ここ最近、スマートフォンのカメラは目覚ましい進化を遂げている。最新機種では画像が崩れることなく10倍ズームを実現するなど、最大の弱点だったズームを克服する製品も出てきている。なぜ、スマートフォンメーカーはそこまでしてカメラに力を注ぐのだろうか。

デジカメ不要と感じさせる程の機能進化

カメラはスマートフォンの中でも人気機能の1つであり、現在は、スマートフォンで写真を撮り、SNSなどにアップするのは日常的なこととなっている。スマートフォンメーカーが以前よりもカメラ機能に力を注ぐようになった要因の1つだ。

中でも大きく進化してきたのが、暗い場所での撮影だ。スマートフォンはあまり明るいとはいえない室内で撮影することも多く、被写体が暗く写ってしまったり、ブレてしまったりすることが多かった。そうしたことからスマートフォンメーカーは、明るく撮影できるレンズを搭載し、さらに、素子が大きく光を多く取り込めるイメージセンサーを採用するなど、明るく撮影するための技術を次々と投入して弱点を克服してきたのである。

  • 2018年発売の「Xperia XZ2 Premium」を使って暗い場所で動画撮影している所。2つのカメラを活用することで、静止画だけでなく動画撮影時も明るく撮影できるのが特徴だ

そしてもう1つ、大きな進化となったのがカメラの複眼化だ。特に2016年頃から、2つのカメラを搭載した「2眼化」が急速に進行した。2つのうち一方のカメラに被写体との距離を測る役割を担当させることで、一眼レフのようなボケ味のある写真を撮影できるようにするなど、カメラの表現力を大幅にアップすることに成功したのだ。

  • ボケ味のある写真の撮影ができる2眼カメラは、今やiPhoneをはじめ多くの機種に採用されている

さらに2018年半ば頃から増えつつあるのが、3つのカメラを活用した「3眼化」である。画角などが異なる3つのカメラを切り替えることで、等倍、0.5~0.6倍の超広角撮影、2~3倍の望遠撮影と、幅広いシーンでの撮影を可能にしている訳だ。

2019年に登場したファーウェイの「HUAWEI P30 Pro」や、OPPOの「Reno」などは、3眼カメラの1つに潜望鏡のような「ペリスコープ構造」のカメラを採用し、光学5倍相当の望遠カメラを実現している。それに加えて画素数の高いイメージセンサーを搭載し、撮影した写真の一部を切り取る「ハイブリッドズーム」によって、実質的に画質が落ちることなく10倍相当のズーム撮影もできるようになっている。

  • ペリスコープ構造で薄型ボディに光学5倍相当のカメラを搭載した、「HUAWEI P30 Pro」3つのカメラに、さらに深度測定用のカメラも搭載した4眼カメラを搭載している

スマートフォンのカメラがここまで来れば、もはやデジタルカメラは必要ないと感じる人も多いことだろう。だが人気の機能とはいえ、スマートフォンメーカーのカメラ強化へのこだわり具合は、ただ「人気の機能だから」というだけでは説明しきれない部分がある。

厳しい市況で高付加価値を重視した結果

スマートフォンメーカーのカメラ強化へこだわる理由として、これまで拡大一辺倒だったスマートフォンの販売が、落ち込みつつある背景があると見る。実際、ここ最近主要スマートフォンメーカーの業績を見ると、スマートフォン出荷台数の減少による業績の落ち込みが目立つ。

例えばアップルは2019年4月30日に発表した2019年第1四半期の決算で、iPhoneの売上高が前年同期比17%減となった。また同日に発表されたサムスン電子の2019年第1四半期決算でも、モバイル関連事業の営業利益は40%減となっている。ソニーやLGエレクトロニクスなどより下位のメーカーは一層厳しい状況となっており、市場縮小と競争激化で苦しんでいる会社が多い様子を見て取ることができる。

そのため既存の有力スマートフォンメーカーは、数を売らなければ利益が出ない低価格モデルよりも、付加価値を高め、高価格で利益が見込みやすいハイエンドモデルに力を入れる傾向にある。2018年の新機種の価格が全て10万円を上回ったアップルの施策などが、そうした動きを象徴しているといえよう。

そしてスマートフォンの付加価値を高める上で、多くの企業が目を付けているのがカメラだ。コモディティ化によって工夫できる余地がなく差異化が難しくなってきたスマートフォンだが、カメラ機能は人気が高いというだけでなく、複眼化などでまだ差別化できる余地がある。そうしたことから多くのスマートフォンメーカーは、カメラ機能の強化に活路を見出している訳だ。

もっとも、高付加価値化の追求はカメラだけに限らない。最近注目された、ディスプレイを直接折り曲げられる折り畳みスマートフォンもそうした施策の1つといえるが、より増えているのが「ゲーミングスマートフォン」。大幅に向上したスマートフォンの性能を生かし、カメラ同様に人気のゲームをプレイしやすい機種だ。

実際2018年には、エイスーステック・コンピューターがゲーミングスマートフォン「ROG Phone」を日本国内に投入して注目を集めた。また2019年に入ってからも、自動翻訳機などを手掛けるTAKUMI JAPANが、中国シャオミが出資しているBlack Sharkのゲーミングスマートフォン「Black Shark2」の国内販売を発表。日本でも徐々にその数が増え、認知が高まっているようだ。

  • TAKUMI JAPANが国内で販売する、シャオミ系企業が開発したゲーミングスマートフォン「Black Shark2」。高性能のチップセットの搭載だけでなく、タッチ操作時の反応速度なども強化されている

スマートフォンメーカーを取り巻く状況は今後も一層厳しさを増すことが予想されるだけに、高付加価値を追求する流れは今後も続くだろう。そうした中から新たな変革をもたらし、再びスマートフォン市場を活性化させる端末が登場することに、期待したい所だ。