6月2日に、中国ファーウェイ・テクノロジーズは日本でスマートフォンなどの新製品を発表しました。ですが、同社は米国から制裁を受けているため、スマートフォンなどにグーグルのサービスを搭載することができません。それゆえ、従来の売れ筋であるミドルクラスのモデルにも、独自の「HUAWEI Mobile Services」を搭載して販売する方針を打ち出してきました。しかし、そこにはまだ迷いがあるようにも感じられます。

  • 独自のアプリストアを搭載したスマートフォンの新製品を矢継ぎ早に投入するファーウェイだが、製品のラインナップを見ると日本市場の戦略に迷いがあるようにも感じられる

グーグルのサービス非搭載端末投入を本格化

ここ数年来、日本市場の開拓に積極的に取り組んできたファーウェイ・テクノロジーズ。高品質ながら低価格で購入できるミドルクラスの「lite」シリーズが人気となり、SIMフリースマートフォン市場でトップシェアを獲得しただけでなく、2019年には携帯大手3社にスマートフォンを提供するなど、着実に販売を伸ばしてきました。

ですが、2019年に米国から制裁を受け、米国企業との取引に大幅な制約が課せられてしまいました。Androidスマートフォンやタブレットに欠かすことのできない、米国企業であるグーグル製のアプリやサービスをまとめた「Google Mobile Services」(GMS)を同社のスマートフォンに搭載できなくなるという、大きな制約を受けることとなったのです。

そうしたことから国内においても、ファーウェイ・テクノロジーズが今後どうやってスマートフォンを投入するのかが注目されていたのですが、同社は主として中国で展開していた、GMSに代わる独自のアプリやサービスをまとめた「HUAWEI Mobile Services」(HMS)を、中国外で販売するスマートフォンにも搭載して事業を継続することを選択したのです。

  • ファーウェイ・テクノロジーズは、米国の制裁によりGMSを搭載できなくなったことから、その代替として「HUAWEI Mobile Services」を搭載したスマートフォンの販売を進めるようになった

日本でも、この4月にHMSを搭載したSIMスマートフォン「HUAWEI Mate 30 Pro 5G」を発売していますが、これはSIMフリー市場ではあまり数が出ないハイエンドモデルということもあり、試験的な販売と見る向きが少なからずありました。ですが、6月2日に新製品発表会を実施したファーウェイ・テクノロジーズは、HMS搭載端末の販売を国内でも本格化する姿勢を明確に打ち出してきたのです。

それに合わせ、売れ筋のミドルクラスのスマートフォンにもHMSを採用してきました。今回の発表会で同社は、5G対応でライカとの共同開発による高度なカメラ機能を備えたフラッグシップモデル「HUAWEI P40 Pro 5G」のほか、5G対応で4眼カメラを搭載しながら4万円を切る価格とした「HUAWEI P40 lite 5G」、そしてトリプルカメラ搭載の大画面モデルながら2万円台という低価格の「HUAWEI P40 lite E」の3機種をSIMフリー市場に投入することを明らかにしましたが、いずれもHMSを搭載して提供するとしているのです。

  • ファーウェイ・テクノロジーズは、スマートフォン3機種の投入を発表しており、なかでも「HUAWEI P40 lite E」は3眼カメラを搭載しながら2万4800円と非常に安価に提供される

先にも触れた通り、同社のliteシリーズはSIMフリースマートフォンで最も売れ筋のモデルとなっています。それだけに、liteシリーズにもHMSを搭載してきたことからは、日本でも今後HMSを中心に展開していくことを明確に示したといえます。

GMS搭載のもう1機種から見える迷い

とはいえ、HMSは中国以外での展開を本格化して間もないだけに、少なからず課題があるのも事実です。なかでも最大の課題とされているのが、独自のアプリストア「AppGallery」です。

なぜなら、AppGalleryに登録されているアプリの数は、グーグルのアプリストア「Google Play」と比べて非常に少ないからです。特に、日本のユーザーが多く利用しているアプリは、メジャーなものであっても登録されていない、あるいはインストール方法が特殊であるなど、Google Playのように簡単に入手できないものが多いのです。

それでも、ファーウェイ・テクノロジーズがアプリ開発者に向けて働きかけを進めてきたことで、5月には「LINE」が登録されるなど、徐々にアプリの数は増えています。ですが、それでもGoogle Playと肩を並べるには至っておらず、苦心している様子がうかがえます。

  • 新たに「LINE」が登録されるなど、「AppGallery」に登録されているアプリは確実に増えている。だが、日本のユーザーが利用するアプリが広くカバーされているわけではなく、不便があるのは事実だ

GMSが利用できないことの課題は他にもあります。グーグルのサービスのなかには、「Gmail」など比較的代替が効きやすいアプリもある一方で、「Googleマップ」「YouTube」などのように、ほかに代替が効かないアプリも存在するからです。

もちろん、こうしたサービスはWebブラウザー経由で利用自体はできるのですが、多くの人がアプリからインターネットサービスを利用するのに慣れている現状、大きなマイナスポイントとなってしまうことは確か。特に、ミドルクラスのスマートフォンは、スマートフォンに詳しい知識を持っていない人が購入する傾向が強いだけに、日本で一般的とされるこれらのサービスがアプリから利用できないことのデメリットは決して小さくありません。

そうしたこともあってか、ファーウェイ・テクノロジーズは5月に「HUAWEI nova lite 3+」というSIMフリースマートフォンも発売しています。これは、2019年に発売された「HUAWEI nova lite 3」のストレージを128GBに増やしたモデルであり、GMSも搭載した形で提供しています。

  • 2020年5月に発売した「HUAWEI nova lite 3+」は、2019年発売の「HUAWEI nova lite 3」のストレージを増やしたモデルであるため、GMSも搭載している

GMSを搭載した旧機種をアップデートして販売するという点からは、同社が日本での販売拡大のためにGMSを必要としており、現時点ではHMSへの完全なシフトに踏み切れないという印象も受けてしまうのは確かです。とはいえ、米国の制裁が続く限り、同様の手段をいつまでも取り続けるわけにはいかないだけに、販売拡大のためにもHMSの強化が急いで求められることも、また確かだといえそうです。