パナソニックは、家庭用燃料電池コージェネレーションシステム「エネファーム」の新製品として、セルラー方式のLPWA(LowPowerWideArea)通信機能を標準搭載した戸建住宅向け製品を発表した。2021年4月1日から発売する。

同社はこれを第7世代の製品と位置づけており、LPWAによる通信機能を活用して、ウェザーニューズの気象データを取得して、自動で最適発電を行う機能を業界で初めて搭載。気象データをもとに、日々の運転計画を自動作成して発電を行うほか、「停電リスク予測API」を受信した場合には、自動的に発電モードを切り替えて、停電に備えることができる。

  • 自然災害に賢く備える「エネファーム」、環境経営へ邁進するパナソニックの一歩

    第7世代の「エネファーム」を発表。左からウェザーニューズの石橋知博常務取締役、パナソニック アプライアンス社スマートエネルギーシステム事業部の寺崎温尚事業部長、東京ガス 暮らしソリューション技術部の高世厚史部長

パナソニック アプライアンス社スマートエネルギーシステム事業部の寺崎温尚事業部長は、「日本では、自然災害の多発と激甚化が深刻な問題となっている。ここ数年、都市圏での停電が頻発しており、生活者の不安事項では、『災害による停電』という項目が上位にあがってきている。水道やガス、電気のいずれかが止まったとしても最低限の生活を保つことができる高いレジリエンス性がエネファームの特徴だが、ここ数年、それが販売増加の理由になっている。新製品では、気象情報の活用を加えることで、リスク予測を行い、インフラが遮断されても、自動的に蓄積した電力を利用できるようになるなど、気象情報と家庭用エネルギーインフラとの連携で、暮らしの安心を提供することができる」と語る。

セルラー通信の活用で一気に進化した第7世代エネファーム

今回の第7世代エネファームは、スタックなどの基本機能は従来の第6世代と同じだが、新たにLPWAを標準搭載した点が大きな進化となる。

  • LPWAの標準搭載が大きな進化となる第7世代エネファーム

LPWAは、携帯電話の通信網を用いながら、低消費電力、長期距離通信、低コストという特徴を持つ無線技術であり、今回活用するセルラー方式のLPWAは、既存のLTE基地局を利用でき、全国エリアをカバーしているため、多くのエリアでネットワーク接続ができるのが特徴だ。パナソニックでは、NTTドコモやソフトバンクと実証実験を行ってきた経緯もあり、屋外に設置するエネファームでのメリットを確認していた。

これまでにも、エネファームでは有線LANでのネットワーク接続が可能であったが、家庭内にネットワーク環境が必要であること、屋外に設置するエネファームと接続するためには、壁に穴をあけるなどの工事が必要であったり、設定の手間がかかったりといったこともあり、ネットワーク接続率は約10%に留まっていた。

パナソニック アプライアンス社スマートエネルギーシステム事業部燃料電池企画部の浦田隆行部長は、「エネファームは、故障対応や発電時間に応じた定期点検が必要な機器だが、これまでは、実機を確認するまで正確な状況が把握できなかったり、お客様不在で対応できなかったりという状況が多発しており、エネファームが普及するのに伴って、保守点検作業の効率化が大きな課題になっていた。初めてセルラー方式のLPWA通信機能を標準搭載することで、新たなエネファームはすべてがクラウドに接続され、稼働状況をリアルタイムで把握でき、遠隔メンテナンスを実現。保守点検作業の効率化を図ることができる。事業者側にとってのメリットも大きい」とする。

  • パナソニック アプライアンス社スマートエネルギーシステム事業部燃料電池企画部の浦田隆行部長

東京ガスでは、保守点検に必要なデータ取得とデータ処理、現場での作業を最低限に留める遠隔操作など、ユーザビリティを高めた遠隔メンテナンス機能を実装するという。

また、ネット接続されていることで、製品のアップデートや外部情報活用との連携、他機器との連携運転などの付加価値サービスも提供できるようになり、エネファームの機能が一気に進化することになる。

「スマホの専用アプリを通じて、グラフや数字による発電状況の分かりやすい表示や機器の遠隔操作なども可能になる」という新たな提案も行う予定だ。

なお、従来モデルにLPWA機能を追加することはできない。

自然災害の停電リスクに備え、天気に応じた発電も自動準備

LPWAによるネット接続で、今回のエネファームでは、ウェザーニューズとの連携という新たな協業に踏み出し、新たなサービスを開始することになる。

ひとつめが、ウェザーニューズが提供するWxTech(ウェザーテック)サービスである「停電リスク予測API」との連動だ。

ウェザーニューズでは、過去の台風で発生した停電情報と、風速データの相関関係の分析をもとに、独自に開発した予測モデルを用い、5kmメッシュのエリアごとに停電発生のリスクを予測する「停電リスク予測」を、2021年2月から提供しており、この情報が、停電リスク予測APIを通じて、パナソニックのクラウドサーバーに送られ、そこから対象地域のエネファームに「停電そなえ発電」への切り替え信号を発信することになる。

これにより、自動的に発電モードを切り替えて、停電に備え、実際に停電が発生した場合は停電発電を継続し、停電が発生しなかった場合には通常運転に自動で戻ることができる。また、深夜などのエネファームが運転を停止している時間帯に停電が発生した場合でも、外部電源による再起動が不要になり、停電発生時でも安心して電気が使えるようになる。

  • エネファームの「停電そなえ発電」

もうひとつのサービスが、「おてんき連動」による効率的な稼働の実現である。

ウェザーニューズが、毎日午後6時に提供する「1kmメッシュ天気予報」をエネファームが受信して、翌朝午前4時に、その日の運転計画を、エネファームが自動で作成。エネファームと太陽光発電を併用している住宅では、晴天時は太陽光発電を行い、夜間はエネファームを利用するといったように、太陽光発電を最大限に活用した家庭内電力の自給実現に貢献するという。

  • エネファームの「おてんき連動」

東京ガス 暮らしソリューション技術部の高世厚史部長は、「次の日の気温が低いことが分かっていれば、床暖房をタイマーセットして稼働させたりできるほか、将来的には、翌日の電力供給量がひっ迫すると予測されれば、事前にフルに発電ができるように自動で準備したりといったことも可能になる。これは、家庭のニーズに応えるだけでなく、社会インフラへの貢献にもつながる」とした。

  • 東京ガス 暮らしソリューション技術部の高世厚史部長

ウェザーニューズの石橋知博常務取締役は、「ウェザーニューズは、気象庁のAMeDASの1,300カ所の拠点に加えて、全国1万3,000カ所の観測ができる。さらに、ウェザーニューズのアプリ利用者からの天気報告が1日18万通、空の写真投稿が1日2万通に達しており、これらも天気予報に活用し、1kmメッシュによる細かい予報を出している。ここには、AIや画像解析技術が生かされており、2020年の降水捕捉率は年間で94%という高い精度になっている」とし、「WxTechへの取り組みにより、気象との因果関係が強い事象の未来を予報し、これまで困難とされていたビジネスの課題や社会問題を解決することができる。エネファーム向けには停電予報を提供することになるが、自動車向けにはスリップ予報を提供することも想定される。デバイスにカスタマイズした予報をするのが天気予報の未来である」とした。

  • ウェザーニューズの石橋知博常務取締役

パナソニックでは、2018年に発売したルームエアコン「エオリア」で、ウェザーニューズが提供する気温や湿度、PM2.5や花粉の拡散予測を使用。部屋の空気の汚れを先読みして自動で空気清浄運転を行う「AI先読み空気清浄」を実現していた経緯がある。

「エアコンでの連携がはじまったことで、一緒に考えるきっかけが生まれている。今後、エネファームのセンサーで収集、蓄積したデータを、パナソニックや東京ガスを通じて活用、分析できる環境が作れれば、さらなるサービスの向上にもつなげられるだろう。引き続き、様々なコラボレーションを模索したい」(ウェザーニューズの石橋常務取締役)としている。

さらに、エネフアームの新たな機能として、従来は、ガス供給が遮断した際には給湯も止まってしまうという課題があったが、ガス供給の遮断時でも給湯利用を可能にしている点があげられる。

パナソニックの浦田部長は、「ガス供給が遮断していても、入浴したいというニーズに応えて、毎日1回、浴槽にためて、入浴できる量のお湯を賄うヒーター給湯機能を新たに搭載した。エネファームが、ガス供給の遮断を検知すると、台所のコントローラーにエラーメッセージを表示。手動でヒーター給湯に切り替えれば、貯湯タンクが空の状態でも、約19時間後には40度で、約230Lのお湯が使える」とし、「今回のエネファームでは、『いつも』と『もしも』を支える製品を目指すとともに、レジリエンスMAXを実現することを狙った。ネット接続率100%を実現することで、活用やサービスの質を一段階あげることができる」とした。

東京ガスの高世部長は、「これまでは環境性の訴求により普及が進んできたが、発売から10年を経過し、買い替え需要が顕在化しようとしている。エネファームへの買い替え率は95%と高い。そこでは、環境性や経済性だけでなく、レジリエンス性も重要な要素になる。エネファームと蓄電池を組み合わせることで、より強い住宅を作ることができる。さらに、将来はVPP(バーチャル・パワー・プラント=仮想発電所)のニーズも捉えたい」とする。VPPへの対応では、ネットワーク回線を用いて、電力系統の逼迫予想情報を組み合わせて、余剰電力を系統に逆潮流させるなど、エネファームの自動運転による電力系統安定化への貢献が見込めるという。

「環境ビジョン2050」へ向けたパナソニックの前進

パナソニックは、世界に先駆けて、2009年から家庭用燃料電池の一般販売を開始。これまでに、東京ガスを通じた販売実績は14万台に達している。パナソニックでは、19万台を超える出荷実績がある。2030年で530万台という高い目標を掲げており、今後の普及戦略に関心が集まる。

エネファームは、ガスから作った水素と空気中の酸素で発電し、同時に熱をお湯として利用できるため、クリーンで無駄のないコージェネレーションシステムとして認知され、「一般的な家庭では年間6トンのCO2を排出しているが、エネファームを使うことで、そのうち1.4トンの削減ができる」(パナソニックの寺崎事業部長)とする。コロナ禍では、在宅勤務の広がりなどにより、昼間の時間帯の電力消費が約10%増加しており、その点でも、エネファームのランニングコストのメリットを打ち出すことができるとする。

一方、パナソニックでは、「パナソニック環境ビジョン2050」を打ち出し、製品の省エネ性能の向上とモノづくりプロセスの革新により、パナソニックが使うエネルギーを削減。その一方で、創・蓄エネルギー事業の拡大と、クリーンなエネルギーの活用機会の増大により、パナソニックが使うエネルギーを超える量のエネルギーの創出および活用を進めることを目指している

寺崎事業部長は、「パナソニックは、2050年までに、創るエネルギーが、使うエネルギーを上回ることを目指している。燃料電池の普及拡大を通じて、水素社会の実現、カーボンニュートラルの達成に貢献する」と語る。

  • パナソニック アプライアンス社スマートエネルギーシステム事業部の寺崎温尚事業部長

パナソニックでは、2021年度から、新たに純水素型燃料電池を発売する計画を明らかにしている。2021年度には5kWモデル、2022年度には700Wモデルを発売。家庭用としての提案のほか、連結設置によって、産業用、業務用での利用を想定。「10MW級の大規模発電にも対応できる。家庭用燃料電池で培ってきたノウハウを生かして、低騒音化などを実現。ビルの地下室や屋上、家庭の近くにも設置できる自由度もある。水素の供給体制の整備を捉えながら提案を進めていく」としている。

また、「すでに、滋賀県の草津工場や、東京・有明のパナソニックセンター東京、東京オリンピック後に分譲が予定されている東京・晴海のHARUMI FLAGにも純水素型燃料電池を導入している。2021年度には、パナソニックの一部工場などにおいて、太陽光、蓄電池、水素電池の組み合わせで、企業の自然エネルギー100%を推進するRE100達成の実績があがることを目標にしたい」と述べている。

  • パナソニック環境ビジョン2050では、使うエネルギーを削減する一方、創・蓄エネルギー事業の拡大を掲げている

新たなエネファームは、環境への対応、経済性といった特徴は生かしながら、100%ネット接続によって、様々なサービスが付加される基盤が整ったことで、レジリエンス性とともに、安心、安全な暮らしを実現する付加価値が高まったといえる。導入して終わりというだけではなく、これからの進化が期待されるアップデート型の製品に、エネファームは生まれ変わったのは間違いない。