国内のAndroidスマートフォンでシェアトップの座を維持してきたシャープですが、韓国サムスン電子の猛追でその座が危うくなっています。そこには、スマートフォンの値上がりによって生じたラインアップの“隙間”が影響しており、シャープの新機種からはシェア維持のため、その隙間を埋める取り組みに力を注いでいる様子が見えてきます。

  • 国内のAndroidスマートフォン市場において、AQUOSシリーズでトップシェアを誇るシャープだが、Galaxyシリーズを擁するサムスン電子の足音がすぐ背後にまで迫ってきている

値上がりで市場に生まれた新たな隙間

国内のスマートフォン市場で、圧倒的トップを誇るアップルに次ぐシェアを獲得してきたシャープ。Androidスマートフォンに限ればトップシェアを長らく獲得してきた同社ですが、ここ最近その座が揺らぎつつあるようです。

その理由は、サムスン電子の猛追にあります。いくつかの調査会社の調査で、2022年の国内スマートフォン市場シェアをを見てみますと、依然としてシャープがアップルに次ぐシェアを獲得しているものの、サムスン電子がシャープのシェアにかなり肉薄してきているのです。

なぜサムスン電子が伸びているのかといえば、市場の変化とそれによって生じた“隙間”にあるようです。ここ最近のスマートフォン市場の変化といえば、円安や半導体不足よって起きたスマートフォン価格の全体的な上昇が挙げられますが、その価格上昇によって市場にいくつかの隙間が生まれているのです。

最初に出来た隙間が、2万円前後のローエンドスマートフォンです。以前は3万円台で販売されていたミドルクラスのスマートフォンが、一連の値上げによって5万~6万円台へと大幅に値上がりしたことで、低価格を求めるユーザーのニーズを満たせなくなってしまい、その隙間を埋めるべく2万円台のローエンドモデルが人気を博すようになったのです。

そして最近、新たな隙間となっているのが、ミドルクラスとハイエンドの中間に位置するスマートフォンです。従来、メーカー各社の技術をふんだんに投入した最上位のハイエンドスマートフォンは高くても10万円前半程度だったのですが、やはりここ最近の値上がりによって、それが一気に20万円近い水準へとアップしてしまっています。

  • シャープが2022年に発売した「AQUOS R7」は発売当初の価格が約19万円と、前機種「AQUOS R6」が10万円台前半で販売されたのと比べ価格が大幅にアップしている

10万円でも高いと感じていたスマートフォンが20万円となってしまえば、購入できる消費者は非常に限られてしまいます。ただでさえ、政府主導によるスマートフォンの値引き規制で販売が落ち込んでいたハイエンドモデルですが、大幅な値上がりによって輪をかけて落ち込んでしまっており、従来ハイエンドモデルの価格帯だった10万円前後で、ある程度高い性能を持つモデルの需要が高まり、新たな隙間市場となっているのです。

ラインアップ豊富なサムスンが有利、隙間を埋めるシャープ

シャープは、これまでミドルクラスでは「AQUOS sense」シリーズ、ハイエンドでは「AQUOS R」シリーズを展開し、それぞれの市場で人気を獲得してトップシェアを維持してきました。ですが、一連の市場変化によって、2022年モデルの「AQUOS R7」は発売当初の価格が19万円近く、「AQUOS sense 7」は5万円近い値段にアップしており、価格面で従来のユーザーニーズにマッチしなくなってしまいました。

一方サムスン電子は、世界的に高いシェアを持ち、豊富なラインナップを持つことを生かして市場の隙間を着実に埋めてきたのです。2022年でいえば、ローエンドの市場を2万円台の「Galaxy A23 5G」で、ミドルクラスとハイエンドの中間を、10万円台前半で販売されたフラッグシップのスタンダードモデル「Galaxy S22」でカバーしています。

  • 世界的に幅広いラインアップを持つサムスン電子は、ミドルクラスとハイエンドの中間というべき市場にもうまくマッチする、「Galaxy S22」などのラインアップを持っている

そうしたことから、シャープもシェア挽回に向け、市場の隙間を埋める戦略を推し進めてきました。これまで手薄だったローエンド向けのモデルは2022年、新たに低価格と環境への配慮を打ち出した「AQUOS wish」シリーズを立ち上げており、2023年の新モデルでも「AQUOS wish 3」を投入しています。

  • シャープは、手薄だったローエンド市場に向けて「AQUOS wish」シリーズを新たに設け、2023年も新機種「AQUOS wish 3」の投入を発表している

そしてもう1つ、ミドルクラスとハイエンドの中間を埋める存在として、2023年に投入が打ち出されたのが「AQUOS R8」です。こちらは上位モデルの「AQUOS R8 Pro」と同様、チップセットにクアルコム製のハイエンド向け「Snapdragon 8 Gen 2」を搭載するなど高い性能を持つスマートフォンですが、カメラにAQUOS R8 Proの特徴でもある1インチセンサーを搭載していないなど、さまざまな部分でコストを落として高い性能を持ちながらもより安価に販売できるモデルへと仕上げています。

  • 同じくシャープの2023年の新機種「AQUOS R8」は、ハイエンドモデルの値上がりで生じた隙間を埋めるモデルと位置付けられ、サムスン電子でいえば「Galaxy S23」の対抗モデルというべきものだ

これは位置付け的にも、サムスン電子の新機種でハイエンドとミドルクラスの中間を担っている「Galaxy S23」の対抗モデルといえ、価格はまだ発表されていませんがそれに近い価格で販売されるものと考えられます。そしてAQUOS R8の投入によって、シャープは市場に生じていた隙間を一通り埋められたことから、今後反転攻勢に出る可能性が高まってくるのではないかと考えられます。

ただ、現在のスマートフォン市場は非常に流動的で、またいつ大きな変化が起き新たな隙間市場が生じるとも限りません。そうした時に豊富なラインアップを持つサムスン電子に対抗し続けられるか、世界シェアが小さいシャープが国内市場で勝ち抜くうえで重要なポイントになってくるでしょう。