スマートフォン新製品の動きが鈍いこの春ですが、シャオミやモトローラ・モビリティ、そしてサムスン電子が国内向けのスマートフォン新機種を発表しています。ですが、その内容を見ると、メーカーの苦悩ぶりが伝わってきます。2023年は、スマートフォンメーカーにとって受難の年になるかもしれません。

新機種なのに性能が低い2万円台の製品が続々登場

年明けからゴールデンウィーク明けまでのシーズンは、毎年スマートフォン新機種があまり投入されない傾向にあります。実際、2023年もすでに4月を迎えたにもかかわらず、スマートフォンメーカーの動きは鈍く、新機種はあまり発表されていません。ですが、それでもいくつかのメーカーが、家電量販店やMVNOなどに向けたオープン市場(いわゆる“SIMフリー”)での新機種投入に動いています。

その1つが中国のシャオミで、2023年3月16日にオープン市場向けの新機種「Redmi 12C」を発売しています。シャオミの「Redmi」シリーズは「Redmi Note」より下のラインアップとして位置付けられており、日本でいえばエントリークラスというべきもの。それゆえ、希望小売価格は最も安いRAM3GB、ストレージ64GBのモデルで19,800円と、オープン市場向けモデルとして見てもかなりの低価格です。

  • シャオミが2023年3月に販売を開始した「Redmi 12C」。最も安いモデルで2万円を切る低価格だが、5Gに非対応で性能は決して高いとはいえない

ですが、価格は性能にくっきりと反映されています。ディスプレイは6.71インチと大型であるものの、チップセットはメディアテック製の「Helio G85」で5Gには対応していません。メインカメラは2眼構成ですが、一方はポートレート撮影用の補助レンズなので、撮影に使われるのは実質的に約5,000万画素のカメラのみになっています。充電用のUSB端子もUSB Type-Cではなく旧式のMicroUSBと、日本で販売する最新スマートフォンとしてはかなり珍しい仕様となっています。

そしてもう1つ、オープン市場向けの新機種を発表したのが米モトローラ・モビリティ。2023年4月21日に投入を予定しているのが「moto g13」で、同社の直販価格で22,800円を予定するなど、こちらもエントリークラスに近い位置付けの端末となるようです。

moto g13は6.5インチディスプレイを搭載し、90Hzのリフレッシュレートに対応するほか、メインカメラも3眼構成とRedmi 12Cより性能が高いように見えますが、カメラは約5,000万画素の広角カメラを除く2つのカメラはいずれも約200万画素と性能が低いですし、搭載するチップセットはRedmi 12Cと同じHelio G85。もちろん5Gには対応しておらず、性能はエントリー相当といえるでしょう。

  • モトローラ・モビリティの新機種「moto g13」も2万円台前半と低価格だが、性能はやはり高いとはいえず、5Gにも対応していない

円安に悩むメーカー、性能よりも価格の安さに舵を切る

実はHelio G85は、モトローラ・モビリティがおよそ1年前に発売した「moto g31」でも採用されており、こちらも発売当時の価格は2万円台でした。またシャオミも、やはり1年前に近い性能のチップセット「Snapdragon 680」を搭載し、カメラ数がより多い「Redmi Note 11」を発売、こちらも当初2万円台で販売されていました。

つまり両機種はある意味、昨年のエントリーモデルと性能が大きく変わっていないともいえ、コストパフォーマンスという側面で見れば以前よりも劣っているように見えます。それだけに、今購入するのであれば、時間が経って安くなった旧機種や中古スマートフォンを選んだ方がむしろパフォーマンス面での満足度が高いのでは?とも感じてしまいます。

ですが、実はオープン市場では、2022年半ば頃から低価格で性能も低いスマートフォンが投入されるケースが増えていました。なぜ、日本市場でそうしたスマートフォンが増えているのかといえば、最も大きく影響しているのはやはり円安でしょう。

2022年半ばごろから急速に進んだ円安は、一時期ほどではないとはいえ執筆時点でも130円台と、2022年当初の110円台から比べれば大幅に安い状況は変わっていません。それゆえ、海外でスマートフォンを生産する大半のメーカーは円安の影響を大きく受け、従来よりも値段を上げざるを得ない状況にあります。

ですが、携帯電話会社による大幅値引きや、端末購入プログラムの適用などがないオープン市場向けモデルでは、価格が販売を大きく左右する傾向にあります。そのため、性能を維持して値段を上げるよりも、性能を落として値段を下げる方が売れる、というメーカー側の判断が働いた結果、性能が低いスマートフォンが急増するにいたったわけです。

一部のハイエンドモデルはますます高性能&高価格に

一方で、携帯電話会社が販売するハイエンドモデルは高価格化が進んでいるようです。韓国サムスン電子が2023年4月6日に発表したフラッグシップモデルの新機種「Galaxy S23」シリーズは、いずれもGalaxyシリーズ向けにカスタマイズされたクアルコム製の「Snapdragon 8 Gen 2 Moble Platform for Galaxy」を搭載していますし、上位モデルの「Galaxy S23 Ultra」は2億画素のカメラを採用するにいたっています。

  • サムスン電子が携帯各社に供給する新機種の1つ「Galaxy S23 Ultra」。2億画素のカメラを搭載するなど非常に高い性能を誇るが、携帯各社の販売価格は20万円前後と非常に高額だ

それだけに値段も非常に高く、携帯各社の価格を見ると「Galaxy S23」で14万円前後、「Galaxy S23 Ultra」ではおよそ20万前後といったところで、多くの消費者にはもはや手が届かない価格になってしまっていることが分かるでしょう。

そこで同社も、価格高騰で購入する層が限定されることをあえて逆手に取り、一層の高性能化に踏み切っているようです。実際Galaxy S23 Ultraは、これまで日本では販売してこなかったストレージ1TBのモデルを、KDDIのauブランドから初めて投入することを発表。同モデルは一括価格も25万を超えていますが、あえて高性能化に踏み切ることで、価格を気にせずに購入してくれるファンを重視する戦略に打って出たといえるでしょう。

  • Galaxy S23 Ultraでは従来のGalaxy Sシリーズで初めて、日本市場に向けてストレージ1TBのモデルを提供すると発表。価格高騰を受け、一層の高額・高性能化に振り切る戦略を取った

円安が今後どうなるかは予想ができませんが、以前の水準に戻らなければ、かつてのようなコストパフォーマンスの高い機種の投入は難しい、というのがメーカー側の本音といえるでしょう。加えて、今後政府による端末の大幅値引き規制が再び厳しくなることが予想されるだけに、スマートフォンを販売するメーカー、そして購入する消費者の側も苦悩する日々が続くことになりそうです。