携帯大手3社が5Gの商用サービスを開始したのに合わせて、5Gに対応したスマートフォンも各社から相次いで登場している。そうした中でも注目されたのが、中国メーカー製の安価なスマートフォンを採用する携帯電話会社が増えていること。中国メーカーが5Gスマートフォンを低価格で提供できるのはなぜだろうか。

携帯大手2社が中国メーカーを積極採用

2020年3月25日にNTTドコモが5Gの商用サービスを開始して以降、KDDI、ソフトバンクが相打ちで5Gの商用サービスを開始。これでついに国内でも、5Gが利用できる環境が整えられたことになる。

そして5Gのサービス開始と同時に提供されているのが、5Gを利用するためのスマートフォンである。だがKDDIとソフトバンクの5Gスマートフォンのラインアップを見ると、従来のスマートフォンとはかなり傾向が異なっていることが分かる。

それは中国メーカー製端末の採用が急増していることだ。実際、KDDIは5Gスマートフォン7機種のうち3機種が、オッポ製の「Find X2 Pro」とZTE製の「a1」、そしてシャオミ製の「Mi 10 Lite 5G」と中国メーカー製。ソフトバンクに至っては、4機種のうち2機種がZTE製の「Axon 10 Pro 5G」とオッポ製の「Reno3 5G」であり、ラインアップの半数を中国メーカーが占めたことになる。

  • KDDI(au)の5Gスマートフォンラインアップ。写真にない「Mi 10 Lite 5G」を含む7機種のうち、3機種は中国メーカー製となる

    KDDI(au)の5Gスマートフォンラインアップ。写真にない「Mi 10 Lite 5G」を含む7機種のうち、3機種は中国メーカー製となる

なぜ中国メーカー製端末の採用が増えたのかといえば、やはり2019年10月の電気通信事業法改正による、スマートフォンの値引き規制が大きく影響したといえよう。従来であれば新しい通信規格の利用を広めるため、新規格に対応した最新スマートフォンの値段を大幅に引き下げて販売する手法を取ることができたのだが、現在は行政による値引き規制により、そのような販売方法を取ることができなくなってしまっている。

それゆえ携帯電話会社が5Gの利用を広める上では、安い5G対応スマートフォンを調達する必要が出てきたのだが、安価な5Gスマートフォンを積極的に提供しているのは中国の大手メーカーに限られる。それゆえ2社は、中国メーカーからの端末採用を増やすという判断に至ったといえそうだ。

実際先に上げた中国メーカー製端末のうち、「a1」「Reno3 5G」「Mi 10 Lite 5G」の3機種は一層安価に提供される可能性が高いとされている。実際、2020年3月27日に発表されたMi 10 Lite 5Gの海外での価格は、349ユーロ(約4万2000円)と、軒並み10万円を超える日本や韓国製の5Gスマートフォンと比べるとかなり安い値段設定がなされている(ただし国内での販売価格は未定)。

  • シャオミがオンラインで実施した「Mi 10」シリーズの発表イベントより。Mi 10 Lite 5Gの海外での価格は349ユーロ(約4万2000円)と、5Gスマートフォンの中ではかなりの低価格だ

値段にはチップセットの違いも大きく影響

なぜ中国メーカー製のスマートフォンがそんなに安いのかといえば、理由の1つはもちろんスケールメリットである。中国メーカーはお膝元となる中国をはじめ人口の多い新興国で大きなシェアを持ち、スマートフォンの出荷台数シェアでも上位にランクインしていることから、部材を大量に調達できるのでコスト競争力が高いのだ。

そうしたことから中国メーカーは、ハイエンドモデルを安価に提供できることが強みの1つとなっている。実際、Axon 10 Pro 5Gは他の5Gスマートフォンと同じクアルコムのチップセット「Snapdragon 865」を搭載しながら、8万9280円と10万円を切る価格で提供されているし、Find X2 Proも最新のハイエンドモデルながら、10万円を切る可能性が高いようだ。

  • ソフトバンクが販売する「Axon 10 Pro 5G」は、2019年に海外で販売されたモデルのアップグレード版ということもあり、ハイエンドモデルながら10万円を切る価格で販売されている

だがそれだけのスケールメリットをもってしても、これまで10万円近い値段で提供されていた5Gスマートフォンを、Mi 10 Lite 5Gのように4万円台にまで落とすのは難しい。ではなぜそこまで安い値段を実現できるのかというと、理由はチップセットの違いにある。先に挙げた3機種はいずれも、チップセットにSnapdragon 865ではなく、同じクアルコムの「Snapdragon 765G」を採用しているのだ。

Snapdragon 865がハイエンドモデル向けのチップセットであるのに対し、Snapdragon 765Gはミドルクラスよりやや上の性能を持つスマートフォンに向けたチップセットで、性能が抑えられている上に5Gのモデムも内蔵型となっているので、より安価に提供できるのだ。つまり中国メーカーは元々のスケールメリットに加え、安価なチップセットの積極採用によって安価な5Gスマートフォンを提供できるようになったのである。

  • KDDIから提供されるZTEの「a1」も、「Snapdragon 765G」を搭載することで5Gスマートフォンとしてはかなりの低価格で提供される予定だ

しかしながらSnapdragon 765Gは、クアルコムにとっても初となるミドルクラス向けの5G対応チップセットということもあってか、それを搭載した機種が市場に登場するのはSnapdragon 865を搭載したハイエンドモデルより後になる傾向にあるようだ。実際先に挙げた3機種は、いずれも2020年7月以降の発売予定となっている。

現状の各社の5Gネットワーク整備状況を見るに、5Gを普及させるにはスマートフォンよりもエリアを広げることを優先すべきではないか? とも感じてしまうのだが、5Gスマートフォンの値段が下がればそれだけ5Gを普及する上での下地が早く整うことも確かだろう。中国メーカー製の安価な5Gスマートフォンの登場が5Gの普及にどのような影響を与えるのか、今後注目されることになりそうだ。