ジャパンディスプレイ(JDI)は、2025年度(2025年4月~2026年3月)連結決算を発表。そのなかで、2026年3月時点で、74億円の債務超過となっていることを発表する一方、2027年度に営業黒字化を目指すことを明らかにした。債務超過の解消に向けては、新株予約権による資金調達、茂原工場の売却、事業の収益性の改善が鍵になる。また、同社が掲げる「BEYOND DISPLAY戦略」の進捗状況についても触れた。なお、米国ディスプレイ事業については、「まだ決定したものはない」と述べるに留めた。
債務超過解消の見通しは? 崖っぷちからの切り札
JDIは、2026年度末時点で、マイナス74億円の債務超過の状況にあるが、ジャパンディスプレイ代表執行役社長 CEOの明間純氏は、「資産売却および財務施策の実施により、2026年度末での債務超過解消を図る」とした。
具体的な施策として、保有資産の売却としては、鳥取工場の譲渡契約を、2026年3月に、八幡東栄エステートと締結し、2026年9月に譲渡を完了する予定であるほか、茂原工場の売却については、複数の売却候補先と引き続き交渉を続けている。また、財務施策としては、いちごトラストを相手先とする新株予約権が、2026年5月13日に一部行使され、約96億円を調達。未行使分についても、行使要請に向けた協議を進める。調達した資金は、財務基盤の強化に活用するとともに、今後の事業推進に寄与するとしている。
遅れている茂原工場の売却が債務超過の解消の切り札とされてきたが、「茂原工場の譲渡が債務超過解消の必須条件ではなく、様々な資金調達手段によって対応していくことになる」とも述べた。
上場維持を前提とした企業価値向上については、「JDIでは、BEYOND DISPLAY戦略を掲げ、収益力の改善と成長の実現に向けた取り組みを進めている。世界一、世界初の技術による製品の提供に加えて、ガラス基板を生かした高収益センサー、半導体事業の拡大、アセットライトなビジネスモデルの確立を通じて、持続的な成長を目指している」とし、2025年度には生産工場の集約、人員削減を中心とした構造改革を実施し、固定費構造の見直しを進めたこと、2026年度には構造改革の完遂と、債務超過の解消を進める方針を改めて強調。保有資産の売却と財務施策を通じて、財務の健全性を回復し、「市場から評価されるスタートラインに戻すことを目指す」とした。さらに、2027年度は、流通株式比率の向上による上場維持基準への適合を進める。業績改善により、収益力の改善とる企業価値の向上に取り組むという。
JDIは、2026年度末で債務超過となり、2027年度末にこれを解消できなければ上場維持基準に抵触し、管理銘柄に指定される可能性がある。また、改善の見込みがないと判断された場合には、上場廃止の可能性もある。
明間社長 CEOは、「最悪の結果にならないように、全社一丸となって取り組む。これらの可能性を必ず阻止する。現業での早期の損益改善、茂原工場の売却、新株予約権に対する行使などを進めている」とした。
再建計画「BEYOND DISPLAY戦略」の進捗
同社が推進している再建計画「BEYOND DISPLAY戦略」の進捗状況についても説明した。
構造改革については、「茂原工場の譲渡に向けた交渉の加速」、「希望退職による人員削減」、「鳥取工場の譲渡に関する契約締結」の3点をあげ、「茂原工場はデータセンター用途だけでなく、製造業関連からも強い引き合いがある。有利な交渉条件を引き出すことを優先する。候補先によっては電力が足りないという声もあり、それに向けた必要な電力の確保にも努める交渉も進めている。売却交渉は、当初の予定から遅れているため、なるべく早い時期には譲渡契約を結びたいが、具体的な譲渡時期は決めていない」としたほか、「希望退職については、新規プロジェクト(米国ディスプレイ事業)へのリソース確保の観点から、一部退職時期の見直しなどの調整を進めているものの、概ね順調に進捗している。鳥取工場は2026年9月の引き渡しに向けた調整が続いている。財務体質の改善、経営資源の効率化および最適化を目的とした構造改革の手綱は緩めずに進めていく」とした。
構造改革の効果については、「茂原工場の生産終了時期の前倒しが大きな効果を生んでいる。従来予想してきた損益分岐点売上高を前倒しで大幅に引き下げることができた。厳しい状況は続いているが、構造改革による収益構造の改善が着実に進んでいる」と述べた。
車載用途のディスプレイについては、「地政学リスクの高まりを背景に、安全なサプライチェーンが重視される車載用途製品の引き合いが継続している。特定国に依存したサプライチェーンにリスクを感じている企業からのリクエストが多い」とした。また、従来はデジタルカメラ用ディスプレイなどのコンシューマ製品を中心に製造してきたNanox(フィリピン)において、車載ディスプレイの生産準備に入ったことを報告。2027年度からの量産を目指すという。ピーク時には15万台の車載用ディスプレイを生産する計画だ。
デジタルミラー用ディスプレイは、高い視認性とインテリアデザイン、安定した品質が評価され、様々な新車種への投入が進み、シェア拡大が続いているという。ヘッドアップディスプレイ分野では、視認性や耐久性を高めたラインアップを拡充し、複数の新規顧客から引き合いがあるという。さらに、「新商材である2VD製品は、中国のハイエンド顧客から強い関心があり、早期の車両搭載に向けて協議を進めている」という。
民生・産業機器用途のディスプレイに関しては、「LEDディスプレイ用基板を供給するビジネスが本格化してきた」とし、Mini LED向けの薄膜フレキシブルLTPS基板、Micro LED向け透明ガラスLTPS基板の受注が継続。車載用途やデジタルサイネージ用途、防衛用途などの引き合いがあり、4.5世代の基板サイズで生産する「石川MULTI-FAB」の能力を活用できているという。また、デジタルカメラ用途向けは、従来よりも明るい画面で、消費電力が少ない次世代ディスプレイの開発を進めており、ミドル領域からハイエンド領域に展開。一部サンプル提供を開始したところだ。産業用途では、インドの鉄道安全システム(ATP)に使用される制御パネル用ディスプレイを受注。2026年度から出荷を開始する。「石川MULTI-FABのパネルを、鉄道や航空といった輸送インフラに対して、積極的に提案していく」と述べた。
米OLEDWorksとの協業によって、設立を計画している米国の最先端ディスプレイ工場については、「日米の国益に資するものとなり、単なる投融資の案件とは異なる。協議を進めているところであり、まだ決定した内容はない」と述べるに留まった。
センサー事業については、照明デバイスである「LumiFree」は、博物館などの展示用途に採用が広がっており、「展示内容をより強調できる制御技術に評価が集まっている」という。北米に加えて、欧州でも拡販活動を開始している。次世代衛星通信アンテナでは、マルチバンド衛星通信アンテナに加え、JDIオリジナルの液晶フェーズドアレイアンテナを開発。強い関心を得ており、早期の市場投入を目指す。また、様々な素材を生かして、あらゆるものをセンサーに変え、新たなセンシング体験を実現するZINNSIA(ゼンシア)は、2026年6月から量産を開始する予定であり、エンターテインメント分野で複数の量産案件を獲得。ロボティクスやウェルネス分野向けの提案を進めているという。「IRセンサーやX線センサー、指紋センサーなどの分野で協業が進んでいる。早期の市場投入に向けた取り組みが加速している」とした。
2025年度(2025年4月~2026年3月)業績、4年ぶり四半期黒字も
一方、2025年度の連結業績は、売上高は前年比29.6%減の1323億円、EBITDAは182億円改善したが、マイナス148億円の赤字。営業利益は184億円改善し、マイナス186億円の赤字、当期純利益は前年度から584億円改善したが、マイナス198億円の赤字となった。
ジャパンディスプレイ 執行役員 CFOの平林健氏は、「売上高は鳥取工場および茂原工場での生産終了などによる受注減によって減収。営業利益は人件費の削減や、鳥取工場および茂原工場の生産終了に伴う工場経費の削減など、コスト削減によって、赤字幅を半減した」という。また、当期純利益は、関係会社の株式売却に伴い、特別利益として185億円を計上する一方、茂原工場の生産終了や希望退職者の募集に伴う事業構造改善費用として、94億円を特別損失として計上した。
なお、2025年度第4四半期は、4年ぶりの四半期ベースの営業黒字となった。
「期末だけの黒字化とはいえ、構造改革による収益構造の改善が着実に進んでいる」と手応えを示した。第4四半期は、不採算製品の部材の在庫処理の完了による採算性の改善、人件費削減などの構造改革の改善効果も貢献したという。
セグメント別では、民生・産業機器の売上高は前年比62.1%減の235億円、液晶スマートフォン向けディスプレイを戦略的に縮小したことに加え、茂原工場の生産終了によりスマートウォッチ用OLEDディスプレイの出荷が減少した。また、車載の売上高は同13.6%減の1087億円となった。低採算品からの撤退に加えて、顧客の生産計画の変更の影響や、鳥取工場および茂原工場の生産終了に伴う受注減少が影響した。
なお、2026年度(2026年4月~2027年3月)の業績見通しについては公表しなかった。
「新株予約権の行使などによる財務施策や、茂原工場の譲渡、米国ディスプレイ事業の実施の有無など、各施策の進捗や実施内容の影響を鑑み、業績予想は現時点では非開示とした」とし、同社では、「財務状況の改善に向けて各種財務施策を検討していることに加え、新規事業の具体的な内容や実施時期により業績が大きく変動する可能性があり、業績予想は公表していない。今後、合理的な見積りが可能となった段階で速やかに開示する」としている。
同社では、営業黒字化については、2026年度に、茂原工場の生産終了に伴う顧客からの受注減、米国ディスプレイ事業を含む、新規事業の立ち上げに向けたリソース確保などの先行投資を戦略的に実施していることを理由にあげ、「営業黒字化は、2027年度を見込んでいる」とした。
2027年度の黒字化について、平林CFOは、「固定費削減を進めるとともに、BEYOND DISPLAY戦略に基づく、商品の利益率の改善、新分野での売上拡大をあわせて進めることで、きちんと黒字化したい」と述べた。
明間社長 CEOは、2026年6月の社長就任から約1年を経過することになる。
「厳しい決断と実行を迫られる1年だった。希望退職者の募集により、多くの仲間を失うことになり、辛い状況であった。会社に残るという決断をした社員と一緒に、全力で頑張り、4年ぶりの四半期ベースでの営業黒字化ができたことは喜ばしいと考えている。この結果を社員と共感し、2026年度、2027年度の発展につなげたい」と振り返った。
また、「ディスプレイだけで事業運営をしていくことは厳しいと見ている。BEYOND DISPLAY戦略を推進し、既存インフラを活用しながら、収益性が高いセンサーなどの事業をミックスしていく必要がある。特定分野においては、安全なサプライチェーンが求められ、そこに価値を感じるお客様もいる。さらに、防衛用途での引き合いもある。特殊用途のディスプレイの採算性は、これまでとは異なる。これらを付加価値のある製品として提供する。石川工場をフル稼働させることで、これらのニーズ対応していく」と述べた。












