携帯電話業界の大きな課題となっている「ホッピング」問題の防止に向けた方策が、総務省の有識者会議で議論されてきました。その結果、新規契約者に対するポイント還元などの特典を、1年間にわたり分割提供できるよう、規制を緩和する公算が高くなりそうです。その背景には、制度ができたにもかかわらず活用されなかった「お試し割」も大きく影響しています。
ホッピング対策の議論で3つの案が提示
携帯電話会社は、新規契約者を増やすことがビジネス拡大につながることから、新規契約者に対してポイント還元やキャッシュバックなどの特典を提供し、顧客獲得につなげています。ですが、そこに目を付けて、新規契約後に特典を獲得したらすぐ解約し、他社に乗り換える行為を繰り返すことで収入を得る、「ホッピング」と呼ばれる行為が横行。業界内で大きな問題となっています。
ですが、大手の携帯電話会社は、電気通信事業法によって非常に厳しい規制を受けており、その影響で自主的なホッピング対策が困難となっています。そこで、総務省が2025年末から実施している有識者会議「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」では、ホッピング行為を防止するための策が積極的に議論されていました。
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「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」第2回会合のソフトバンク提出資料より。新規契約者向けの特典を得たらすぐ解約し、他社に乗り換える「ホッピング」は、携帯電話会社に大きな損を与えるため、業界全体の大きな課題となっている
そのホッピング防止に向け、同会議では大きく3つの案が提示されていました。1つ目の案は、ポイント還元など顧客に与える利益を分割で提供できるよう規制を緩和することです。
現在の電気通信事業法では、新規契約や端末購入を条件に提供する利益を、契約中の一定期間に分割提供し、解約したら提供を終了するといったことが禁止されています。それは、利益を分割で提供することが、解約のしづらさにつながってくるため。この規制のため、携帯各社は契約時に利益を全額提供する必要があるからこそ、ホッピングの格好のターゲットとなってしまったのです。
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「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」第8回会合資料より。新規契約者に対し、継続契約を前提に利益を分割で提供することや、一定期間経過後に利益を提供することなどは、電気通信事業法で禁止されている
ですが、総務省は2024年末に、この規制を一部緩和し「お試し割」を提供することを認めています。お試し割とは、1人あたり1回だけ、税別最大2万円までの利益を最大6カ月間に分割して提供できる仕組み。ただ携帯各社から、お試し割は分割可能な期間が短く、短期解約にもつながりやすいなど扱いにくいとの声が多く、まったく活用されていませんでした。
ただ、お試し割の解禁で、一部ではありますが利益の分割提供に関する規制緩和がすでになされていることもまた確か。そこで、新規契約者に対しても、一定期間の契約継続を条件に利益を分割提供できるようにし、期間内に解約したら利益提供を終了するといったことが可能になるよう規制緩和することで、ホッピングを防げるのではないかという声が出てきたわけです。
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「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」第2回会合のKDDI提出資料より。ホッピング対策のため、利益を1年間など一定期間にわたって分割提供できるよう、規制緩和を求める声は多く挙がっていた
ポイント還元などを1年間、分割提供できる案が有力に
2つ目の案は、契約している料金プランを解約する際の違約金を引き上げられるよう、規制緩和することです。利益の分割提供と同様、ユーザーの解約をしづらくし競争を阻害する要素を徹底的に排除したいという総務省の方針から、現行の電気通信事業法では料金プランを解約する際の違約金を税別1,000円、あるいは月額料金1カ月分のうち安い方のいずれかに規制されています。
ただ、回線契約のみの新規契約者に提供できる利益の上限は税別2万円までとされているため、1,000円程度の違約金をかけても焼け石に水で、ホッピング防止にはまったくつながっていないのが実情です。そこで違約金上限を引き上げ、解約しづらくすることでホッピングを防止するという案も出てきたわけです。
3つ目の案は、逆に規制を強化し、利益提供の上限額を引き下げることです。先にも触れたように、新規契約者に提供できる利益は税別2万円に規制されていますが、提供できる利益そのものを大幅に引き下げれば、ホッピングのメリットは失われますし、解約のしやすさも維持できます。それゆえ、主として競争力を高めたいMVNOなどから、この案に対する支持が集まったようです。
そして、これら3つの案のうち、今回の会議で採用に至ったのは、利益の分割供与を認めるよう規制緩和する最初の案でした。2つ目の違約金引き上げは、直接的に競争を制限するとして反対意見が多く挙がりましたし、3つ目の利益提供上限引き下げは賛同する有識者も多かった一方、健全な顧客を獲得するための競争にも影響が出るといった意見が出ていました。
それゆえ、もっとも競争環境に与える影響が小さい、最初の案が採用されるに至ったようですが、その利益を分割できる期間についても議論があったようです。
2年を超える期間拘束プランは提供自体が法律で禁止されていますし、お試し割と同じ6カ月ではホッピングの懸念が拭えないとの意見が挙がっていました。そこで過去の実績などから、期間拘束の影響が比較的小さく、短期解約にもつながりにくい1年以内の継続契約を前提とした、利益の分割提供を認めるという方針が、取りまとめ案では提示されています。
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「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」第8回会合資料より。利益の分割期間に関しても議論がなされたが、短期解約につながりにくく、それでいて契約の長期拘束につながらないとされる1年以内という案が、有力な候補となったようだ
総務省の有識者会議の傾向からして、よほどのことがない限り、取りまとめ案が大幅に覆る可能性は低いでしょう。それゆえ、近いうちに正式な取りまとめがなされた末、電気通信事業法のガイドライン改正などがなされるものと考えられます。携帯各社もそれに合わせて、新規契約時のポイント還元などを分割提供し、ホッピング対策が進められることになるでしょう。
ちなみに、今回のホッピング対策の議論に大きく影響したお試し割ですが、規制緩和の内容がお試し割に近いものとなったのに加え、現在もなおどの携帯電話会社にも活用されていないことから、規制緩和後に姿を消す可能性が高いようです。
この規制緩和が浸透すれば、現在の形でのホッピング行為は減少する可能性は高いと考えられます。ただ、ホッピング行為をしていた人たちの多くは、かつてスマートフォンの大幅値引きを目当てとした転売行為で利益を上げていたことを考えると、法の隙を突いて利益を得る新たな問題行為を見つける可能性は否定できません。抜本的な対策のためには、長きにわたって改正を重ね、複雑極まった電気通信事業法による規制を根本から見直す必要があるのではないかと筆者は考えます。
