エプソン販売は、森ビルとの協業により、東京・麻布台の麻布台ヒルズにおいて、エプソンの乾式オフィス製紙機「PaperLab」を活用した環境負荷低減活動を推進すると発表した。

  • (右から) 森ビル タウンマネジメント事業部メディア事業企画部長の山本栄三氏、エプソン販売 代表取締役社長の栗林治夫氏、エプソン販売 取締役マーケティング本部長の豊田誠氏

    (右から) 森ビル タウンマネジメント事業部メディア事業企画部長の山本栄三氏、エプソン販売 代表取締役社長の栗林治夫氏、エプソン販売 取締役マーケティング本部長の豊田誠氏

エプソン販売 取締役マーケティング本部長の豊田誠氏は、「不動産業界には、紙文化が根強く残っている。社内で作成する文書はペーパーレス化できても、法的に必要な書類や、取引先とのやりとりに必要な書類がある。紙資源循環が可能なPaperLabを活用することで、社内外の紙資源循環を行い、麻布台ヒルズが目指す『Green & Wellness』な街づくりに貢献し、紙循環を中心に街づくりを活性化させたい」と述べた。

  • エプソン販売 取締役マーケティング本部長の豊田誠氏

    エプソン販売 取締役マーケティング本部長の豊田誠氏

また、森ビル タウンマネジメント事業部メディア事業企画部長の山本栄三氏は、「資源循環型の都市づくりが求められているなかで、新たな技術によって紙資源を循環できるPaperLabに注目した。そこで、エプソンに麻布台ヒルズのコラボレーションパートナーへの参加を要請した」とし、「不動産業界は、契約書などの書類が多い業界である。分譲や賃貸といった住宅事業では、法人だけでなく、個人の顧客も多く、書類でのやりとりが多い。再生した紙をできるだけ活用することで、循環型の街づくりに貢献できる」とした。

  • 森ビル タウンマネジメント事業部メディア事業企画部長の山本栄三氏

    森ビル タウンマネジメント事業部メディア事業企画部長の山本栄三氏

PaperLabは、オフィスなどから排出される使用済みのコピー用紙などから、水をほとんど使わずに、繊維化や結合、成形を行い、紙を再生することができる乾式オフィス製紙機で、2016年に「PaperLab A-8000」を発売。2025年3月から、設置スペースを50%削減した「Q-5000」を発売している。官公庁や自治体、金融・証券、製造業などでの導入が進み、これまでに累計で約80台の納入実績を持つ。

  • 麻布台ヒルズのオフィスに導入されたPaperLab

    麻布台ヒルズのオフィスに導入されたPaperLab

  • 設置スペースを50%削減し、オフィス内に設置できるようにしている

    設置スペースを50%削減し、オフィス内に設置できるようにしている

  • 紙源プロセッサー「Q-40」により、使用済みのコピー用紙を細断する

    紙源プロセッサー「Q-40」により、使用済みのコピー用紙を細断する

  • 「Q-40」で使用済みコピー用紙を細断したもの

    「Q-40」で使用済みコピー用紙を細断したもの

  • 細断したものを「Q-5000」に投入する

    細断したものを「Q-5000」に投入する

  • 投入された資源は、繊維化、結合、成形という工程を経る

    投入された資源は、繊維化、結合、成形という工程を経る

  • 10枚単位で再生された紙が出てくる

    10枚単位で再生された紙が出てくる

  • 「Q-5000」で作られた再生紙

    「Q-5000」で作られた再生紙

  • 再生紙はストックされており、ここから取り出していつでも使用できる

    再生紙はストックされており、ここから取り出していつでも使用できる

森ビルが導入したPaperLabでは、紙源(しげん)プロセッサー「Q-40」により、使用済みのコピー用紙を細断し、これを「Q-5000」に投入。水を使わずに衝撃力で繊維化して、天然の結合素材により、強度を向上しながら結合。加圧して成形し、再生紙を生み出すことができる。古紙の処理枚数は1時間あたり500枚で、1時間にA4サイズで約360枚の再生紙を作ることができる。

森ビルでは、麻布台ヒルズのオフィスに、約120人が勤務しており、同フロアに、2025年8月から、「Q-5000」および「Q-40」を導入。就業時間外に稼働させて、1日約700枚の再生紙を作っているという。

「麻布台ヒルズのオフィスでは、1年間で18万枚の再生が可能であり、再生に必要な水資源は500mlボトルで168万7200本分を節約でき、CO2排出量は1.72トン相当を削減ができる」(エプソン販売の豊田取締役)と試算している。

  • 「PaperLab」は、水をほとんど使わずに、繊維化や結合、成形を行い、紙を再生することができる乾式オフィス製紙機

    「PaperLab」は、水をほとんど使わずに、繊維化や結合、成形を行い、紙を再生することができる乾式オフィス製紙機

  • 麻布台ヒルズの事例では、再生に必要な水資源を500mlボトルで168万7200本分節約、CO2排出量を1.72トン相当削減

    麻布台ヒルズの事例では、再生に必要な水資源を500mlボトルで168万7200本分節約、CO2排出量を1.72トン相当削減

麻布台ヒルズのオフィスに、PaperLabを導入して以降、「紙資源循環の意識が高まった」と回答した森ビルの社員は80.5%となったという。

森ビルの山本部長は、「シュレッダーにかけた紙は、ゴミにしかならなかったが、それが資源として再生されるということを、オフィス内で、目の当たりにし、紙資源循環を強く意識するようになった。紙資源循環の過程を、オフィスにいながら、目で見て、感じることができることできる」とし、「78.1%の社員がPaperLabの導入後に、森ビルへの愛着や誇りが高まったと回答している。再生紙の半数以上が、メモ用紙や社内会議資料として利用されている。社外向けには『白い紙信仰』があり、再生紙の利用はまだ少ないが、今後は、名刺での使用や、社外の資料も積極的に使っていくことで、社外にも、この取り組みを知ってもらうことが重要であるという意見が社内から出ている」という。

森ビルでは、大規模再開発において、Vertical Garden City(立体緑園都市)の考え方を通じて、高層化することで地上に広大なオープンスペースを生み出し、そこを緑化し、ヒートアイランド現象の低減を図といった取り組みを進めてきた。その代表的なプロジェクトが麻布台ヒルズだという。

エプソン販売は、2025年7月に、森ビルが運営する麻布台ヒルズのコラボレーションパートナーに参画。街全体での環境負荷低減活動の推進や、エプソンならではの技術およびサービスを活かして、街の活動をサポートしている。

森ビルの山本部長は、「コラボレーションパートナーは、六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズでも実施しているものであり、それぞれのヒルズのコンセプトに共感してもらえる企業に、街を舞台にした様々な活動を推進してもらい、街づくりをサポートしてもらっている。エプソン販売は、13社目のコラボレーションパートナーである。今後は、エプソン販売と一緒になって、麻布台ヒルズに入居するオフィステナントに対して、PaperLabを紹介し、賛同する企業には活用してもらいたいと考えている。資源循環型の都市づくりを、麻布台ヒルズ全体に広げていきたい」と語った。

ペーパーレス化に取り組む企業は多いものの、企業内には、紙が一定量残る業務環境が存在しているのは明らかだ。そうした環境においては、ペーパーレス化ではなく、紙を循環させるという観点から環境配慮に取り組む提案を行うのが、エプソンのPaperLabということになる。

  • ペーパーレス化に取り組みつつも、紙が残る現場が存在しているという現実に、選択肢としてPaperLabの活用がある

    ペーパーレス化に取り組みつつも、紙が残る現場が存在しているという現実に、選択肢としてPaperLabの活用がある

使用済みとなった紙を、ほとんど水を使用せずにオフィス内で再生するPaperLabにより、紙を有効活用することで、環境負荷を軽減するだけでなく、古紙回収などを通じた障がい者の雇用確保といった点でも効果があるほか、社外との共創により、オフィスビル全体や地域での紙資源の循環などにも活動を拡張。さらには、産官学の連携により、再生紙で作成したカレンダーなどのアップサイクル品の考案、学校への出前授業の実施による子供への環境意識の向上などにも貢献できるとしている。

すでに、PaperLabを自ら社内利用しているエプソン販売では、東京・新宿の本社内での紙の循環だけでなく、同じビルに入居する辻・本郷税理士法人とも連携し、同社が廃棄する紙も、エプソン販売の紙循環スキームのなかで再生しているという。さらに、群馬県太田市では、市役所、小学校、リサイクルプラザから廃棄される紙を循環する仕組みを構築し、地域全体を巻き込んだ紙資源再生に取り組んでいるという。

今回の説明会では、エプソン販売が実施した環境に対する企業の意識調査についても発表した。

オフィス改善やSDGsなどに関わる従業員500人以上の企業に勤務する社員を対象に実施したもので、1323人から回答を得ている。

これによると、勤務先で環境に対する意識が高まっているとの回答は、2019年の調査では56.8%だったものが、今回の調査では68.3%へと、11.5ポイントも増加。業種別では製造業において、59.0%から80.6%へと21.6ポイントも増加いるという結果が出た。エプソン販売の豊田取締役は、「この6年間で、製造業では最も大きな意識変化があり、多くの企業が環境意識を高めている」とした。

環境配慮の目的としては、「コスト削減」が最も多く60.5%を占めたが、前回調査からは7.9ポイント減少。一方で、「環境への配慮が企業の当然の義務」との回答が15.0ポイント上昇して54.4%に、「企業の社会的責任(CSR)を市内外にアピールするため」が44.7%、「企業イメージを上げるため」が38.4%となり、いずれも前回調査から増加している。

  • 環境配慮の取り組みの関心。特に製造業で最も大きな意識変化がみられる

    環境配慮の取り組みの関心。特に製造業で最も大きな意識変化がみられる

また、環境への取り組み項目として、「照明の調整による省電力」、「空調の温度調整による省電力」が多い点に変化はないが、「ペーパーレス化に向けたデジタルデバイスの導入」が一気に増加しているという。

環境配慮の取り組みの成果については、78.2%の企業で成果が出ていると回答。メリットとしては、「エネルギーコストや資源コストの削減」といった直接的な効果が最も多く、54.9%となったが、「社員の環境配慮の意思が高まった」、「社員エンゲージメントが高まった」という副次的な効果も生まれている。ただ、17.0%の企業ではメリットがないと回答している点も浮き彫りになった。

その一方で、課題としては、専門人材不足や社員の環境意識の低さ、収益とコストのバランスが取れていないことなどが、推進の障壁になっていることが浮き彫りになった。

また、ペーパーレス化の状況についても調査している。これによると、コピー用紙の使用量削減が求められているとした企業は84.2%となり、実行できている企業は81.8%に達しているものの、自治体やサービス業でのペーパーレス化が相対的に遅れていることがわかった。

ペーパーレス化に消極的な企業では、習慣や業務変更の難しさ、紙の読みやすさ、社内規定によって紙での保管が定められていることなどが理由となっているという。

  • ペーパーレス化に消極的な理由。紙の方が読みやすい、規定がある、といった理由は根強い

    ペーパーレス化に消極的な理由。紙の方が読みやすい、規定がある、といった理由は根強い

今回の調査結果から、エプソン販売の豊田取締役は、「環境配慮への関心は高まっている。目的としては、社会的責任やイメージアップが増えている。また、ペーパーレス化は進んでいるが、紙が一定量残る業務も存在している」と総括した。

エプソンは、プリンターメーカーではあるが、オフィスのペーパーレス化を推進する姿勢をみせている。エプソンの豊田取締役は、「エプソンは長野県諏訪市の諏訪湖のほとりで創業し、それ以来、諏訪湖の水を汚さないという姿勢が事業を進めてきた。環境負荷低減活動にも積極的であること、紙の重要性はなくならないと考えていること、そして、紙以外にもプリンティングする需要が増加しており、そこにエプソンのビジネスの可能性がある」と述べた。

エプソングループの環境への取り組みについても説明した。

同社では、2050年にカーボンマイナスと地下資源消費ゼロを目指している。それに向けた取り組みのひとつが、インクジェット技術を活用することで省エネを推進し、CO2排出量の削減につなげるという提案だ。エプソンでは、オフィスで使用しているレーザープリンターやレーザー方式の複合機をインクジェットに置き換えることで、年間CO2排出量を最大66%削減することができると試算している。ある自治体では、19台のレーザープリンターを、21台のインクジェットプリンターに置き換え、今後5年間の見込みでは、CO2削減および消費電力量では、約78.6%削減できると試算。電気代に換算すると167万円の削減が可能になるという。

エプソン販売の栗林治夫社長は、「エプソンは、環境、DX、省人化を通じた価値提供活動を行っている。とくに、環境については、ESG経営の観点からの意識の高まりを感じている。環境に関する問い合わせは、2024年度に比べて2倍に達している。だが、なにから取り組んでいいのかがわからないという経営者の声も多く、中小企業からは、取引先からの要請に応えるために環境対策に取り組むケースが少なくない。エプソンでは、ESGに関する専門部署を立ち上げ、包括的な提案によって、環境戦略に取り組む企業を支援をしていく」と述べた。

  • エプソン販売 代表取締役社長の栗林治夫氏

    エプソン販売 代表取締役社長の栗林治夫氏

実際、エプソン販売が提供するサステナビリティ経営支援サービスの依頼は増加傾向にあり、なかでも、製造業関連が最も以来の数が多く、全体の27.3%を占めているという。とくに自動車産業関連の依頼が増加し、その背景には取引先や海外企業からの要請が増加していることが想定されるという。

また、企業のサステナビリティへの配慮を点数化し、国際評価するといった要請が増加しており、こけに対しても、エプソン販売では、スコア分析を支援するとともに、スコアを向上させるための提案も行っているという。

エプソン販売の栗林社長は、「エプソンは、環境負荷低減への対応を一層強化していく」とし、「2025年は、エプソンブランドがスタートしてから、50周年を迎えている。エプソンは、引き続き、お客様の期待を超えるような感動を提供していく考えである。今回の森ビルとの未来に向けたコラボレーションは、次の50年に向けたシンボリックな機会になる」と位置づけた。