KDDI(au)は5月14日、UQコミュニケーションズの「UQ mobile」事業を統合することを発表しました。KDDIの実質的なサブブランドとなっていたUQ mobileを直接運営することで、その位置付けが明確になったともいえますが、なぜKDDIはこのタイミングでUQ mobileを統合するにいたったのでしょうか。また、UQ mobileを譲渡するUQコミュニケーションズは、今後どうなるのでしょうか。

実質的サブブランドが本当のサブブランドに

「UQ mobile」は、「UQ WiMAX」などで知られるUQコミュニケーションズがKDDIのMVNOとして提供している、低価格のモバイル通信サービスです。人気芸能人やキャラクターなどを起用した派手なテレビCMで知名度を高め、2020年1月には200万契約を突破。携帯電話事業者(MNO)への転身を打ち出している楽天モバイルに次ぐ規模のMVNOにまで成長しています。

  • 「UQ mobile」は、「UQ WiMAX」を展開するUQコミュニケーションズがKDDIのMVNOとして提供している通信サービスだ

ですが5月14日、KDDIはそのUQ mobileの事業を、2020年10月1日をもってUQコミュニケーションズから承継すると発表したのです。

そもそも、KDDIとUQコミュニケーションズは非常に関係が深く、KDDIが3割程度出資して連結子会社化しています。そのため、UQ mobileはMVNOでありながら、KDDIグループにおいて低価格を求める層を獲得する、実質的なサブブランドとして機能していたのです。

それゆえ、UQ mobileに関しては多くのMVNOから「携帯電話会社傘下のMVNOなので、競争上優位な立場にある」として批判されることが少なくありませんでした。実際、総務省の有識者会議でも、KDDIがグループ企業であるUQコミュニケーションズに金銭的支援をするなどしてUQ mobileの競争上優位性を確保する、いわゆる“ミルク補給”によってMVNO同士の競争を阻害しているのではないか、との疑惑がかけられたことがあります。

ですが今回、そのUQ mobileをKDDIがみずから統合することを打ち出したことで、MVNOとしての不明瞭な関係性が解消され、明確にサブブランド化がなされるものと考えられます。しかし、なぜKDDIは、実質的なサブブランドであったUQ mobileの事業を、正式にサブブランドにする必要があったのでしょうか。

顧客を逃さないダブルブランドショップ化

最大の理由は、やはりメインブランドとなる「au」との一体営業ができることではないでしょうか。それは、サブブランド戦略を先行して手掛けているソフトバンクの事例から見ることができます。

ソフトバンクは、現在メインブランドの「ソフトバンク」とサブブランドの「ワイモバイル」を1つの店舗で取り扱う“デュアルショップ”の全国展開に力を入れています。これによって、ソフトバンクはショップを訪れた人に対して、低価格を求めているならワイモバイル、大容量プランを利用したいならソフトバンクといったように、顧客のニーズに応じた異なるブランドを提案。確実な契約へと結びつけることで、グループ外への“取りこぼし”を生みにくい体制を整えているのです。

  • ソフトバンクは、「ソフトバンク」「ワイモバイル」のデュアルショップを全国に拡大することで、低価格を求める人から大容量を求める人まで、幅広い層の顧客獲得に成功している

KDDIも、一部でauとUQ mobileのデュアルショップを展開していますが、やはり別会社同士のサービスということもあり、本格展開にまでは進んでいませんでした。それだけに、2つのブランドによる確実な顧客獲得を推し進めていくうえでは、みずからが複数のブランドを持つ必要があると判断したといえそうです。

しかも、KDDIは2019年に「au ID」をオープン化し、これまでauユーザーしか利用できなかった金融やエネルギーなどのライフデザイン系サービスのオープン化を積極化しています。顧客ニーズの多様化でauの契約獲得が思うように進まないなか、そうしたライフデザイン系サービスがKDDIの業績をけん引する役目を果たすようになりつつあることから、今回の統合にはauだけでなくUQ mobileの利用者にも、ライフデザイン系サービスの利用を促進していく狙いがあるといえそうです。

  • KDDIは「au」「UQ mobile」の一体営業によって幅広い顧客を自社グループで獲得するとともに、UQ mobileの利用者にもライフデザイン系サービスの利用を広げる狙いがある

「UQ WiMAX」は5G化で固定通信の代替にシフトか

ただ一方で、サービスを譲渡する側のUQコミュニケーションズは、UQ mobileの事業を失うこととなります。

同社は、「WiMAX2+」方式によるBWA(広帯域移動無線アクセス)を展開する通信事業者で、2.5GHzの広い周波数帯域を持っています。KDDIとしても、本来は会社ごと統合したいのでしょうが、2.5GHz帯の電波免許割り当て条件によって携帯電話会社の出資比率が制限されているため、それはできないのです。

それだけに、主力事業の1つを失うUQコミュニケーションズは今後どうなってしまうのか?という点は疑問が残るところですが、KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏は「WiMAX2+方式のサービスを引き続き直接顧客に提供していく」と話しています。「UQ WiMAX」ブランドによる、おもにWi-Fiルーター向けのモバイル通信サービスは引き続き提供していくようです。

  • UQコミュニケーションズはWi-Fiルーターを主体に、モバイルだけでなく、固定通信の代替として通信サービスを提供してきたことから、今回の事業譲渡を機に再びそちらに集中することとなるようだ

高橋氏は今後、UQコミュニケーションズが2.5GHz帯の5G対応も推し進めることも考えているとも話していました。海外でも固定通信の代替として、5GのWi-Fiルーターを利活用するケースが多くあるようなので、今後同社はネットワークの強化を図るとともに、現在も実施しているKDDIへのネットワークの貸し出し、そして固定通信の代替としてのサービス強化を図ることで、事業を拡大していくことになるのではないでしょうか。

佐野正弘

福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。