パナソニックグループは、同社製品の模倣品対策について説明。パナソニックオペレーショナルエクセレンス傘下のパナソニックIPマネジメント 商標・意匠部 コーポレートブランド課の青木久枝課長は、「無形資産を巡らし、価値に変えて、世界を幸せにするのが、パナソニックグループの模倣品対策の基本姿勢である」とし、「消費者が模倣品を購入しないことで、利用者の安全性が確保され、犯罪組織の収益源につながらず、知的財産権が守られることによって、次のイノベーションが生まれ、社会課題を解決できる。そのためにも重要に活動になる」と位置づけた。
OECD(経済協力開発機構)によると、世界における模倣品被害額は、2019年に5090億ドル(約75兆円)に達しており、被害額は増加傾向にあるという。また、パナソニックグループでも、お客様相談センターへの問い合わせにおいて、模倣品に関する問い合わせが、ここ数年で増加しており、模倣品が様々なカテゴリーに広がっていることを指摘する。
単純模倣だったものが、徐々に巧妙化、悪質化
パナソニックIPマネジメントの青木課長は、「従来は、単純模倣であったものが、徐々に巧妙化、悪質化しており、コンシューマ向け製品だけでなく、配線器具や業務用プロジェクターなどのビジネス向け製品にも拡大している」としたほか、「中国では、『松下』の看板を掲げた偽販売店も存在している。また、昨今では、オンライン販売によって模倣品が全世界で取り扱われるようになり、YouTubeやTikTokなどでは、模倣品の広告が表示されることが増えている」という。
B2C領域の模倣品としては、ヘアドライヤーや電気ポット、洗濯機、液晶テレビ、エアコン、乾電池、PC用ACアダプターのほか、パナソニックがスポンサードをしていたオリンピックのピンバッチの模倣品もあるという。
金型まで起こして、デザインまでそっくりに模倣したものや、Panasonicのロゴに近いブランド名を付与した方品があるほか、洗濯機や液晶テレビなどの大型家電の場合には、Panasonicブランドだけを勝手に貼付した模倣品も見られるという。なかにはパナソニックがかつて販売していたNationalブランドを使った模倣品も発見されたという。
「電池の模倣品が最も多い。パナソニックの電池は、オレンジ色系のパッケージになっているが、模倣品ではコーポートカラーのブルーを基調にしたパッケージとなっており、いかにもパナソニックが製品化したような印象を与えている。製品によっては、説明書やオプションなども用意されており、模倣が巧妙化している」という。
ただし、模倣品の説明書には問い合わせ先の記載がなかったり、表示されているバーコードを読み取ると、マレーシアのUberの情報に辿り着くなど、意味をなさない情報が表示されることが多いという。
また、パナソニックが製品化していない製品に、Panasonicブランドを付与して販売している例もあるという。同社が確認したところ、パナソニックが製品化してないスマートウオッチや高圧洗浄機、パルスオキシメーターのほか、Panasonicブランドの薬、帽子をはじめとしたアパレル、スマホのケースカバーなどを発見したという。
一方でB2Bでは、先に触れたコンセントなどの配線器具、業務用プロジェクターのほか、コンデンサー、電子部品実装機用フィーダー、自動ドアの部品、固定電話、自動車用電池などがある。トイレに設置されているハンドドライヤーの模倣品もあるという。
同社が懸念しているのが、コロナ禍をきっかけにオンライン取引が増加したのにあわせて、オンラインでの模倣品の販売が急増している点だ。
「リアルの店舗では1対1での取引であったが、グローバルのオンライン取引では1対Nの関係が生まれ、模倣品の拡散力や拡散スピードが格段に高まっている。なかでも、2024年以降は、SNSを活用した詐欺広告が国内外を含めて増加している。積極的な対策を実施したことで一度は終息したが、今年夏から再燃している」という。
パナソニックとは関係がない業者や個人が、パナソニックを名乗ってSNSに投稿したり、Panasonicの文字に近いドメインを取得して投稿し、誤認させるといったことが起きているという。
「パナソニックホールディングスでは、偽商品や模倣品、偽広告、偽サイトに注意してもらうように注意喚起を促しているのに加え、SNSのプラットフォーマーを通じた出品削除の要請などを行っている。信頼できる店舗やサイトで、商品をよく確認してから購入することが大切である。消費者自身も注意してもらいたい」と呼びかける。
模倣品のリスク、発火事案など安全面も深刻
模倣品には、様々なリスクがある。
模倣品は、安全面に配慮されていないため、電気を使用する製品では、発火する危険性があり、生命に対するリスクがあること、どこで生産されているかわからないため、身体に悪影響を及ぼすなど、衛生面でのリスクがあること、さらに、保証がないことや、故障しやすいことなどもリスクに挙げている。
たとえば、同社が、ミャンマーで入手した模造品のアイロンを解析し、動作試験を行ったところ、安全性に配慮されていない構造となっており、温度調整を行うサーモスタットが壊れやすく、ヒューズが適切に設計されていないため、温度が上昇し、最終的には燃えてしまう結果になったという。
パナソニックIPマネジメントの青木課長は、「パナソニックのアイロンの場合、サーモスタットが壊れても、温度ヒューズが働き、燃えるような温度になることはない」とし、「現時点では、パナソニック商品の模倣品によって、大きな事故や生命に危険を及ぼすような事象は起きていない。アイロンの模倣品は、現地当局によって、早い段階で押収することができたため、ユーザーに出回らず、発火するような事故の発生を事前に抑止できたともいえる」と語る。
<動画>「偽物との戦い~Panasonicの模倣品対策~」
模造品のアイロンが発火してしまう実験の様子も
さらに、「模倣品だからと安く購入できても、すぐに壊れてしまい、買い替えなくてはならないといったことが起こる。模倣品は、また、相対的に部品数が少ないため、なかに重りを入れて誤魔化している例もあるほどだ。また、模倣品を扱っているECサイトでは、製品が届かなかったり、個人情報を搾取されたりする可能性があるというリスクも考慮しなくてはならない」と警鐘を鳴らす。
一方で、こんな指摘もする。「模倣品が広がることで、メーカーに入る利益が奪われ、研究開発投資が減少し、顧客に対して良い製品を継続的に提供できなくなることや、模倣品が押収された場合には、すべてが廃棄されるため、環境への影響が出ること、模倣品を購入すること自体が犯罪組織を応援してしまうこと、模倣品の多くの劣悪な環境で作られ、新興国での児童労働の課題につながっていることなどを指摘。「経済的損失、環境問題、安全問題、人権問題など、社会に与えるマイナス影響が少なくない」と語った。
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こちらの模倣品(左)は「Paosmaoic」というブランド。右が正規品
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これらは、すべて模倣品だ。パナソニックからはブルーのパッケージの電池は販売されていないが、青いコーポレートカラーのイメージから正規品に見えてしまう
模倣対策は「企業の社会的責任」
パナソニックグループでは、約30年前から、模倣対策を企業の社会的責任と考え、『お客様の保護』、『ブランドを含む知的財産の保護』、『社会課題の解決』の3つの観点から、模倣品を『作らせない』、『売らせない』、『買わせない』ための取り組みを進めるとともに、日本および海外政府に向けて、法律の改正を含めたロビー活動や、消費者に向けた啓発活動を行ってきた。
「作らせない」という点では、「最も上流であり、ここを押さえることができれば模倣品は出てこない。現地当局と連携しながら、製造工場の摘発や模倣品の押収を行っている」と語る。
2024年には、中国・浙江省の模倣品製造元を摘発し、模倣品のコンセントを1万5200個、ブレーカー2万3750個を押収。また、中国・安徽省では自動ドア部品の模倣品製造元を摘発するという成果があがっている。
「売らせない」では、ECサイトなどにおける模倣品販売の取り締まりや、販売店舗の摘発に協力。パナソニックグループ自らが、約100か国の約1000のECサイトを定期的に巡視して、模倣品を発見した際にはプラットフォーマーなどに対して通報および削除申請を行っている。また、実際の店舗でも、「Panasonic」に類似した商標などを使い、誤認混同を引き起こして模倣品を販売する行為を発見するとち、民事訴訟などによって、侵害行為を中止させているという。
さらに、国内に模倣品が持ち込まれないように税関で止めるといったことにも取り組んでいる。
「191の国と地域で、Panasonicの商標を登録しているほか、国境を越えて出回る模倣品の流通を水際で食い止めるために、41の国や地域において、商標をはじめとする知的財産権の税関登録を行っている。権利の侵害が発生した国や地域を中心に、現地当局との連携を強化し、税関職員向けの研修も行っている」という。
ノーブランドのまま、国内に持ち込み、国内でブランドをつける作業を行って販売するなど、巧妙化する手口への対策も進めているようだ。
「買わせない」という点では、消費者に対する啓発活動により、模倣品を購入るリスクを認識してもらい、購入しない大切さを訴求していくという。
「いま最も強化しているのが『買わせない』という点。オンライン時代になり、『作らせない』、『売らせない』という施策だけでは、対策のスピードが追いつかない。消費者自身が買わなくなれば、偽物も売れなくなり、作られなくなる。根本的な対策になる」とする。
具体的には、Z世代に対する啓発活動を強化。中学校での出前授業、啓発動画の制作および発信、SNSでの定期的な情報配信などを行っている。
「Z世代は、デジタルネイティブの世代であり、柔軟なマインドを持つ。いまのうちから、模倣品に対する認識をしっかりと持ってもらうことで、将来の主要マーケット層となったときに模倣品を購入しない世代になってもらいたい」とする。
また、ロビー活動としては、業界を超えた約300の企業や団体が参加する国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)に、幹事会社の1社として参画。2021年に啓発ワーキンググループを設置し、現在は啓発プロジェクトとして、急増しているオンラインで販売される模倣品を購入しないように呼びかけを行っている。タイでは啓発動画制作コンテストを実施し、日本では大学生向けセミナーを実施したという。
パナソニックIPマネジメントの青木課長は、「パナソニックグループは、偽物工場の摘発、税関での差し止めなど、現地当局と連携により、世界中の模倣品排除に取り組んでいる。その結果、模倣品対策に力を入れている企業であるとの認識が広がっており、それが、模倣品の製造や販売へのけん制にもなっている。今後も、『作らせない』、『売らせない』、『買わせない』という観点から、継続的に模倣品の排除に取り組むとともに、啓発活動を推進していく」とも語った。
啓発活動の一環として、パナソニックホールディングスでは、「ブランド保護の取り組み~模倣品のない健全な世界を~」と題したサイトを用意し、模倣品に関する情報を提供。そのなかで、偽物を見分ける5つのポイントとして、「ロゴやデザインの非妙な相違」、「極端な安値」、「パッケージや取扱説明書の質が低い」、「共同開発と謳われている」、「販売元が公式のチャネルではない」をあげている。
パナソニック「ブランド保護の取り組み~模倣品のない健全な世界を~」
https://holdings.panasonic/jp/corporate/about/intellectual-property/brand-protection.html
模倣品対策について、パナソニックIPマネジメントの青木課長は、「パナソニックグループは、経営理念のもと、社会生活の改善と向上、世界文化の進展に寄与するためにビジネスを行っている。模倣品対策も同様であり、お客様の安全のために対策を取ること、信頼されるパナソニックブランドの保護や知的財産権を尊重すること、そして、企業の社会的責任として、模倣品の排除に取り組んでいる。正しくビジネスを行っている企業が、正しくビジネスを継続できる公正な競争の実現を目指し、継続的な事業展開、投資の回収につなげなくてはいけない。模倣品対策によって、無形資産を保護し、イノベーションが活性化して、社会全体をより良くすることを目指している」とする。
その上で、「パナソニックグループは、100年に渡り、高品質の製品を届け、信頼を築き上げてきた。この信頼を破壊し、利用者に危険を及ぼす模倣品は絶対に許さない。利用者の安全と健全な社会を実現するために模倣品対策に取り組む」という強い意思をみせる。
パナソニックグループの模倣品対策は、利用者の安全を維持し、パナソニックブランドが持つ信頼を継続させるためにも不可欠な取り組みである。







































