シャープの沖津雅浩社長CEOは、中期経営計画の取り組み状況などについて説明。デバイス事業におけるアセットライト化については、「スピード感を持って実行できている」と発言。その一方で、「オンリーワンの技術を使って、他社にない新しい商品をつくるのがシャープらしさであったが、経営危機となり、この数年は、それができていなかった。アセットライト化はほぼ終息した。ここでもう一度、『シャープらしさ』を取り戻すことに向かいたい」と述べた。一方で、2025年5月から開始したアイススラリー冷蔵庫の法人向けレンタルサービスが600社の実績に達したこと、2025年8月から予約を開始した対話AIキャラクター「ポケとも」の予約数が3000台に達していることも明らかにした。「ポケとも」は、2027年度までに10万台を販売する計画だ。

  • シャープ 代表取締役社長執行役員 CEOの沖津雅浩氏

    シャープ 代表取締役社長執行役員 CEOの沖津雅浩氏

シャープの沖津雅浩社長CEOは、2024年6月の社長就任以降、「シャープらしさを取り戻す」という言葉を何度も使ってきた。

「シャープは、2012年から経営危機に陥り、現在、35歳以下のシャープ社員は、厳しいなかのシャープしか知らない。また、鴻海グループの傘下で、節流という言葉を使い、節約することを前提に行動をしてきた」と振り返り、「私は、以前の元気なシャープの時代に戻すことを目指している。『シャープらしさ』を取り戻したい」と意気込みを語った。

  • シャープは今年、新たに「ひとの願いの、半歩先。」というコーポレートスローガンを打ち出している

    シャープは今年、新たに「ひとの願いの、半歩先。」というコーポレートスローガンを打ち出している

沖津社長CEOは、1980年にシャープに入社。44年間、シャープ一筋だ。それだけに、「シャープらしさ」の復活には人一倍の思い入れがある。

入社してからは、技術者として20年間に渡り、エアコンの開発に従事。シャープは、日本で2番目にインバータをエアコンに搭載しており、その技術開発に携わってきた。2000年には「自ら手をあげて」(沖津社長CEO)、タイのシャープアプライアンス(タイランド)に赴任。だが、2年で日本に戻り、1年間、プラズマクラスターイオン(PCI)の技術部長として、空気清浄機へのPCI搭載を促進。PCI搭載空気清浄機は、当初は33万台の販売目標に対して、50万台の出荷実績を達成し、PCIの普及に弾みをつけた。

2003年に中国に赴任。電化システム事業本部システム事業部中国設計センター所長として、設計センターの設立に尽力した。「設計センターは現在も稼働しており、当時、中国で採用した現地のメンバーが所長としてがんばっている」という。

2005年からは、上海において、白物家電の製造拠点である上海夏普電器有限公司の総経理を務め、2009年には日本に戻り、健康・環境システム事業本部ランドリーシステム事業部長に就任。2010年からは空調システム事業部長を務めた。2013年に執行役員に就任。2016年には取締役兼常務、2017年に常務執行役員、2019年に専務執行役員 スマートアプライアンス事業本部長、2020年にスマートライフグループ長兼SAS事業本部長、2022年にはスマートライフグループ長兼デジタルヘルス事業推進室長に就任した。2022年6月に代表取締役副社長執行役員となり、本社部門に勤務。2024年6月に代表取締役 社長執行役員兼CEOに就任した。

「シャープ一筋44年間のうち、42年間は白物家電に携わってきた。また、海外経験が8年間ある。それがあったからこそ、2016年にシャープが鴻海グループ入りし、海外の人たちと仕事をすることには、まったく抵抗を感じなかった。鴻海グループとなったことで、新たなことを経験でき、自分にとって役立ったことが多かった」と語る。

沖津社長CEOは、就任して以降、シャープの構造改革に積極的に取り組み、デバイス事業のアセットライト化とともに、ブランド事業に集中した事業構造の確立に着手。堺ディスプレイプロダクト(SDP)のパネル生産の停止と、SDPがあるグリーンフロント堺の主要資産を、ソフトバンクやKDDI、積水化学工業などに売却。亀山モデルの基幹工場となっていた亀山第2工場を、2026年8月までに鴻海に譲渡することも発表している。また、カメラモジュール事業と半導体事業については、鴻海の子会社に譲渡することを決定しており、「デバイス事業におけるアセットライト化については、スピード感を持って実行できている」と自己評価する。

2025年度に入ってからも、構造改革の動きは加速している。

2025年4月から、経営を行うコーポレートと、事業を執行するビジネスグループでの体制へと再編。コーポレートでは、CFOおよびCTOに加えて、新規事業を担当するCBDO(Chief Business Development Officer)、遅れている社内DXを推進するためのCDO(Chief Digital Officer)を設置している。

  • 経営を行うコーポレートと、事業を執行するビジネスグループでの体制へと再編

    経営を行うコーポレートと、事業を執行するビジネスグループでの体制へと再編

「私を含めた5人のCxOは、それぞれ異なる性格で、違う知識を持っている。私がサポートしてほしい知識を持つ4人を集めた」とする。

また、ビジネスグループ(BG)は、スマートライフBGとスマートワークプレイスBGに再編。50代半ばのCo-COOを登用し、事業を推進する。

「いまは、本部ごとに商品を売ることが減り、つながって新たなことを生む仕組みが増えている。つながりが強い本部を、それぞれのBGのなかにまとめ、新しいソリューションを創出し、シナジー効果を生むことを狙っている」と説明した。

さらに、2025年5月には、中期経営計画を発表した。

2027年度まで3カ年を「再成長」のフェーズと位置づけ、2027年度の営業利益で800億円、ブランド事業での営業利益率7.0%以上を経営指標に掲げている。

「私のミッションは、中期経営計画をやりきることである。そこには、数字の達成だけでなく、人を育てるというミッションもある。シャープが『成長している』という結果を出す」と意気込む。

2024年度の営業利益270億円の実績に対して、中期経営計画の初年度となる2025年度は、300億円を計画している。

  • 2027年度まで3カ年を「再成長」のフェーズと位置づけている

    2027年度まで3カ年を「再成長」のフェーズと位置づけている

  • 2027年度の営業利益で800億円、ブランド事業での営業利益率7.0%以上を経営指標に掲げている

    2027年度の営業利益で800億円、ブランド事業での営業利益率7.0%以上を経営指標に掲げている

また、具体的な方針として、「ブランド事業のグローバル拡大と事業変革の加速」、「持続的な事業拡大を支える成長基盤の構築」、「成長をドライブするマネジメント力の強化」を柱に掲げた。

「シャープは新規事業の取り組みが遅れていると指摘される。だが、まずは、既存のブランド事業をしっかりと固めないといけない。その上で新規事業をやっていく。複数の新たな事業のうち、ひとつうまくいかなくても、土台が崩れない体制を作る」と発言。「既存事業でもやれていないことはたくさんある。たとえば、白物家電のB2B事業はあまりやってきていない。ここでシャープの存在感を高めれば、事業は広がる。海外白物事業も、成長が期待できる市場や、シャープの製品が役に立つ国がある。そこにおいても、できることはまだまだある」とした。さらに、「この7~8年はあまり投資ができておらず、新規事業領域への種まきもできていなかった。ソリューションやサービスなどの領域が拡大するなかで、これらの領域に精通した人材の獲得と育成も大切である。そして、将来の成長領域には、より積極的に投資をしていきたい」と述べた。

では、「シャープらしさ」とは、なんなのか?

では、沖津社長CEOが語る「シャープらしさ」とは、なんなのか。

「シャープは、『目の付けどころ』と言われるように、オンリーワンの技術を使って、他社にない新しい商品をつくってきた。これが、『シャープらしさ』である」としながら、「しかし、すべてが成功したわけではなく、成功した商品も決して多いわけではない。成功するのし10個のうち、1個か、2個であり、むしろ、多くの失敗がある。だが、新しいことに挑戦をしないと、会社としての成長がなく、発展もない。そして、働いている人のモチベーションがあがらない。私も新しいことに挑戦できることに、仕事の楽しさがあった。シャープは、経営危機に陥ってから、新しいことに挑戦ができなくなっていた。挑戦することが『シャープらしさ』の源泉である。いよいよ、デバイス事業のアセットライト化が終息した。ここでもう一度、『シャープらしさ』を取り戻すことに向かいたい」と宣言する。

また、「シャープが持つ『目の付けどころ』に、特長技術を加え、さらに、鴻海傘下で学んだスピードが加わることになる。日本の企業は、中国メーカーや台湾の企業に比べて、スピードが遅い。日本の企業が、スピードなしで発展することはあり得ない。スピードがあってこそ、これからの競争を勝ち抜ける」と述べた。

沖津社長CEOは、こんなエピソードも明かす。

「お客様との商談において、鴻海は言われたことに対して、ノーとは言わない。厳しい内容でも仕事を受けて、それから考える。だが、シャープは、1回戻って事業部と相談し、そのあとに回答する。その結果、グローバル企業との商談を逃してしまうことが多かった。仮に、納期が2カ月後という絞りがあった場合にも、結果として、2カ月半や3カ月になっても謝れば済む。顧客にとっても、早く受注し、早く対応してくれることが大切であり、それがグローバルの常識である。日本人は、『検討します』という言葉が好きだが、それでは戦いには勝てない。まずは、その場で、しっかりと返事をしてくるという仕事の仕方をしなくてはならないと言っている」とした。

社内のスピードもあがっている。かつてのシャープでは、月1回開催される経営戦略会議を待って、本社決裁を行っていたが、鴻海傘下になって以降、最優先する決議事項が午前中に提案されれば、午後にはテレビ会議で役員が集まり、決裁するといったケースもあるという。「現在も、全役員が毎週金曜日に集まっている。また、どんな日でも、午前8時には全役員がオンラインでつながることができる。そこで優先する事項を決裁している」という。そして、「日本人だけの執行体制となったことで、以前の遅いスピード感に戻らないように注意していかなくてはならない」と手綱も締めている。

シャープは、鴻海グループ傘下となり、スピード力を経営に取り入れることができたものの、鴻海のやり方が、すべてにおいてプラスになったわけではなかった。

鴻海傘下になった2016年時点では、CEOをはじめとして、すべての事業部門に鴻海グループの社員が関与していたことを振り返りながら、「鴻海は、同じ仕様の製品を大量に作っており、その体制を生かして、シャープにもメリットが生まれると見込んでいた。だが、得意分野が違うことがわかってきた。白物家電や複合機は、鴻海の工場では作れず、作れる領域の製品では生産量には2桁もの違いがあり、シャープの規模ではコストは下がらなかった。この数量規模の生産は、鴻海は不得意であった」とした。

また、「シャープは、言われるとおりに、節流に取り組んできた。コロナ禍では、部品が入手しないため、新たな製品開発ができず、従来モデルを維持するのが精一杯という状況もあった。これが開発の遅れにつながった」とし、「2022年頃から、もう一度、シャープを見直そうということで、開発投資を増やし、社員研修を復活させてきた。さらに、鴻海本体も董事長が変わったことで、方針が変更され、シャープの製品開発は、シャープの社員に任せた方がいいということになった。董事長が変わるまでの鴻海は、EMS(電子機器製造受託サービス)の会社としての考え方であり、モノを安く作り、節約して、利益を出すというやり方だった。シャープ自らも苦しかったので、それをやるしかなかった。だが、鴻海自らも、EVやAIサーバー、ロボティクスといった新規事業をやらないと生き残れないと考えた。厳しいときにきちんと節流を行い、その後の鴻海の方針転換の結果が、いまのシャープにつながっている」と振り返った。

また、「いまは、鴻海から出向していたメンバーが戻り、日本人だけで執行する体制となった。既存事業はシャープがやる。だが、新規事業は、鴻海が持つ資産を活用していく。具体的には、AIサーバー事業やEV事業を、日本で展開していくことになる。世界で最も多くのAIサーバーを生産しているのは鴻海である。それを生かして、日本での事業を検討する。また、鴻海は、いい技術があれば買収したり、人を採用したりする力がある。それも活用できる」と語った。

鴻海の劉揚偉董事長は、シャープの会長も兼務し、3カ月に一度の割合で来日しているという。また、従来は、鴻海から出向しているメンバーを通じて、董事長や本社とやりとりしていたものが、いまは、直接、劉董事長とやりとりするケースが増え、鴻海の戦略を正しく、深く、迅速に理解できるメリットが生まれているという。「AIの翻訳機能を活用して、それぞれに中国語と日本語を使ってやり取りをしている。鴻海が持つ技術や資産を活用して、シャープの新規事業に貢献してほしいと要望している」と述べた。

もうひとつ、沖津社長CEOが指摘したのが、新たな体制に移行したことで、執行役員やビジネスグループ長、本部長クラスの社員が、積極的に外に出られるようになったことだ。

「従来は、社内会議に縛られてしまい、外に出る機会が減っていた。だが、新規事業をやるには外に出なくてはならない。いまは、本部長以上には、優先的に外を回るように指示している。グローバルがどんな変化をしているのかは、現場に行かないとわからない。新しい技術や、新たな事業に触れることで、気づきが生まれ、次の議論にもつながる。机上だけで考えたり、ネットを見たりといっただけではアイデアは生まれない。私自身も積極的に外に行っている」と語った。

さらに、シャープでは、社内DXへの投資の遅れがあったが、それも見直し、今後は、蓄積した各種データを活用しながら、設計者が効率的に開発できる体制を構築する考えも示す。「CDOの新設とともに、蓄積したデータを若い人たちが活用できるようにするために投資を行い、新たな仕組みを作っていく」と述べた。

目の付けどころ、Be Originalから、半歩先へ

シャープは、中期経営計画の発表にあわせて、Our Missionとして「独創的なモノやサービスを通じて、新しい文化をつくる会社へ」を掲げるとともに、2025年9月に、新たなコーポレートスローガンとして「ひとの願いの、半歩先。」を打ち出した。

1990年~2009年までの約19年間に渡って使用した「目の付けどころが、シャープでしょ。」は、同社の代表的なコーポレートスローガンであり、直近までは、「Be Original.」をコーポレートスローガンに使用していた。

これまでのメッセージは、シャープの独創性を前面に打ち出したものであったが、今回のメッセージは、人に寄り添うことや、シャープ自らを変えて、新たな文化をつくるという意思も盛り込んだ点が異なるという。

  • 同社のコーポレートスローガンの変遷

    同社のコーポレートスローガンの変遷

  • 「ひとの願いの、半歩先。」よいうスローガンの成り立ちと、ステートメント

    「ひとの願いの、半歩先。」よいうスローガンの成り立ちと、ステートメント

  • 独創的なモノやサービスを通じて、新しい文化をつくる会社へ、というミッションを掲げている

    独創的なモノやサービスを通じて、新しい文化をつくる会社へ、というミッションを掲げている

沖津社長CEOは、「技術は10歩先、100歩先でもいい。だが、人に寄り添うことができるニーズをつかむためには、人のそばにいて、人がなにを考えて、なにを課題に感じているのかを聞くことができる距離感が必要である。それが半歩先である。お客様から、思っていたものよりも、ちょっといいなと思ってもらえる商品やサービスを届けたい。そこに半歩先の意味がある」とし、「このコーポレートスローガンは、社外に向けて広く発信するだけでなく、シャープ社員が、このスローガンに基づいて日頃の仕事に取り組んでもらいたいという思いを込めた。シャープが、日本の家電メーカーとして生き残るためには、付加価値を追求することが大切であり、そのひとつが、AIoTによるつながる家電と、家まるごとの提案である。日本人の社員が、日本の顧客の使い方や要望を吸い上げ、驚きや喜びを与える製品を作るためのマーケティングを、きちんとやっていきたい」と述べた。

「シャープらしい」あるいは「半歩先」と呼べる製品は、すでに出ているのだろうか。

沖津社長CEOがあげたのが、2015年に発売した無水自動調理鍋「ホットクック」である。

「生活スタイルが変化したときに出した新たな製品である。2年目から売れ行きが鈍化したが、そこで止めずに続けた。共働き世帯の増加や、時間の有効活用が求められるなかで、他社にない製品となり、他社に真似される製品になった」と自己評価する。

ホットクックやヘルシオは、AIoT家電として、ネット接続率が70%を突破していることにも言及。調理メニューがダウンロードでき、生成AIを活用した調理相談がしやすくなっていることを強調した。

「エアコンや冷蔵庫、洗濯機にも生成AIを搭載しており、将来的には、利用者の使い方を学習して、キーをひとつ押すだけで、やりたいことをやってくれるようにしたい。お客様の使い方を学習し、お客様が何を求めているのか、なにを課題にしているのかということをデータで分析して、それを新製品開発に活用するという点でも、AIoTのメリットがある。半歩先の実現につながる」と述べた。

また、「B2Bでは、シャープが戦える領域が多い」ともコメント。ヘルスケア領域での成果をあげる。

「咀嚼計であるbitescan(バイトスキャン)は、5年以上をかけて製品化したものだが、これが他車にはない製品となっている。また、この実績をもとに、生理用ナプキン用サニタリープロダクトディスペンサーのtodokuto(トドクト)や、高齢者施設やフィットネスジム向け非接触ヘルスケアセンシング&クラウドサービスであるi-wellebe(アイウェルビー)の製品化にもつながっている。さらに、水をろ過して再利用することで、繰り返し洗濯が可能な極節水洗濯システムを開発しており、私たちが持つ技術的課題を解決すれば、すぐに採用したいといった声がある」などとした。

さらに、アイススラリー冷蔵庫は、市販のペットボトル飲料を、マイナス7℃で冷やすことで、微細な氷と液体が混合した流動性のあるフローズン状の飲料にすることができ、氷が溶ける際に体内の熱を奪い、液体よりも早く身体のなかから冷やすことができるのが特徴だ。2025年5月から開始した法人向けレンタルサービスは600社の実績に達したという。「レンタルサービスであるため、夏場が終わって返却されているが、リピートの話が出ている。来年はもっと多くの引き合いがあるだろう」との見通しを示した。

また、2025年8月から予約を開始した対話AIキャラクー「ポケとも」は、すでに予約数が3000台に達しているという。「ポケとも」は、半年間で1万台の出荷を目標にしており、2027年度までに10万台を販売する計画だ。

  • 生理用ナプキン用サニタリープロダクトディスペンサーの「todokuto(トドクト)」

    生理用ナプキン用サニタリープロダクトディスペンサーの「todokuto(トドクト)」

  • 市販のペットボトル飲料を、マイナス7℃で冷やすことで、微細な氷と液体が混合した流動性のあるフローズン状の飲料にすることができる「アイススラリー冷蔵庫」

    市販のペットボトル飲料を、マイナス7℃で冷やすことで、微細な氷と液体が混合した流動性のあるフローズン状の飲料にすることができる「アイススラリー冷蔵庫」

  • 2025年8月から予約を開始した対話AIキャラクー「ポケとも」。予約は好調だという

    2025年8月から予約を開始した対話AIキャラクー「ポケとも」。予約は好調だという

沖津社長CEOは、「シャープの開発方針は、価格を追求した裾野の製品は追わないことである。ここに、人、モノ、カネはかけたくない。この領域を追求しすぎると不幸になるのはメーカーと店舗である。こうした製品は、自社工場では生産せず、中国から仕入れたものを需要に応じて品揃えする。一方で、ミドルレンジ以上の付加価値製品は、自ら設計し、白物家電はタイの自社工場、テレビであれば、南京の自社工場で生産し、戦える製品を投入していくことになる」と述べた。

一方、シャープでは、「LDK+」の名称で、EVのコンセプトモデルを発表しており、数年後の市場投入を計画している。

  • 2024年9月に公開したEVコンセプトモデルのLDK+

    2024年9月に公開したEVコンセプトモデルのLDK+

「私は、LDK+を、超大型家電だと位置づけている。LDK+の名称からもわかるように、ガレージに置いておけば、狭い日本の家庭に部屋がひとつ増やせる。ガレージに停車しているときには、車内の家電や空調を活用でき、バッテリーは非常時にも利用できる。クルマは動いている時間よりも、止まっている時間の方が長い。そこを捉えた提案であり、トヨタや日産、ホンダ、三菱自動車が行っているクルマの販売方法とは異なる。家につながるクルマを提案の主体にして、販売していくことになる。鴻海(フォックスコン)のEVプラットフォームをベースに開発し、内装や機能を追加するため、大規模な投資は必要がない。日本の市場だけを対象におり、当面はB2Bで販売し、一定の販売台数を確保する。価格は決めていないが、数1000万円のクルマにすることは考えていない。一般の人に買ってもらうことを目指している。販売ルートについては、クルマの販売実績を持つヤマダ電機などの家電量販店と話をしたり、エネルギー関連事業で関係が深い住宅メーカーとも話をしたりしている。LDK+を購入すれば、住宅用蓄電池を購入しなくても済むという提案も可能になる。シャープの社用車を、鴻海のEVにすることも考えている」などと述べた。

シャープは、電機業界において、給与の賃上率の低さが指摘されている。

「その点は理解しているが、35歳ぐらいまでの若手には厚い待遇とし、業界平均となっている。とくに、ITに精通した技術者などを引き留めたい。また、リーダーが大事であり、組織として強くならないと、いい人材が集まっても力が発揮できない。これまで止まっていた研修にも力を入れている。課長たちが現場を力強く引っ張っていく体制に戻したい」としたほか、「経営危機の時期には、新規採用が減っている。そのころに入社した優秀な社員は、30代でも課長に登用し、2025年4月には、本部長に40代、50代前後の人材を登用する」と述べた。

また、R&D部門では、AI研究開発専門組織を立ち上げたほか、ビジネスグループのAI担当者を含めて、100人規模のAI人材が在籍していることも示した。

「シャープの執行体制は日本人で構成しているが、グローバルで優秀な人材を採用していく。なかでも、日本ではIT関連技術者が不足しており、海外からの採用を進めていきたいと考えている」とした。

なお、シャープを取り巻くブランド事業環境についても説明した。

国内家電では、エアコンは6月まで良かったが、そのあとは販売が落ち込んでいること、冷蔵庫や洗濯機は前年割れとなっており、2025年度下期も横ばいか、減少する見ていること、テレビ需要も減少していることを示したほか、アジアの家電事業も2025年度上期は悪く、とくにアジアの冷夏の影響がエアコンの販売を悪化させたという。「アジアでは、下期にはエアコンの流通在庫の処分があり、苦しい時期になる。12月までに解消し、新たな需要期が始まる1月に備える」とした。

また、テレビ事業については、「国内テレビ市場において、トップシェアの座を取りたい」としたほか、「テレビが、白物家電との提案によって相乗効果は出せる国はがんばるが、白物家電と連携しなかったり、テレビは赤字だったりという国からは撤退する。テレビ事業は集中と選択をしていく」と述べた。

さらに、「シャープの2025年度上期業績を支えたのはPC事業であり、業績はPCが引っ張ってくれたといっても過言ではない。とくに、国内B2B市場での強みを発揮している。WindowsのEOSの特需は12月まで継続すると見ており、1月からは落ちていくことになるだろう」としたほか、「携帯電話は、2025年度の販売台数は増加しているが、2026年度以降は成長するとは見ていない。少ない人員で開発するとともに、通信に関してシャープが保有している特許を生かし、衛星通信や自動運転領域に人員をシフトして、通信事業本部全体として成長したい」と述べた。