ガジェット愛好家やセキュリティ研究者の間で注目を集めた「Flipper Zero」の登場から約6年、開発元のFlipper Devicesは5月21日、Linux搭載の携帯型マルチツール「Flipper One」の詳細を発表した。製品発売には課題が残されており、まずは製品構想と開発状況を公開し、コミュニティに協力を呼びかけている。
Flipper Zeroは、NFC、RFID、赤外線、Sub-1GHz帯の無線通信などを扱える小型の多機能ツールとして知られる。アクセス制御や無線プロトコルの調査、ハードウェア実験、セキュリティ研究などに使われてきた一方、悪用される可能性もあるその機能をめぐって一部で議論も呼んできた。
同社はFlipper Oneについて、Flipper Zeroの後継機ではなく、目的の異なる新しいカテゴリの製品だと説明している。Flipper ZeroがNFC、RFID、赤外線などオフラインのポイント・ツー・ポイント通信を主な対象とするのに対し、Flipper OneはWi-Fi、Ethernet、5G、衛星通信など、IP接続を中心に据えた「ポケットサイズのLinuxマルチツール」と位置付けられる。
主なスペックは以下の通り。
- SoC: Rockchip RK3576(8コア:高性能コア: Cortex-A72 ×4、高効率コア: Cortex-A53 ×4)
- GPU / NPU: ARM Mali-G52 / 6 TOPS(INT8)AIアクセラレータ
- メモリ / ストレージ: 8GB LPDDR5 RAM / 64GB UFS 2.2(MicroSDスロット搭載)
- サブMCU: Raspberry Pi RP2350(ディスプレイ制御、タッチパッド、LEDなどの低レイヤ処理を担当)
- ディスプレイ: 256×144ピクセル、64階調グレースケール、ゴリラガラス採用
- ネットワーク: ギガビットイーサネット(RJ45)×2ポート、Wi-Fi 6E、Bluetooth 5.2、M.2モジュールにより4G LTE / 5G通信(Nano SIM対応)も可能
- 入出力: HDMI 2.1、USB-C(DisplayPort Altモード・USB PD対応)、USB-A 3.1、3.5mmオーディオジャック
- 拡張性: PCIe 2.1 / USB 3.1 / SATA3などに対応するM.2 Key-Bソケット、GPIOヘッダ
8コアのプロセッサ(Rockchip RK3576)、8GBのRAM、GPUやAI処理用のNPU(6 TOPS)を搭載し、ローカルで軽量LLMなどAIモデルを動作させることも可能な性能を備える。Linuxが動作する一方で、低消費電力のRaspberry Pi RP2350マイコンを併載することにより、Linuxを起動していない状態でも本体のボタンやディスプレイから基本操作や起動制御を行える設計となっている。
標準状態で、任意のネットワークへのゲートウェイ、マルチホットスポットブリッジ、インラインEthernetスニファ、PC・スマートフォン向けのUSBネットワークアダプターとして動作する。あるいはこれらを任意に組み合わせ、動的ルーティング、ロードバランシング、フェイルオーバーを備えた構成にすることも可能だ。
Flipper Devicesが特に強調するのは、オープンなLinuxプラットフォームとしての設計である。同社はCollaboraと協力し、RK3576 SoCのサポートをメインラインLinuxカーネルに取り込む作業を進めている。目標は、ベンダー固有のBSPや独自ドライバに依存しない、「オープンなARM Linux」の実現だ。ただし現時点では、RAM初期化に関わるDDR trainerなど未解決の要素が残っており、NPUやハードウェア動画デコードなど一部機能のメインライン対応も今後の課題として示されている。
ソフトウェア面では、Debianベースの「Flipper OS」と、小型画面向けUIフレームワーク「FlipCTL」の構想も明らかにした。Flipper OSはプロファイルレイヤーを備える。これはパッケージや設定があらかじめ構成されたOSの完全なスナップショットで、環境を壊した際にクリーンな状態に戻したり、用途に応じた環境切り替えを可能にする。FlipCTLは、ping、nmap、tracerouteなど既存のLinuxコマンドを、小型LCDとD-padで操作できるメニュー型UIとして扱うためのフレームワークだ。
Pavel Zhovner CEOは、Flipper Oneをオープンソースコミュニティと教育に貢献するプロジェクトにしたい考えを示している。一方で、半導体メーカーが提供するコードのオープン化、現在のメモリ不足や部品価格の上昇、技術的な不確実性など、課題は少なくない。
そのためFlipper Devicesは今回、最終製品ではなく開発途上の構想を発表し、同時に開発プロセスをコミュニティに開放して協力を募る形をとった。タスクトラッカー、内部ディスカッション、アーキテクチャ上の検討事項など、通常なら開発の裏側に隠されるプロセスまでFlipper One開発者ポータルを通じて公開し、エンジニア、開発者、デザイナー、一般ユーザーに参加を呼びかけている。
現時点で、Flipper Oneの予約開始時期や発売時期は確定していない。The Vergeによると、開発者からのフィードバックを得てハードウェアを確定させた後、2026年後半中のKickstarterでのクラウドファンディング立ち上げを目指している。




