中国のスマートフォンメーカーの日本進出が相次ぐ昨今ですが、新たに日本への進出を打ち出したのが、ゲーミングスマートフォン「RedMagic 5」の発売を発表したヌビアテクノロジー(Nubia Technology)です。この会社は、中国ZTEと非常に深い関係のある企業なのですが、ZTEの現状とヌビアテクノロジーとの関係について説明します。

“尖った”スマートフォンに強みを持つヌビア

2020年7月1日、ヌビアテクノロジーという企業が「RedMagic 5」というスマートフォンを発表しました。このスマートフォンは、リフレッシュレート144Hzに対応した6.65インチの有機ELディスプレイや、ハイエンド向け最新チップセット「Snapdragon 865」を搭載するなど、ゲームを快適にプレイすることに特化したゲーミングスマートフォンです。5Gにも対応するなど、非常に高い性能を持つようです。

  • ヌビアテクノロジーが日本での提供を打ち出した「RedMagic 5」。高い性能を持つチップセットやディスプレイを搭載し、放熱性能にも力を入れるなど、快適なゲームプレイに注力したスマートフォンとなるようだ

RedMagic 5は、確かにゲーミングスマートフォンとしては最新の性能を持つようですし、いわゆる「技適マーク」も取得しているので日本でも問題なく通信ができるようです。ですが、販売方法はオンラインのみに限られます。価格は629ドル(約6万8000円)からと、このクラスの端末としては安いのですが、実は円ではなくドルのみでの販売となります。そもそも、日本ではヌビアテクノロジーという会社を知っている人は決して多いとはいえないことから、一般の人はやや手を出しにくい印象を受けるのは確かでしょう。

実は同社も、最近日本市場への参入が相次いでいる中国のスマートフォンメーカーの1つ。早い時期から狭額縁設計のスマートフォンを投入したり、ゲーミングスマートフォン「RedMagic」シリーズを2017年より展開するなど、デザインや機能に特徴のある端末を積極的に投入しています。

  • 個性あるスマートフォンを多く提供しているのがヌビアテクノロジーの特徴。2019年には、ディスプレイを曲げて巻き付けられるスマートウォッチ「Nubia α」を発表している

同社のスマートフォンは、以前から代理店を通じて国内販売がなされていたようで、日本市場への関心自体は少なからずあったものと考えられます。RedMagic 5Gは技適マークを正式に取得し、代理店経由ではなく自社で販売していることから、日本市場への取り組みに関して何らかの方針が定められたと見ることができそうです。

大株主でもあるZTEの現状は?

そしてヌビアテクノロジーは、実はすでに日本進出している中国の通信機器メーカー、ZTE(中興通訊)の関連会社であったりもします。もともとはZTEの子会社として設立された企業であり、2015年にZTEの出資比率が下がったことで関連会社となったようです。とはいえ、2020年6月18日にはZTEのモバイルデバイス担当社長に、ヌビアテクノロジーの社長であるニ・フェイ氏が就任すると発表するなど、ZTEと近い関係にあることに変わりはないようです。

1つの企業が複数のスマートフォンメーカーを持つというのは無駄が多いようにも見えますが、中国では系統の異なるスマートフォンを別の企業から提供するというケースは比較的よくあるようです。日本にも進出しているオッポ(OPPO)や、ハイエンドモデルに強みを持ち欧米などにも進出しているワンプラス(OnePlus)、新興国で人気が高く世界的に高いシェアを持つビボ(Vivo)などのスマートフォンメーカーを傘下に持つBBK(歩歩高)グループがその代表例といえるでしょう。

ZTEといって思い起こされるのは、2018年に米国から制裁を受けたことではないでしょうか。同社は2008年に日本に進出して以降、主として携帯電話会社向けに基地局や端末を提供していたのですが、2018年に米国から制裁を受けたことで経営危機に陥り、米国の要請を受けた日本政府の方針もあって、国内でも基地局などインフラ面でのビジネスが難しくなってしまいました。

  • ZTEは米国の制裁以前、国内にも携帯電話会社向けにスマートフォンを積極投入していた。なかでも、2018年にNTTドコモと共同開発した折り畳みスマートフォン「M」は大きな話題となった

ですが、同様に米国から制裁を受けた中国のファーウェイ・テクノロジーズが米国の姿勢に対立して制裁が長く続いているのに対し、ZTEは米国側の要求を早期に受け入れたこともあって短期間で制裁は解除。それを受ける形で、国内でも端末関連のビジネスを再び積極化しつつあるようです。

実際ZTEは、2019年にソフトバンクのワイモバイルブランドから投入された「Libero S10」でスマートフォンの提供を再開。2020年に入ってからは、ソフトバンク向けに「AXON 10 Pro 5G」、KDDI向けに「a1」といった5Gスマートフォンを提供するなど、5Gを機として国内市場での挽回を図ろうとしています。

  • 米国の制裁で一時は危機に陥ったZTEだが、制裁解除後は国内でも、徐々に携帯電話会社への端末供給を再開。KDDI向けに「a1」を提供するなど、低価格を強みとした5Gスマートフォンの提供に力を入れている

両社が深い関係にあるとはいえ、今回のヌビアテクノロジーの日本進出にZTEがどこまで関与しているのかは分かりません。しかしながら、携帯電話会社向けのスタンダードな端末はZTEがカバーし、SIMフリー市場ではヌビアテクノロジーが個性的な端末を提供するような体制が取られれば、すみ分けを図りながら市場での存在感を高められることから面白い存在になるかもしれません。

ただし先にも触れた通り、RedMagic 5Gの販路はかなり限定されており、すでに国内で本格的な販路開拓に乗り出しているオッポやシャオミなどと比べると、まだ試験的な進出にとどまっているのも事実。今後、ヌビアテクノロジーがどこまで本腰を入れて日本市場進出を進めるのかが注目されます。