国内航空大手の日本航空(JAL)は2026年6月5日、新しいモバイル通信サービス「JALモバイル powered by ahamo」の提供を発表しました。名前の通り、NTTドコモの「ahamo」をベースとしたサービスですが、NTTドコモが他社ブランドを冠したサービスの提供に踏み切ったことで、異業種のモバイル通信事業参入を支援してきたMVNOに大きな影響が及ぶ可能性がありそうです。
「JALモバイル」に「ahamo」ベースのサービスが追加
異業種によるモバイル通信事業への参入が相次いでいますが、その先駆けの1つとなったのはJALの「JALモバイル」でしょう。JALは2026年6月5日に、そのJALモバイルに関する新たな発表を実施しています。
それは「JALモバイル powered by ahamo」というもの。その名前の通り、NTTドコモの「ahamo」をベースにしたモバイル通信サービスで、月額2,970円で30GBのデータ通信が利用できるというahamoのサービスはそのままに、毎月JALのマイルが貯まったり、国内4つの空港のうちランダムで行き先が決まる「どこかにマイル」がお得に利用できるクーポンが年に1回入手できたりするなど、JALならではの特典が用意されている点が大きな特徴です。
従来のJALモバイル(JALモバイル powered by IIJmio)は、MVNO大手のインターネットイニシアティブ(IIJ)の「IIJmio」の料金プランをベースとしており、利用者からは料金面でのお得感の高さが評価されていました。ですが、MVNOのサービスゆえ、混雑時の通信速度が低下しやすいなど通信品質面での課題を抱えていたほか、JALが提供するサービスならではの課題として、海外ローミングに対応していないことが挙げられていました。
それらの課題に不満を抱くユーザーの声に応えるべく、JALはNTTドコモと手を組んでJALモバイル powered by ahamoを提供するに至ったようです。実際、ahamoはNTTドコモが直接提供するサービスなので、MVNOのサービスと比べれば混雑時の品質低下が起きにくいですし、追加料金不要で91の国・地域で海外ローミングが利用できます。
それゆえJALにとって、JALモバイル powered by ahamoの提供に大きなメリットがあることは理解できるのですが、意外だったのは国内最大手で強いブランドを有しているNTTドコモが“黒子”となってJALのブランドを冠したサービスを提供したことです。NTTドコモは、携帯電話サービスの顧客に自社ブランドのサービスを多く利用してもらい、売り上げを高める経済圏ビジネスに力を入れているだけに、他社ブランドを前面に打ち出すことにはデメリットが少なからずあります。
なぜなら、JALブランドが前面に出ることで、JALモバイル powered by ahamoのユーザーは「JALでんき」「JAL光」などといったJALのサービスを積極利用し、JALの経済圏に取り込まれてしまう可能性があるからです。もちろん、JALのマイルとNTTドコモの「dポイント」は相互交換などで連携していますし、利用シーンも異なるため必ずしも排他的な関係とはならないのですが、利用者がJALのサービスを重視することで、NTTドコモのサービスを利用してもらえなくなる可能性が高まることは確かでしょう。
それにもかかわらず、NTTドコモが黒子に回るという選択をしたのには、競合に対抗するうえで契約数をより多く獲得することが求められているからでしょう。現在、NTTドコモは通信品質の低下などの影響から、業績面で競合に大きく出遅れている状況にあります。
そこで、今後のビジネス拡大につなげるうえでも、モバイル通信サービスで優良な顧客をより多く獲得する必要があり、それが強固な顧客基盤を持つJALとの連携、そして自社ブランドを出さず黒子になり切り、顧客という“実”を取る判断に至ったといえそうです。
MVNOが活路を見出す異業種支援、NTTドコモが阻むか
ただ、NTTドコモがそうした判断をしたことで、今後は競合、とりわけMVNOには甚大な影響が及ぶことになりそうです。なぜならここ最近、JALのように異業種からモバイル通信に参入する事業者が増えているため、MVNOはその黒子となってサービス提供を支援するビジネスに力を入れているからです。
実際、異業種のモバイル通信参入を支援する事業には、IIJのほか、同じくMVNO大手のオプテージ、そしてソニーネットワークコミュニケーションズから独立したミークなど、複数のMVNOが力を入れる方針を示しています。それゆえ、国内最大手の携帯電話会社であるNTTドコモがこの領域に踏み込んできたとなれば、大きな影響を受けることは必至です。
もちろん現時点では、NTTドコモがこの事業にどこまで本格的に踏み込むかは分かっていません。NTTドコモ側の説明では、当面JALモバイル powered by ahamoを軌道に乗せることに力を入れ、それを今後他社との取り組みに広げるかどうかについては、改めて検討するとしていました。
また、仮に取り組みを本格化するにしても、その対象となるのはJALのような大手企業に絞られるでしょう。実際、NTTドコモの常務執行役員 経営企画部長である坪谷寿一氏は、もし今後他社と連携する場合には、顧客から信頼を得ており、なおかつ大きな顧客基盤を持つ企業と取り組みたいとの考えを示しています。
一方で、MVNOの異業種支援は、JALのような大手企業に限らず、中小規模の企業もターゲットにするケースが多いようです。実際、この事業に力を入れているエックスモバイルは、「ドン・キホーテ」などを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスと提携してモバイル通信サービス「マジモバ」などの提供を支援する一方、実業家の堀江貴文氏がプロデュースする「HORIE MOBILE 2.0」など、有名人と連携してファンに向けたモバイル通信サービスの提供にも力を入れています。
またミークは、2025年にモバイル通信を参入支援する「MVNO as a Service」を発表した際、スポーツチームやアイドルなどのファンクラブなどもターゲットにする方針を示していました。そうしたことから、仮にNTTドコモが異業種のモバイル通信事業支援に力を入れるようになったとしても、一定のすみ分けが図られる可能性はありそうです。
とはいうものの、収益面での影響が大きい大企業の顧客がNTTドコモに奪われるとなれば、その需要を見込んでいたMVNOに少なからず打撃が生じることは確実です。これまで携帯電話業界の厳しい波を乗り越え、生き残りを図ってきたMVNOですが、NTTドコモの判断によっては新たなビジネスの活路が断たれ、再び厳しい状況に追い込まれてしまう可能性も十分考えられそうです。






