東京ドームに、パナソニックの顔認証システムが導入され、顔認証入場および顔認証決済の実証実験が、2021年3月からスタートしている。

  • 東京・後楽の東京ドーム

    東京・後楽の東京ドーム

顔認証入場は、管理者によって事前に登録された顔画像と、端末のカメラで認証した顔を照合し、本人を認証。OKとなれば入場が可能になる。

まずは、関係者入口に導入し、読売巨人軍や東京ドームの関係者およびスタッフなど、約200人が対象になる。

顔認証は一般ゲートにも拡大し、2022年シーズンからは、一般来場者を対象とした本格導入を目指す。

「スムーズな認証による待ち時間の減少、接触機会低減による安心、安全な入場の実現、チケット紛失やなりすましなどのリスク低減、入場チェックのスピードアップなどが見込まれる」(パナソニック システムソリューションズ ジャパン サービスインテグレーション本部IoTサービス部サービス開発課長の津村賢一氏)という。

  • パナソニック システムソリューションズ ジャパン サービスインテグレーション本部IoTサービス部サービス開発課長の津村賢一氏

また、顔認証決済は、一般来場者が、東京ドーム内の店舗に設置された端末を利用し、顔認証で決済が行えるようになるサービスだ。

今回の顔認証決済は、東京ドーム内店舗の「Dome Shop 104」と「G-STORE」を対象に、2021年4月からサービスを開始。専用ウェブページで必要情報を登録し、顔写真を撮影して登録。店舗で商品を購入した際に、購入金額を確認して、顔を照合。PIN(暗証番号)による二要素認証を行えば、支払いが完了する。

「接触機会を少なくすることで感染リスクを低減し、手ぶら決済による顧客体験の向上、待ち時間の削減を実現できる」(同)という。

  • 関係者入口などに設置される顔認証装置

  • マスクをした状態でも顔を認証する

  • 東京ドーム内店舗「Dome Shop 104」で顔認証決済の実証実験を行っている

  • 「Dome Shop 104」での顔認証決済の様子

  • 暗証番号による二要素認証を行えば、支払いが完了する

本導入に向け進む顔認証技術の効果検証

パナソニックの顔認証技術は、羽田空港第3ターミナル(国際線)や成田国際空港などの国内7つの国際空港の出入国審査で採用されたり、アミューズメントパークでのチケットレス入退場、店舗でのキャッシュレス決済、オフィスでのICカードレス入退室などでも利用されており、1日10万回以上の固有の顔認証が行われている。

ディープラーニングを応用することで、顔の向きや経年変化への対応のほか、メガネやマスクなどにも影響されにくく、世界最高水準の精度を持った顔認証技術として高い評価を得ている。

津村氏は、「パナソニックは、60年以上にわたる画像認証技術の歴史を持っており、社会インフラを支えてきた。世界最高水準技術と、現場での使いやすさを追求し、様々な実証実験を通じて実現したUXデザインとの融合が、パナソニックの顔認証の特徴である」と説明する。

また、「実証実験を通して、本導入に向けた運用時の課題や効果を検証していくことになる。東京ドーム内で、顔認証で利用できるサービスが拡充することで、感染症対策として有効な接触機会の低減を実現しながら、来場者の快適な空間づくりと、スタッフの業務効率化に貢献し、さらなる東京ドームのサービス向上をサポートしたい。顔認証のアプリケーションやサービスの提供を拡大することで、スタジアムや施設を含めた街全体の高付加価値化やDXを支援していく」(同)とした。

  • パナソニックの画像認証技術の歴史

  • パナソニックの顔認証技術の概要

  • 東京ドームでの実証実験の概要

ジャイアンツ×東京ドームDXプロジェクトの中身

現在、東京ドーム、読売巨人軍、読売新聞東京本社は、「ジャイアンツ×東京ドームDX(デジタル・トランスフォーメーション)プロジェクト」を推進中だ。

顔認証技術の導入は、その取り組みのなかでも目玉のひとつとなる。

  • 「ジャイアンツ×東京ドームDX(デジタル・トランスフォーメーション)プロジェクト」を推進している

そのほかにも、同プロジェクトを通じて、様々な取り組みが推進されることになる。

東京ドームでは、2021年シーズンの巨人戦で、すべての入場口に、バーコード認証による「自動ゲート」を導入して、係員の手によるチケット半券回収(もぎり)を全廃する予定だ。年間契約席やプレイガイドで販売されたすべてのチケットのバーコードを読み取って、入場を効率化する。ここでは、紙のチケットだけでなく、スマホに表示したバーコードも利用できる。

自動ゲートは、移動できる可搬型としており、東京ドームで開催されるイベントの内容にあわせて、設置したり、撤収したりできる。東京ドームに入る回転扉の前に設置される仕組みだ。イープラスによるソフトウェアと、クマヒラによるゲート装置を利用している。これはスタジアム向けに開発された特注品であり、電源以外の回線は不要。バーコードの読み取り部から、システムまでの通信をWi-Fiなどの無線で行うことができる。

また、電子チケットは、LINEや電子メールを利用して同行者と共有することができたり自動ゲートでは1人が同行者の分を一度に認識させて、一緒に通行したりといった機能も備えている。

  • 巨人戦で、すべての入場口に設置されるバーコード認証による「自動ゲート」

  • 紙のチケットのバーコード部分を読み取る(チケットは見本)

  • チケットのバーコードを読み取っている様子

  • 飲み物を片手に持ったままでも利用できる

  • スマホを使った読み取りも可能だ

さらに2022年シーズンからは、巨人戦では全売店を完全キャッシュレス化する予定であり、それに先駆けて、2021年はクレジットカード、電子マネーに加えて、二次元バーコードでの決済を新たに導入。プリペイドカードも利用できるようにする。「巨人戦での飲食物やグッズなどの買い物はすべてキャッシュレスとなる」わけだ。

使用できるクレジットカードは、JCB、VISA、Mastercard、Dinners Club、American Express、Discover、銀聯。電子マネーでは、QUICPay、nanaco、交通系カード、iD、楽天Edy、WAON、各種NFCが使用できるほか、PayPay、d払い、楽天ペイ、Alipay、WeChat Pay、Smart Code対応ブランドでのコード決済も利用可能だ。

また、スマホなどから、弁当や飲み物を「モバイルオーダー」できる売店をスタジアム内の8カ所に設置。支払いは注文時に完了するため、売店で待ち時間がなく、スムーズに商品を受け取ることができる。

球団のホームページやアプリ、東京ドームやDXプロジェクトのサイトなどからも注文が可能だ。最初に店舗を選んで、商品を選択し、決済用のクレジットカード番号、電話番号、メールアドレスを入力。ジャイアンツオフィシャルチケットのアカウントを持っている人であれば、ジャイアンツIDを入力すれば、クレジットカード情報などが自動で入力される。注文確定を押すと、2次元バーコードが表示され、同時に、同じ2次元バーコードが登録されたメールアドレスにも送信される。あとは店舗に出向き、2次元バーコードを読み取り、商品を受け取ることになる。

  • 弁当や飲み物を「モバイルオーダー」できる売店をスタジアム内の8カ所に設置

  • スマホを使って商品をオーダーすることができる

  • 店舗に出向き、2次元バーコードを読み取り、商品を受け取ることになる

「スタジアムのなかを回って買い物をするという楽しみ方もあるが、年間に何度も来場している人、気に入っている食べ物や飲み物がある人には、便利なサービスになる」(東京ドーム 飲食&物販部第1営業グループの渡邊奈々子氏)とした。

  • 東京ドーム 飲食&物販部第1営業グループの渡邊奈々子氏

Wi-Fi接続については、球団公式アプリ「GIANTS APP」からの接続に加えて、2021年からは、メールアドレスのみで登録できる「GIANTS ID」による「GIANTS Wi-Fi」を利用できるようにする。

  • 球団公式アプリ「GIANTS APP」

コロナ禍で熱狂声援型から快適体感型へ、将来は快適熱狂型に?

なお、東京ドームでは、新型コロナウイルス感染症対策の一環として、感染者が発生した場合に、接触の可能性が高い人に連絡する「TOKYO DOME ALERT」への登録を呼びかけている。ただ、電子チケットの購入者は、購入時や受け取り時の情報を利用するため登録は必要がない。

さらに、女子トイレを従来の1.7倍に拡大するといった取り組みもこのプロジェクトのなかで実施されている。新設した女子トイレの一部には、子供用の小便器やおむつ交換台も用意。手洗い器も146個増設した。「入口と出口を別にすることでスムーズに人が流れるようにしている。また入った瞬間に全体が見渡せるようにしており、空き状況がひとめでわかるようにしている。東京ドームで試合を観戦したいが、トイレを使用する際のストレスで足が遠のいていたという女性の来場者にも、安心して東京ドームに来てもらえる」(東京ドーム 東京ドーム部企画渉外グループの平松三奈氏)という。1階コンコースの2カ所にオールジェンダーが利用できる個室タイプの共用トイレも設置しているほか、車いす席がある2階に、車いす用トイレを8カ所増設した。イベントによって、女子トイレを男子トイレとして利用する運用も行うという。

  • 東京ドーム 東京ドーム部企画渉外グループの平松三奈氏

さらに、TOKYO DOME ALERTを通じて、トイレの混雑状況を4段階で、ゲート付近の混雑状況を3段階で確認できるようにしており、利便性向上と混雑緩和も図る考えだ。

東京ドームでは、「1秒でも速く観戦シートに腰をかけ、スタジアムの臨場感を味わっていただきたい。一緒に試合を観る人との大切な時間を、1秒でも長く楽しんでいただきたい。読売巨人軍と東京ドームのDXは、そんな思いでスタートしている。待ち時間などのストレスや新型コロナウイルス感染リスクへの不安を少しでも解消するために、さまざまな取り組みを進めていく」としている。

  • 新設された女子トイレ

  • 入った瞬間に全体が見渡せるようにしており、空き状況がひとめでわかる

  • 子供用の小便器やおむつ交換台も用意している

  • 入口と出口を別にすることでスムーズに人が流れるようにしている

読売巨人軍の今村司社長は、「未来のエンターテインメント空間を楽しんでほしい」とし、「2020年7月に、東京ドームを、世界一清潔で、安全で、快適なスタジアムにするという宣言を行った。それを具体化するものとして、『ジャイアンツ×東京ドームDXプロジェクト』を開始している。コロナ前までは、熱狂声援型の楽しみ方だったものが、コロナ禍では快適体感型の楽しみ方に変わっている。それを実現するために、電子チケットや自動入場ゲート、キャッシュレス決済、モバイルオーダー、顔認証を導入し、ドラスティックにきれいになった女子トイレも作った」とする。

その一方で、「快適体感型の楽しみ方は、エンターテインメントの終結点ではない。新型コロナウイルスが終息したときには、快適熱狂型になるだろう。快適に入場してもらい、気持ちよく時間を過ごしてもらい、野球やその他のエンターテインメントを熱狂してもらいたい」と述べた。

  • 読売巨人軍の今村司社長

東京ドームや東京ドームシティアトラクションズ、東京ドームホテル、スパ ラクーアなどを含む東京ドームシティ全体の来場者数は、2019年度(2019年2月~2020年1月)の4,010万人から、2020年度(2020年2月~2021年1月)は1,273万人と大幅に減少。とくに東京ドームは、プロ野球公式戦が観客数を制限して実施されたことや、コンサートをはじめとしたイベントの中止が相次ぎ、2019年度の977万3,000人から、2020年度は91万8,000人へと、前年のわずか9.4%と1割にも満たない状況となっている。

新たなエンターテインメントの姿が模索されるなかで、東京ドームとジャイアンツのDXの成果によって、東京ドームでの巨人戦の楽しみ方がどう変化するのか。ジャイアンツファンにとっては、今シーズンの注目点のひとつになりそうだ。