面倒なMIDIの打ち込み。その作業を楽譜をスキャンして自動で行えるソフトがMusitekの「Smart Score X Pro」だ。このソフトを使って、楽器店で販売されているようなバンドスコアをうまくデータ化できるのか、試してみよう。

紙の譜面をスキャンしてMIDIデータ化

DTMで完全オリジナル曲を作るのも面白いが、初めての曲作りではなかなか難しい。そこで誰もがチャレンジしてみるのは、楽器店や書店で販売されているバンドスコアを片手に好きなアーティストの楽曲を再現しようとすることではないだろうか。たとえばギターが弾けるならば、それ以外のドラムやキーボードパートをMIDIで打ち込めば一人でコピーバンドができる。

ただしこの場合、各パートをMIDIデータとして個別に打ち込んでいく必要がある。打ち込み自体はバンドスコアが読めれば難しいものではないとはいえ、やはり時間がかかる。この作業をもっと簡単にできないのか、と考えている人もいるはずだ。

画像データやスキャンした楽譜を自動でMIDI化する機能も搭載した楽譜制作ソフト「Smart Score X Pro」

プロの世界でも楽譜制作・編集に広く普及している米Musitekの楽譜制作ソフト「Finale 2008」

そこで今回は、パソコンで楽譜を読み込みデータ化できる米Musitekの楽譜スキャンソフト「Smart Score X Pro」を試してみた。楽譜制作ソフトというジャンルは、DTMではあまり馴染みがないかもしれないがクラシックの世界などではよく使われている。米MakeMusicの定番「Finale」シリーズは楽譜出版社などにも広く普及している。Smart Score X Proは楽譜の編集、印刷に加え、画像データとして読み込んだ譜面情報を認識してMIDIデータに変換・出力できるのが特徴だ。バンドスコアをうまくMIDIデータ化できれば、DAWソフトに読み込ませることも簡単である。

なお今回はSmart Score X Proに収録されるサンプル楽譜に加え、手元の初心者向けギター教本に掲載されていたバンドスコアを試してみたが、著作権上、掲載画像は収録のサンプル楽譜を読み込んだもののみとなるのでご了承いただきたい。

基本的な認識率は高いがバンドスコア向きではない

Smart Score X Proで楽譜をデータ化するには、何らかの方法で楽譜を画像データとしてパソコンに取り込む必要がある。なお読み込みに対応している画像ファイル形式はBMPとTIFF、そしてPDFとなる。一般的にはスキャナを使い、あらかじめ画像編集ソフトで取り込んでおけばよいのだが、Smart Score X Proからスキャナを起動して読み込み、必要部分のみを切り出すといったこともできる。

Smart Score X Proを起動すると最初に表示されるタスクウィンドウから楽譜を読み込む。譜面をスキャンするときは「スキャニング」をクリックすれば接続しているスキャナのドライバソフトが起動する

読み込んだ画像はそのまま認識させることもできるが、必要ならイメージエディタで回転や不要部分のトリミングも可能。欄外にイラストなどが入っている場合は認識に時間が掛かることもあるので、ここでトリミングしておいたほうがよいだろう

対応スキャナについては「現在市販されているほとんどのスキャナは使用可能」となっており、具体的な対応機種などは明記されていない。手元のHP製複合機で試したところ、画像編集ソフトで使うときと同じように問題なく作動した。基本的にはスキャナのドライバソフトがセットアップされていれば問題ないようだ。

読み込んだ画像を認識させるには連符や調号の統一などの設定を行うが、特殊な楽譜でなければ難しくはないだろう。また楽譜に歌詞が記入されていれば、それもそのまま読み込ませ、データ化した楽譜にテキストとして表示することができる。ただし英語およびドイツ語のみ対応で、日本語は非対応。認識そのものは早く、バンドスコア2ページ程度ならCore2Duo搭載のパソコンで15秒もかからない。

認識前に連符など各種設定を行う、歌詞テキストやタブ譜を認識させることも可能。組段の設定は次のダイアログで行う。なおSmart Score X ProからスキャンしてTIFFファイルとして保存した場合は、複数ページが1つのファイルとして保存される

オリジナルの画像データが上半分、認識してMIDI化した譜面が下半分に表示される。上下の譜面はリンクしており、片方をスクロールすればもう一方もそれに合わせて移動するので、確認や編集はやりやすい

Smart Score X Proで楽譜を認識させるとMIDIデータとなり、間違いがあった場合はそのままデータを修正することができる。譜面上で編集するほか、DAWソフトで一般的なピアノロールやリストエディタも用意されている。通常の五線譜を、ワンタッチでタブ譜やパーカッション譜に変えることも可能だ。

もちろん認識させたMIDIデータをSmart Score X Pro上で再生することもできる。ソフトウェア音源はVSTプラグインに対応しているので、曲作りに使いたい音色で確認可能だ。完成した楽譜データはMIDIファイル(フォーマット0/1)で出力してDAWソフトなどに読み込めるほか、Music XMLフォーマットにも対応しているので、Finaleユーザーならそちらでさらに編集できる。

Smart Score X Proはソフトウェア音源を搭載しており、楽譜の再生は各パートの音量や音色を設定して行える。あらかじめ音源としてVSTプラグインを指定しておけば、さまざまな音源を使って確認ができる

楽譜は専用ファイル形式のほか通常のMIDIファイルとして保存。Finaleがインストールされた環境であれば、ツールバーのボタンからFinaleを開いてデータを渡すこともできる。印刷前提ならPDFファイルでの保存も可能だ

気になるのが楽譜の認識率。掲載画像を見てもらえばある程度は分かるように、サンプルファイルでは細かい認識ミスはあるものの、ほぼ完璧だ。バンドスコアに関しては「ボーカル(メロディ)+ギター(+サイドギター)」といった構成の曲をいくつか試した。メロディ部分に関してはほぼ完璧に認識できたものの、ギター部分に関しては取りこぼしが目立つ曲もあった。これはそもそもバンドスコアの表記が完全に統一されているわけでないのが原因だろう。基本的にはピアノ譜やオーケストラ譜といった一般的な楽譜で実力を発揮するソフトといえる。無料で試せるデモ版も公開されているので、気になる方は一度試してみてほしい。