NTTドコモは2021年5月19日に新サービス・新商品発表会を実施したが、スマートフォンのラインアップを見ると他社とは明らかに異なる傾向にある。その理由は中国メーカー製のスマートフォンを採用していないことだが、なぜNTTドコモは中国メーカーの採用に慎重になっているのか。そして中国メーカーの採用を避けることで、他社と競争上どのような課題が浮上しているのだろうか。

中国メーカーの採用に明確な違いを見せるNTTドコモと他社

去る2021年5月19日、NTTドコモは新サービス・新商品発表会を実施。その中で夏商戦に向けたスマートフォンなど新端末を、発表済みのモデルも含め合計11機種発表している。

だがそのラインアップを見ると他社とは明らかに異なる傾向にある。実際今回発表された新機種を見ると、韓国サムスン電子が4機種(東京五輪モデル含む)、ソニーが3機種、シャープが3機種(ルーター製品含む)、FCNTが1機種となっており、日本と韓国のメーカーのみを採用していることが分かる。

  • NTTドコモの夏商戦に向けたスマートフォン新機種。ソニーやシャープ、サムスン電子などが主で、中国メーカーの採用はなかった

    NTTドコモの夏商戦に向けたスマートフォン新機種。ソニーやシャープ、サムスン電子などが主で、中国メーカーの採用はなかった

一方でKDDIやソフトバンク、楽天モバイルが最近投入している機種を見ると、中国メーカーや、中国企業を親会社に持つメーカーが増えている。実際KDDIのauブランドでは、オッポ製の「OPPO A54」を5月下旬以降、「OPPO Find X3 Pro」を6月下旬以降に発売するとしているし、KDDIと傘下のUQコミュニケーションズが販売予定の5G対応のホームルーター「Speed Wi-Fi HOME 5G L11」もZTE製である。

  • KDDIがauブランドで販売予定の「OPPO Find X3 Pro」。10億色の表現ができるディスプレイと5000万画素のカメラを2つ備えるなど、非常に高い性能を持つオッポの5G対応フラッグシップモデルだ

より中国メーカーの採用に積極的なのがソフトバンクで、2021年に入ってからシャオミの「Redmi Note 9T」や、レノボ傘下であるモトローラ・モビリティの「razr 5G」を相次いでソフトバンクブランドのラインアップに採用。ワイモバイルブランドでもZTE製の「Libero 5G」を販売しているほか、2021年6月にはオッポ製の「OPPO Reno5 A」を発売する予定だ。

  • ソフトバンクがワイモバイルブランドで2021年6月上旬に発売予定の「OPPO Reno5 A」。ミドルクラスながら5G対応で、約6400万画素のカメラを備えるなど高い性能を誇るだけでなく、FeliCaを搭載するなど日本向け機能も充実している

楽天モバイルも中国メーカー製品の採用には比較的積極的で、同社が販売するオリジナル端末も中国メーカーを活用している。例えば2021年4月21日に販売を開始した最新機種の「Rakuten BIG s」は、中国などで「Coolpad」ブランドのスマートフォンを提供しているYulong Computer Telecommunication Scientific (Shenzhen)という企業が製造しているものだ。

  • 楽天モバイルオリジナルスマートフォンの第4弾「Rakuten BIG s」。6.4インチの大画面に加え防水・FeliCa、そして5Gのミリ波にも対応したスマートフォンだが、製造しているのは中国メーカーだ

こうした傾向を見ると、新製品のラインアップに中国メーカー製品を採用していないNTTドコモは、他社とかなり傾向が異なることが分かる。だが同社はこれまで中国メーカー製品を全く採用してこなかった訳ではなく、ZTEと低価格スマートフォンの「MONO」や折り畳みスマートフォンの「M」を共同開発したり、2019年にはファーウェイ・テクノロジーズの最上位モデル「HUAWEI P30 Pro」を独占販売したりするなど、むしろ中国メーカーの採用に積極的な傾向が見られた時期もあった。

  • NTTドコモは2016年にZTEと低価格スマートフォン「MONO」を開発するなど、かつては中国メーカーと積極的に関係構築をしていた

完全子会社化が影響、他社の低価格攻勢に対抗できるのか

それが一転して中国メーカーの採用に慎重になったのはなぜかといえば、1つには中国メーカーが米国から相次いで制裁を受けたことだろう。実際同社と関係のあったZTEは2018年、ファーウェイ・テクノロジーズは2019年に米国から制裁を受けており、ZTEはその後制裁が解除されたものの、ファーウェイ・テクノロジーズへの制裁は現在も続いており、その影響でスマートフォン事業が危機的状況にあるというのはご存知の人も多いことだろう。

そうした影響を受け、NTTドコモをはじめとして両社の製品を扱っていた携帯電話会社は、制裁の影響で販売やサポートの面で大きな混乱が生じた。ゆえに中国メーカーに一定のカントリーリスクがあるとして、最大手でもあるNTTドコモは特に慎重な姿勢を取り、中国メーカーの採用を避けるようになったといえる。

そしてもう1つ考えられるのは日本電信電話(NTT)の影響だ。NTTドコモは以前NTTの連結子会社で、多くの少数株主を持っていたことから、完全子会社であるNTT東日本・NTT西日本やNTTコミュニケーションズと比べた場合、NTTとはやや距離のある関係だった。だが2020年にNTTがNTTドコモの業績不調を受けて完全子会社、これによりNTTドコモは、完全にNTTのコントロール下に置かれることとなったのである。

  • NTTは2020年にNTTドコモを完全子会社化。それ以降NTTドコモはNTTの影響を強く受けるようになった

そしてNTTの3割以上の株を持つ筆頭株主は「政府および地方公共団体」、つまり日本政府であり、日本政府は現在、米国との関係が悪化している中国への警戒感を非常に強めている。そうしたことからNTTドコモは、NTT、ひいては日本政府の影響を強く受けるようになったことで、通信インフラだけでなく端末でも中国メーカー製品を採用しづらくなったと考えられる訳だ。

もちろん中国メーカー製のスマートフォンを販売しなくても、十分なラインアップを揃えられるのであれば問題はない。だがここ最近の市場環境を見ると、それが厳しくなりつつあるように感じられる。

実際最近のスマートフォン市場を見ると、スマートフォンのコモディティ化や市場自体の飽和などによって低価格に強い中国メーカーに優位な市場環境となりつつあり、中国外のメーカーは軒並み厳しい状況に追い込まれている。実際2021年には、NTTドコモも多くの端末を調達していた韓国LGエレクトロニクスがスマートフォン市場から撤退すると発表、中国外メーカーの選択肢が徐々に狭まっているのだ。

それに加えて日本の市場環境を見ると、2019年の電気通信事業法改正による端末値引き規制によって、携帯各社は、あまり値引きしなくても安く購入でき、それでいて十分な性能を備えるミドル・エントリークラスのスマートフォン調達を増やす必要に迫られている。そうした端末に強いのはやはり中国メーカーであるだけに、中国メーカーからの調達を避けると競争上厳しい立場に立たされる可能性が高まってくる訳だ。

その一端は、今回のNTTドコモの新機種ラインアップからも見えてくる。同社は低価格を求める人に向けて「Xperia Ace II」「arrows Be4 Plus」の2機種を投入しているが、これらはいずれも4Gのみに対応することで低価格を実現している。だがKDDIやソフトバンクは安価な中国メーカー製の5Gスマートフォンを調達することで、メインブランドの新機種では既に4Gスマートフォンを扱っていない。5Gへの移行を促す上でも、中国メーカーを採用せず低価格の5Gスマートフォンを提供できないNTTドコモが不利となっていることが分かる。

  • NTTドコモは今回の新機種発表で、「Xperia Ace II」など4Gの低価格スマートフォン2機種を投入しているが、中国メーカーの採用で低価格帯端末も5Gへの移行を進めている他社と比べ遅れている印象も受ける

世界的に見ても、中国メーカーに対抗できる低価格の製品を提供できるのは世界シェア1位を維持するサムスン電子くらいなのだが、それでも新興国では中国メーカーの価格攻勢に押されており、同社が利益確保のため高価格帯へのシフトをいつ推し進めてもおかしくない状況にある。そうなれば低価格スマートフォンの調達が一層難しくなるだけに、NTTドコモが中国メーカーに頼ることなく充実したラインアップを維持できるかという点は、今後非常に大きな課題としてのしかかってくるといえそうだ。