前回は、電気ヒーターを使った一般的な暖房器具と、灯油を使った暖房器具とどちらが経済的なのかという話をした。結果は、灯油の圧勝だ。今回は、ヒートポンプを使用した機器エアコンと、灯油を使った暖房器具を比べるとどうなのかという話を進めていきたいと思う。

同じ電気を使用する暖房でも、電気ストーブとエアコンは効率が違う

エアコンの効率を示す指標として、最近では「APF」が使用されているが、ここでは、もっと単純な「COP」を使用したいと思う。

COPは、非常に簡単に求めることができる。ここでは、パナソニックのインバーター冷暖房除湿タイプルームエアコン「CS-F283C」を例にしてみよう。CS-F283Cは、型番からも分かる通り、定格冷房能力が2.8kWのエアコンだ。冷房能力2.8kWということは10畳用ということになる。コンパクトな室内機を採用したスタンダードモデルだ。

パナソニックのルームエアコン「CS-F283C」

CS-F283Cの暖房能力は3.5kW。定格消費電力は870Wとなっている。この暖房能力を(冷房で求めるのならば冷房能力を)定格消費電力で割ったのがCOPだ。CS-F283Cの場合、COPは4.02になる。

ヒーターを使った暖房器具では、COPは1になる。1,000Wのヒーターならば、1,000W分だけ暖かくなる。ファンヒーターなどでは、ファンに使用される電力が引かれることになるが、ヒーター部分だけで見るとCOPは1だ。COPが4.02のCS-F283Cは、同じ電力で、ヒーターを使用した暖房器具の約4倍の暖かさを、文字通り運んでくることになるわけだ。

エアコンと灯油を使った暖房では、どちらが経済的

さて、前回の記事で行った計算では、1,000Wの電気ヒーターを1時間動作させたときの熱量と、98.1mlの灯油を燃焼させたときの熱量がほぼ等しくなっていた。CS-F283Cと灯油を使った暖房器具を比較した場合はどうだろうか。

CS-F283Cの定格消費電力は870Wだ。1時間動作させたときの消費電力は0.87kWh。これで発生させられる熱量は3.5kWh(厳密にいうと"発生させている"わけではないのだが)。1kWhは3,600kJ(ジュール)で、1Jは0.239calなので、3.5kWhは12,600kJ=3011,400cal=3011.4kCalということになる。

灯油の燃焼時のカロリーは、1Lあたり8,767kcalなので、CS-F283Cで1時間暖房を行ったのと同じ熱量を灯油で得ようとした場合、約343mlが必要になる。灯油の価格を18Lあたり1,813円で計算すると、約35円でほぼ同等の熱量だ。東京電力の1kWhあたりの従量料金をみてみると、第1段階で18.89円、第2段階で25.19円、第3段階で29.1円だ。従量料金のみで比較すると、暖房には、エアコンを使用したほうが、灯油を使用する場合よりも低コストだ。

さて、今回取り上げているエアコンCS-F283Cは、ハイグレードモデルではない。CS-F283Cが属している「Fシリーズ」は、パナソニックのWebサイトでは「スタンダードな省エネ基準クリア・モデル」と紹介されていいる。各メーカーのエアコンは、より上級のグレードになるほど、コンプレッサーや熱交換器の効率化、各種センサーによる運転制御により、省エネ性能も上がっている。例えば、「フルワイドフラップ新採用 快適性がアップした多機能モデル」と紹介されている「SXシリーズ」でCS-F283Cと同じ適用畳数の「CS-SX283C」の場合、暖房時の定格消費電力は805Wで、暖房能力は3.6kW。定格消費電力870Wで暖房能力が3.5kWのCS-F283Cとはかなりの差がある。

多機能モデルの「CS-SX283C」

COPとAPF

CS-SX283Cの暖房時のCOPは4.47だ。また、APFは、CS-F283Cが5.8であるのに対して、CS-SX283Cは6.2だ。

APFは、そのエアコンを一年間使用した場合、どれだけの運転効率になるのかを示す指標だ。インバーター方式のエアコンは、外気温や室温によって、パワーを変化させながら運転している。例えばCS-F283Cの場合、暖房時の定格消費電力は870Wだが、常に870Wの電力を消費しているというわけではなく、消費電力には125~1,440Wと幅がある。もちろん、消費している電力によって、得られる暖かさも変化する。このように、単純に定格消費電力と能力だけから、そのエアコンの性能を測ることは難しい。

そこで使用されているのがAPFだ。APFは「エアコンの1年間の仕事量」を「その間の消費電力」で割ったものだ。もちろん、地域や各家庭によって、エアコンの運転状況は異なる。そのため、測定の条件が決められており、それが、東京都内で、6月2日~9月21日の期間に27°Cの設定で冷房を行い、10月28日~4月14日の期間に20°Cの設定で暖房を行うというものだ。エアコンの運転時間は6:00~24:00とされている。こうして求められるのが"期間消費電力量"で、その間のエアコンの仕事量を期間消費電力量で割ったものがAPFということになる。

さて、ここまでは一般論だ。次回はこの冬のエアコン新モデルについて、話を進めていきたい。

次回に続く