している仕事用机でも容易にPC用のスペースを確保できる。
なお、HP ProBook x360 435 G7では、低価格PCではオミットされやすい「堅牢性」を備えている。耐衝撃性能はMIL STD-810Gで定める各種テスト基準をクリアしている。また、セキュリティ対策でも低価格モデルではオプション扱いになる指紋センサーが標準でパームレストに組み込まれている。また、HPが独自に開発している「HP Sure Sense」(AI活用で未知のマルウェアをリアルタイムで阻止)、「HP Sure Start Gen5」(自己修復BIOS)などのHP独自開発のセキュリティ技術を導入している。
本体搭載のインタフェースとしては、HDMI出力にUSB 3.1 Type-C(DisplayPort 1.4)にUSB 3.1 Type-A×2、microSDスロットを備える他、無線接続としては、IEEE 802.11axまでカバーするWi-Fi 6(コントローラはインテル Wi-Fi 6 AX200でアンテナは2×2)とBluetooth 5を利用できる。また、ビデオ会議や生体認証でいまや必須の内蔵カメラでは、720p動画撮影に対応する他、Windows Helloで使えるIRカメラを備えるだけでなく、レンズ部分には物理カバーとして使えるプライバシーシャッターも用意した。
ディスプレイの解像度は1920×1080ドット。光沢パネルを採用しているので周囲の光が反射しやすいが、最大輝度が400nitsと比較的明るいので、周囲の状況と表示する色味を工夫すれば作業環境は改善できる。キーボードはピッチが18.7ミリ(キートップサイズは16ミリ)でストロークは1.5ミリを確保している。実際にタイプすると弾力がやや強く、キーストロークも浅めに感じるが、押し下げたキートップはぐらつくことなく「スッ」と静かにタイプできる。なお、電源ボタンがDeleteキーの左隣にあって、Deleteキーを多用するユーザーには気になるところだろう。
HP ProBook x360 435 G7は、CPUにRyzenシリーズを採用したことで、10万円を切るモデルながら処理能力は高く(除くストレージ)、かつ、価格以上のセキュリティ機能と検討性を備えている。本体はやや重いが、長時間のバッテリー駆動はモバイルノートPCとしての使い勝手を十分に高めてくれる。
経理上なにかと便利な10万円を切るノートPCで、十分なセキュリティ性能を備えた長時間バッテリー駆動ができるモデルとして、HP ProBook x360 435 G7は有力な選択肢となるだろう。