国内キャリアの5Gサービス開始が迫り、海外だけでなく国内のスマートフォンメーカー2社も相次いで5G対応スマートフォンを発表しています。ですが、それらを見ると、6GHz以下の周波数帯「サブ6」には対応するものの、28GHz以上の「ミリ波」に対応するのは一部の特別なモデルのみとなっています。なぜでしょうか?

国内2社の5Gスマホは「サブ6」のみ対応

次世代モバイル通信規格の「5G」は、国内の主要キャリアが3月25日~27日に相次いでサービスを開始する予定で、いよいよ秒読みの段階となりました。そうしたことから海外メーカーだけでなく、国内メーカーも5Gスマートフォンを次々発表しています。

シャープは、2月17日に実施した発表会で、5G対応スマートフォン「AQUOS R5G」を発表。これは、同社のフラッグシップスマートフォン「AQUOS R」シリーズ初となる5G対応モデルで、8Kの動画撮影が可能な4800万画素のカメラをはじめとした4つのカメラを搭載するなど、5Gの大容量通信が生かせる動画撮影に力が入れられているのが特徴です。

  • シャープの5G対応スマートフォン「AQUOS R5G」。8Kの映像撮影に対応するなど、4つのカメラを活用した動画撮影機能に力が入れられている

ソニーモバイルコミュニケーションズは、2月24日にオンラインでの新製品発表会を実施し、やはり5G対応のフラッグシップモデル「Xperia 1 II」を発表しました。21:9比率の4K有機ELディスプレイを搭載し、映像を楽しみやすくするという「Xperia 1」の特徴は継承しながらも、背面には新たに4つのカメラを搭載。ZEISSのT*コーティングを施したレンズを採用し、ソニーのミラーレスカメラ「α」の技術を積極的に取り入れるなど、写真撮影に非常に力が入ったモデルとなっています。

  • ソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia 1 II」は、5Gへの対応に加え21:9比率の有機ELディスプレイ、そして「α」の技術を取り入れた写真撮影に注力しているのがポイント

ですが、これら2機種の詳細を確認すると、確かに5Gには対応しているのですが、5Gが対応する周波数帯のうち6GHz以下の「サブ6」と呼ばれる帯域のみカバーしており、28GHzを超える「ミリ波」と呼ばれる高い周波数はカバーしていません。一方で、韓国サムスン電子が2月12日(米国時間)に発表した最新スマートフォン「Galaxy S20」シリーズは、3機種のうち2機種がミリ波にも対応したモデルを用意します。

  • サムスン電子の「Galaxy S20」シリーズは、「Galaxy S20+」(中央)と「Galaxy S20 Ultra」(右)にミリ波対応モデルが用意される

国内の携帯電話4社に割り当てられた5Gの周波数帯を見ますと、サブ6は3.7GHz帯と4.5GHz帯が100MHz幅ずつ、ミリ波は28GHz帯が400MHz幅ずつ利用する形となっています。ミリ波を使ったほうが周波数帯域の幅、つまりデータが通る道幅が広いので、より一層高速な通信が可能なことから、対応したほうがメリットが大きいように思えます。それにもかかわらず、なぜ2社は5G対応スマートフォンのフラッグシップモデルをミリ波対応にしなかったのでしょうか?

ミリ波は扱いづらく、スマホにはオーバースペック

その理由には、ミリ波の特性が大きく影響しています。携帯電話などの無線通信に用いる電波は、周波数が低いほど障害物の裏に回り込みやすく、遠くに飛びやすいとされています。ですが、周波数帯が高い電波は障害物の裏に回り込みにくく、遠くに飛びにくいことから、ミリ波のように非常に高い周波数帯は何らかの障害物に遮られただけで電波が届かくなることもあるのです。

とはいうものの、低い周波数帯はすでに携帯電話をはじめ多くの無線通信で使われていることから、5Gの特徴の1つでもある高速大容量通信を実現できる広い帯域幅を確保できないので、ミリ波のような扱いづらい周波数帯を利用する必要が出てきたわけです。

ですが一方で、ディスプレイサイズが大きいとはいえない現在のスマートフォンにとって、5Gの性能はオーバースペックであり、高速大容量通信の活用範囲もせいぜい動画やゲームくらいと、それほど多くはありません。それゆえ、ミリ波対応のスマートフォンを一般消費者が使っても恩恵はあまり得られないことから、2社は無理にミリ波対応はせず、4Gよりも高速通信ができ、なおかつミリ波よりは広いエリアをカバーしやすいサブ6への対応を優先したといえるでしょう。

しかしながら、国内メーカーがミリ波に対応した端末を手がけていないわけではありません。実際シャープは、AQUOS R5Gと同時に発表した5G対応の「モバイルルーター」でミリ波への対応を打ち出していますし、ソニーモバイルも開発表明を打ち出したスマートフォン「Xperia PRO」でミリ波に対応しています。

これら2機種に共通しているのは、いずれも企業向けを主体に提供されるデバイスだということ。実際、モバイルルーターはより高速なミリ波への対応に加え、Wi-Fiだけでなく有線LAN端子なども備えることで、オフィスの固定回線と同じ高速大容量通信が場所を選ばず実現できることを特徴として打ち出しています。

  • シャープが発表したもう1つの5G対応機種「モバイルルーター」はミリ波にも対応し、オフィスの固定回線に匹敵する通信環境を実現できる

Xperia PROは、Xperia 1 IIと機能や性能はほぼ同じながら、映像のプロが一眼レフカメラや業務用のカムコーダーで撮影した映像をリアルタイムで伝送することを想定し、ミリ波を受信しやすいアンテナを増やしたり、ボディ素材を変更するなどの改良が施されています。

  • Xperia 1 IIと同時に開発が発表された「Xperia PRO」。映像のプロに向けたスマートフォンで、側面の四方にアンテナを搭載し、ボディ素材も樹脂にするなど、ミリ波を受信して高速通信をしやすくするための工夫が随所になされている

一般向けのスマートフォンでは活用に限界がある5Gの高速大容量通信ですが、法人向けを考慮すれば、活用シーンはかなり広がるのも事実。そうしたことから、国内メーカー2社はミリ波の活用を法人向けに見出したといえるでしょう。その傾向から5Gは当面、目的によって周波数帯の使い分けがなされる可能性が高いと見ることもできそうです。

佐野正弘

福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。