2019年の国内PC市場は、2020年1月14日にサポート終了を控えたWindows 7からの買い替え需要、2019年10月からスタートした消費増税前の駆け込み需要といった追い風もあり、出荷台数は、前年実績を大幅に上回る形で推移した。

日本マイクロソフトでは、「2019年7月から12月までの6カ月間で、500万台以上のPCが、Windows 7から新たな環境に移行した」とコメント。Windows 7からの買い替えが出荷台数の増加に影響していることがわかる。

  • 2020年の国内パソコン業界、好調の反動に対抗する「4つのプラス」がある

順風満帆だったPC出荷と不安定なインテル

IT専門調査会社である IDC Japanの調べによると、2019年第1四半期(1月~3月)の国内トラディショナルPCの出荷台数は前年同期比29.2%増の405万台、同第2四半期(4月~6月)は前年同期比45.0%増の397万台。そして、同第3四半期(7~9月)は前年同期比69.7%増の480万台となり、年間を通じて高い成長を遂げている。第4四半期(10~12月)も前年実績を上回る形で順調に推移したようだ。

とくに第3四半期は、「IDCがトラッキングを開始して以来の最大の出荷数。法人ではWindows 10搭載のPCへの切り替え需要が爆発的に増加し、家庭市場も近年稀に見る活況を呈した」(IDC Japan)と、歴史的に見ても高い実績をあげていることがわかる。

第3四半期にブランド別シェアで首位となった富士通クライアントコンピューティングでは、同社PCの生産拠点である島根富士通が、2019年9月に過去最高となる月産30万台を達成。日本HPも、東京・日野の東京生産体制を増強し、需要に対応するなど、増産体制を敷くPCメーカーが相次いだ。

一方で、2018年後半から続いているインテル製CPUの世界的な供給不足の問題は、依然として続いており、2019年11月には、インテルがOEMメーカーなどに対して、供給量不足を謝罪する書簡を送るという事態にまで発展しているが、数値を見てもわかるように、日本におけるPCの出荷台数は過去の水準と比べても高いものとなっている。

実際、CPUの供給不足を背景にしたPCの品薄の状況は、いまも続いており、「モノがあれば、さらに販売台数が伸びた」という指摘もあるが、国内市場向けには比較的潤沢にCPUが供給されており、業界全体で旺盛な需要に対応する体制を整えているともいえる。

MM総研は、2019年度(2019年4月~2020年3月)までの国内PC出荷を前年比27.6%増の1510万4000台と予測。Windows XP特需があった2013年度の1651万3000台、震災後の復興需要や景況感の回復によって需要が伸びた2011年度の1530万4000台に次ぐ、過去3番目の出荷台数を見込んでいる。今後の動き次第では、過去2番目となる可能性もある。このように、2019年のPC市場は極めて好調だった。

2020年は好調の反動が来る?

では、2020年のPC市場は果たしてどんな1年になるのだろうか。

業界全体を見回すと、一転して厳しい市場環境になるのは間違いなさそうだ。

それは、2019年の好調ぶりを支えたWindows 7からの買い替え需要、消費増税前の駆け込み需要という成長を牽引した要素がなくなり、むしろ、その反動が大きく影響する1年になるからだ。

過去を振り返ってみよう。

MM総研の調べによると、Windows XPからの買い替え需要が集中した翌年の2014年度は、前年比23.6%減の1260万9000台と縮小。さらに、2015年度には、21.4%減となる990万6000台にまで落ち込んだ。

わずか2年でピーク時の6掛けにまで市場は縮小。1000万台を割り込む事態となったのだ。

さらに、2016年度には1011万2000台、2017年度も1034万台と、1000万台規模で低迷。ようやく、2018年度に1183万3000台と、2桁成長による回復の兆しをみせたが、依然として出荷台数は低い水準のままだった。

このように、Windows XP特需の「反動」ともいえる市場低迷が、約5年に渡って続いた経験がPC業界にはある。ちなみに、このときには、今回のWindows 7のサポート終了時と同じく、消費税率の8%への引き上げ前の駆け込み需要も加わっている。いまと似通った状況にあり、そうした観点からも、業界内では、これと同じことが今回も起こる可能性を示唆する声がある。

だが、その一方で、ここまでの落ち込みがないとの指摘や、低迷は長期化しないとの観測も少なくない。

その背景には、Windows XPからの買い替え特需後には市場を喚起するための打開策がほぼなかったのに対して、今回は反動を緩和する4つのプラス要素があるからだ。

反動を乗り越える2020年の4つのプラス要素

では、4つのプラス要素とはなにか。

ひとつめは、働き方改革によって、新たなPCの導入に対する機運が高まっていることだ。

ここ数年、働き方改革は、政府主導による取り組みとして、日本全体を巻き込んだものとなり、2019年4月の「働き方改革関連法」の施行や、「テレワーク・デイ」の実施などの動きも見られている。

「働き方改革」は、働く人が置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く一人ひとりがより良い将来の展望を持てる、働く環境の実現を目指したもので、長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保などに取り組んでいる。

それを実現するためには、ITの活用は不可欠であり、働く場所や時間などを選ばない環境を実現するテレワークを推進する上でも、モバイルPCなどの最新PCを導入する必要がある。

働き方改革は、長期的には、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、育児や介護との両立をはじめとする働く人のニーズの多様化など、日本が抱える課題を解決するものになるが、短期的には、2020年の東京オリンピック/パラリンピック開催時の働き方を支えるになるとして注目を集めている。

総務省などは、2019年7月22日から9月6日までの約1カ月間に渡り、大会前の本番テストに位置づけた「テレワーク・デイ」を実施し、2887団体、約68万人が参加。この取り組みでは、東京23区全体の通勤者が1日あたり約26万8000人も減少し、政府目標の1割に近い9.2%の減少率を実現した。

東京オリンピック/パラリンピック開催時における働き方では、テレワークの活用が期待され、これにより、都心部の交通渋滞をはじめとする課題の解決にも貢献するとみられている

この動きが、2020年以降のPC需要を下支えすると期待されているのだ。

2つめは、教育向けPCの動きだ。

2019年11月に、安倍晋三首相が、児童および生徒に対して、PCを1人1台の体制で整備することを、「国家意思として明確に示すことが重要」と発言したのに続き、政府は、2019年12月に閣議決定した総額26兆円規模の総合経済対策において、2023年度までに、小中学校全学年の児童生徒一人一人が端末を持ち、十分に活用できる環境の実現を目指すことを盛り込んだ。

さらに、新小学校学習指導要領により、2020年度から小学校におけるプログラミング教育が必須化すること、2024年度からの大学入試ではPCが使われるようになることも、自宅で子供のときからPCに触れさせておきたいという親が増加することにつながり、新たな需要を喚起することになる。

ここでは、800万台近いPCの需要創出が期待されており、これまで長年に渡って顕在化されてこなかった需要が生まれることになる。まさにPC業界にとっては「フロンティア」といえる領域だ。

3つめは、ゲーミングPCだ。

2019年9月に開催されたTOKYO GAME SHOW 2019でも、PCメーカー各社がゲーミングPCを相次いで展示し、一大勢力として存在感を発揮したのは記憶に新しいが、この動きは2020年以降、さらに加速しそうだ。

もともとゲーム専用機やスマートフォンで利用されていた主要ゲームソフトがマルチプラットフォーム化し、PCでも利用できるようになったことを背景に、より性能の高い環境でプレイするために、ゲーミングPCを購入するユーザーが増加している。

そして、ゲームがeスポーツ化するとともに、ゲームを通じたコミュニケーションが活発化。ゲームをプレイするだけでなく、ゲーマーやチームを応援するといった新たな層が生まれている。

こうした動きが、ゲーミングPCの需要拡大を支えている。

現在、国内におけるコンシューマ向けPC市場全体におけるゲーミングPCの比率は約5%とみられているが、海外ではコンシューマ向けの約15%をゲーミングPCが占めており、その勢いは増している。言い換えれば、今後は、日本でも同等規模にまで成長する可能性があり、伸びしろは大きい。

ここにもPC業界の成長を支える要素がある。

そして4つめが、エッジコンピュータである。

IoTの広がりによって、あらゆるデバイスから情報が発信され、生成されるデータ量は拡大の一途を辿っている。これらのデータをすべてクラウドにあげて処理するのではなく、発生源に近いところで処理。それを、リアルタイム性を持った形で活用したり、処理後に必要なデータだけをクラウドにあげたりするといった活用において、エッジコンピュータが力を発揮する。

たとえば、工場内や家庭内から吸い上げたデータを、エッジコンピュータでその場で処理して、機器の制御や、家庭向けサービスに利用することもできる。

また、こんな利用も想定される。教育分野では、1教室あたり30~40台のタブレットを学校の基幹ネットワークに接続すると、回線が細くコンテンツのダウンロードには多くの時間がかかるが、教室内に設置したエッジコンピュータからダウンロードすれば、教室内のネットワーク環境でダウンロードできるため、外部環境の影響を受けることがなく、授業を止めずにストレスなく利用することができる。教育向けPCの普及とともに、エッジコンピュータを活用する動きも広がるというわけだ。

エッジでの活用を想定した小型、高性能のコンピュータの登場もPC市場を喚起することになる。

こうした4つの要素を捉えると、2020年のPC市場は、全体的には市場が縮小したとしても、次につながる動きがみられることになりそうだ。

これを2020年以降の市場成長につなげることができるかどうかが、PC業界全体に課せられた2020年の重要なテーマになるといえる。