NTTドコモとKDDI(au)が5月末の発売を予定している、ソニーモバイルコミュニケーションズの5G対応スマートフォン「Xperia 1 II」。その注力ポイントは、ミラーレスカメラ「α」などソニーのカメラ技術を積極的に取り入れた“カメラらしい”カメラ機能となっています。ですが、美顔モードに代表される大胆な加工を積極的に施す“カメラらしくない”カメラ機能が人気のスマートフォン市場にあって、果たしてXperia 1 IIは消費者に評価されるのでしょうか?

  • ソニーモバイルコミュニケーションズの5G対応フラッグシップモデル「Xperia 1 II」。21:9比率の4Kディスプレイを採用するなど「Xperia 1」のコンセプトはそのままに、カメラ性能を大幅に強化したモデルとなっている

ミラーレスの技術を積極採用したカメラ

国内で5Gの商用サービスがスタートし、対応するスマートフォンも徐々に市場に投入されてきています。そうしたなか、発表直後から高い関心が寄せられている5Gスマートフォンの1つが、ソニーモバイルの「Xperia 1 II」です。

Xperia 1 IIは、2019年に発売された同社のフラッグシップモデル「Xperia 1」の後継モデル。21:9比率の4Kシネマワイドディスプレイを搭載するなど、Xperia 1で注目されたコンセプトはそのままに、新たに次世代通信の5Gに対応したのはもちろんなのですが、最も力が入れられているのがカメラ機能です。

  • 21:9比率の細長い有機ELパネルを搭載する

Xperia 1 IIのカメラは、Xperia 1と同様のトリプルカメラ機構を採用しているのですが、レンズにカール・ツァイスのT*コーティングを採用し、自動フォーカス・自動露出が追従した秒間20コマの高速連写など、ミラーレスカメラ「α」などで培ったソニーのカメラ技術を積極的に取り入れるなどして、大きな進化を遂げているのです。

なかでも、そのことを象徴しているのが「Photography Pro」というアプリです。これは、αシリーズのインターフェースを取り入れ、設定を自在に変更することでミラーレスカメラのような感覚で写真撮影ができるというものです。

  • Xperia 1 IIに搭載されている「Photography Pro」。ミラーレスカメラ「α」のインターフェースや技術を取り入れ、本格的なカメラ撮影ができるのが特徴だ

実際、このアプリを使うと、フォーカスを後ろの被写体に当てたり、シャッタースピードを遅くして被写体をあえてブレさせるなど、カメラのように設定を自在に変更してこだわりの撮影をすることができます。Xperia 1 IIは標準(24mm)・広角(16mm)・望遠(70mm)と3つのカメラを搭載していることから、これをレンズ交換するかのような感覚で切り替えることにより、幅広い撮影シーンに対応できるのもポイントとなっています。

ですが一方で、Photograhy Proの機能を実際に使ってみると、凝った撮影をするにはカメラに関するそれなりの知識が必要ですし、いい写真を撮るにはそれなりの工夫も求められることから、カメラに慣れていない人には難しい印象を与えてしまうのも事実です。もちろん、Xperia 1 IIにはPhotography Proだけでなく通常のカメラアプリも搭載されており、手軽な撮影も可能ではあるのですが、なぜ同社はあえて難しいけれど本格的なカメラ機能を導入したのでしょうか。

“簡単で不自然なほど綺麗”が今のカメラトレンド

そこに影響しているのが、Xperia 1で大きくリニューアルしたXperiaシリーズのコンセプトです。現在のXperiaシリーズは「好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを」というコンセプトのもとに開発がなされており、特にそのコンセプトを体現しているのがフラッグシップモデルです。

実際、Xperia 1では、映画に合わせた21:9比率のディスプレイを採用。さらに、映像のプロフェッショナル向けカメラを開発しているソニーのチームが監修した、映画のような風合いの映像を撮影できるアプリ「Cinema Pro」を標準搭載するなど、映像の視聴・撮影にこだわる人に向けた機能に力を入れていました。

また、2019年の秋冬モデルとして登場したコンパクトモデル「Xperia 5」では、「PlayStation 4」用のコントローラー「DUALSHOCK 4」と連携してゲームを楽しみやすくする機能を充実。eスポーツに代表される、ゲームプレイにこだわる人向けの機能充実を図っています。

  • Xperia 5では、DUALSHOCK 4との連携でスマートフォンゲームを楽しみやすくする仕組みを搭載。ゲームにこだわる人に対するアピールを進めていた

そしてXperia 1 IIでは、あえて操作が複雑なPhotography Proを搭載することにより、写真撮影にこだわるカメラのプロやセミプロ、愛好家に向けたアピールをしているわけです。とがった機能を充実させることで、その分野にこだわりを持つ人を取り込んでいきたいというのが、現在のXperiaシリーズの狙いとなっています。

なぜ、ソニーモバイルコミュニケーションズがこのような戦略を取るようになったのかといえば、そこには近年のスマートフォンの低価格競争の激化により販売が伸び悩み、赤字に苦しんできたことが大きく影響しているといえます。やみくもにマス層を狙っても、価格優位性を持つ中国メーカーなどと争うのは難しいので、特にフラッグシップモデルでは、ソニーグループの技術を活用して特定分野向けの機能をプロ並みに高め、こだわりを持つ人にターゲットを絞ることで確実な顧客を獲得する戦略に出たといえるでしょう。

ですが、最近のスマートフォンカメラのトレンドを見ると、いわゆる「美顔モード」や、夜景を明るく撮影できる「ナイトモード」に代表されるように、カメラだけでなくソフトウェアによる加工に力を入れ、シャッターボタンを押すだけである意味不自然なくらい綺麗に撮影できることに力を入れ、それが人気を獲得しています。Xperia 1 IIが追求する方向性は、そうしたトレンドとはまったく逆なのです。

もちろん、その方向性はソニーモバイルコミュニケーションズがあえて狙っていることなのですが、それだけにXperia 1 IIのコンセプトはマスとなる層に響かず、販売数を伸ばすのが難しくなるのでは?という懸念が少なからずあるのも事実です。そのことを示しているのが、ここ最近中古スマートフォンの市場で、SIMロックを解除したソフトバンク版Xperia 1の未使用品が販売当初の半値以下の安値でまとまった数が出回り、話題になっていることです。

  • 「FREETEL」ブランドの自社製スマートフォンだけでなく、他社製スマートフォンの中古品なども販売しているMAYA SYSTEMも、SIMロック解除済みのソフトバンク版のXperia 1(新品)を販売するキャンペーンを実施している

あくまで推測に過ぎませんが、これは一部の販売店がXperia 1の過剰在庫を中古市場に流したことで起きていると考えられ、それだけソフトバンクでXperia 1の販売が振るわなかったと見ることができそうです。実際、ソフトバンクは5Gの商用サービス発表時、Xperia 1 IIを同社の5Gスマートフォンのラインアップに採用しなかったことが大きな話題となりましたが、そこにはXperia 1の販売不振が大きく影響した可能性が高いといえるでしょう。

  • ソフトバンクが発表した5G対応スマートフォン。Xperia 1 IIはラインアップされなかった

国内でも、スマートフォンの値引きに厳しい規制が敷かれて高額なスマートフォンの販売が大きく落ち込んでおり、携帯電話会社も価格重視でミドルクラスのラインアップを増やしたり、中国メーカー製の端末を積極的に採用する動きが強まっています。それだけに、ソニーモバイルコミュニケーションズに限らず多くのスマートフォンメーカーにとって、高額なフラッグシップモデルの値段にふさわしい価値をいかに消費者に伝えられるかということは、とても大きな課題になりつつあるといえそうです。

佐野正弘

福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。