このコラムでは、電力不足が叫ばれている今年の冬に、果たしてオイルヒーターを使ってよいのかといった点について、話を進めている。前回までの流れを簡単にまとめると、オイルヒーターは、エアコンと比べると効率が悪く、しかも、エアコンや石油系の暖房器具に比べると発熱量も少ない。しかし、オイルヒーターの快適さは、なかなか代え難いものだ。安全性においても同様だといった感じになる。

オイルヒーターとエアコンで暖房効率はどの程度違うのか?

筆者は以前、エアコンとオイルヒーターで部屋を暖めた場合、壁面や床の温度、消費電力にどの程度の違いが出るのかを測定したことがある。その時の結果は、両方を2時間動作させた場合、室温や壁面の温度はオイルヒーターのほうが高くなり、床の温度のみエアコンのほうが上、エアコンの消費電力はオイルヒーターの約1/3という結果だった。

エアコンに比べると効率は悪いが、温度面では快適なオイルヒーター

しかし、この測定では、確かめていなかった点が1つある。以前から気になっていたのだが、エアコンで暖めた部屋と、オイルヒーターで暖めた部屋では、部屋の暖かさが違うように感じられるのだ。室内の空気の温度には極端な違いはない。となると、壁や床の温度の違いが関係しているのではと思える。測定している壁や床の温度は、その表面の温度だ。室内の空気の温度とそれほど変わらないだろう。暖房を止めて室内の空気を入れ換えてからの、壁や床の温度変化を調べることで、どれだけ床や壁が暖まっていたのかを調べることができるのではないだろうか。

手順はこうだ。まず部屋の窓を全開にして、扇風機を窓際に置き、最大出力で部屋の空気を入れ替える。その後、扇風機を止めて窓も閉め、エアコンの運転モードを「自動」にして暖房を開始する。ここからPico Technorogyという会社のDr.DAQというデータロガーを使用して、壁面と床面、室内の空気の温度を測定していく。Dr.DAC本体には温度センサーが内蔵されているうえ、外部の温度センサーを2個取り付けることが可能だ。外部センサーの1つは壁面に、もう1つは床面に貼り付けておく。2時間運転したところで、エアコンを止め、再び窓を全開にして扇風機を動かし、空気を入れ替える。そのまま1時間、壁と床の温度を測定するという流れだ。これをエアコンとオイルヒーターの両方で行う。これは、この季節にやった方が良い実験だ。真冬に行うと、かなり体力的に厳しい。

というわけで実験開始だ。とにかく、扇風機によって室内の空気を入れ換える。これが終了した段階での室内の温度は摂氏17.4度、壁の温度は摂氏20.1度、床の温度は摂氏16.5度となっている。まあ、暖房がなくても特に問題のない温度だ。

2時間後、室温は摂氏20度、壁の温度は摂氏21.8度、床の温度は摂氏19.3度にまで上昇した。消費電力は0.80kWhだ。さて、ここからが今回の測定の本来の目的の部分だ。

スタート段階での温度。"Temperatura"が室温で、"External 1 Temperatura"が壁の温度、、"External 2 Temperatura"が床の温度だ

約2時間が経過した。室温は摂氏20度で、壁の温度は摂氏21.8度、床の温度は摂氏19.3度だ

エアコンを止めて窓を全開にして扇風機をつけると、だんだん冷え込んできた。室温自体はそれほど低いというわけではないのだが、なにしろ扇風機が全力で動いているため、体感温度は相当に低い。45分ほど経過すると、測定を始めたときとほぼ同じ温度になった。だいたいこの辺りで温度は一定になっているようだ。最終的には、室温が摂氏17.4度、壁の温度が摂氏19.8度、床の温度が摂氏16.5度となった。

ここで、扇風機を止めて窓を閉める。これだけで相当暖かい。やはりこの季節に窓を開けて扇風機を全力で動かすのは、無理があったようだ。

オイルヒーターの電源を入れてから2時間後。室温は摂氏20.8度、壁の温度は摂氏22.3度、床の温度は摂氏19.8度

続いて、オイルヒーターの電源を入れる。筆者の使用しているオイルヒーターは、標準状態での設定温度は摂氏22度だ。今回はこのままで行くことにする。電源を入れると、オイルヒーターは、1,000Wでのフルパワー運転をスタートした。フルパワーといっても、エアコンのように何か目に見えた動きや音があるわけではなく、単純に1,000Wでの稼働を示すLEDが点灯しているだけである。

2時間後、消費電力は1.83kWで、室温は摂氏20.8度、壁の温度は摂氏22.3度、床の温度は摂氏19.8度にまで上昇した。ここで、再びオイルヒーターのスイッチを切って、窓を全開にし、扇風機を風量大で動作させる。

2つの結果を比較してみえてくることは?

さて、この結果をグラフにしてみた。2つのグラフを比較すると、いくつか興味深い点がみえてくる。

上がエアコンの場合のグラフで、下がオイルヒーターの場合のグラフだ。緑色の"Temperatura"が室温で、赤色の"External 1 Temperatura"が壁の温度、青色の"External 2 Temperatura"が床の温度。下の数字は経過秒数だ

まず、部屋を暖めているときだが、エアコンの場合、暖房開始から25分後に室温が摂氏19度、90分後に室温が摂氏20度に達している。それに対して、オイルヒーターでは摂氏19度に達したのが30分後で、摂氏20度に達したのは64分後だ。オイルヒーターではオイルが温まるまでに時間がかかるため、立ち上がりが遅い。だが、いったん温まってしまえば、そこからは比較的速く部屋を暖めることができるようだ。

オイルが温まるまで時間がかかるのがイヤだという人は、カーボンヒーターなど立ち上がりの速い暖房器具を併用するとよいだろう。ただし、電力消費の多さでアンペアブレーカーが遮断するおそれもあるので注意が必要だ。

また、エアコンでは、床の温度が室温に近い温度にまで上がっている。これは、エアコンの吹き出し口が下を向いており、床に暖気を送り込んでいるためだろう。

さて、グラフの横軸は秒(Sec)なので、7200のところがちょうど2時間だ。ここから暖房を切って窓を全開にし、扇風機を動かしている。エアコンでの2時間後からの温度変化を見てみると、まず、床の温度が急激に下がってきている。その後、壁の温度、室内の温度の順で低下して行く。15分ほど経つと、室温は摂氏18度前後になり、壁の温度は摂氏20度前後、床の温度は摂氏17度前後にまで下がってきた。

一方、オイルヒーターの場合は、まず床の温度が下がることは同じだが、エアコンの場合と異なり、続いて下がったのは室内の温度で、壁の温度が下がり始めたのは最後だった。

オイルヒーターの場合、壁の温度が摂氏21度になるのに16分かかっているが、エアコンでは9分で同じ温度にまで下がっている。これにはいくつか理由が考えられる。1つは、オイルヒーターのほうが、壁をより多く暖めているという点可能性だ。ピーク時の壁の温度は、エアコンの場合が摂氏21.8度で、オイルヒーターの場合が摂氏22.3度と、0.5度高くなっていたので、この点はおそらく間違いないだろう。もう1つ考えられる理由が、オイルヒーターは電源を切っても急には冷えないという点だ。電源を切ってもしばらくの間は熱を出し続けていることになるわけで、これも理由の1つのように思える。

室温は、どちらもほぼ同じように下がっている。これは扇風機による強制換気にせいだろう。摂氏19度に下がったのは、エアコンが6分後で、オイルヒーターは12分後だ。摂氏18度に低下したのは、オイルヒーターが27分後で、エアコンが28分後だ。摂氏19度に下がるまでの時間がオイルヒーターのほうが長いのは、おそらくオイルヒーターが冷えるまでに時間がかかっているためだろう。今回は、室内の空気を強制的に入れ換えて実験を行っているが、例えば、窓を閉めた状態で、単純に暖房をオフにしただけだと、どうなるのだろうか。

床の温度は、エアコンのほうが圧倒的に高い。これは、前述したようにエアコンのほうが、床をより暖めているためだと思われる。

測定を開始した時刻は、エアコンのほうが15:30ぐらいからだ。つまり部屋を冷やし始めたのは17:30ぐらいからということになる。オイルヒーターのほうはその後なので、測定開始が18:30ぐらいで、冷やし始めたのが20:30ぐらいからだ。外気温は、当然オイルヒーターの測定を行った時間帯のほうが低い。

にもかかわらず、暖房を始めてから2時間経過した時点での部屋の温度はオイルヒーターのほうが高く、さらに、暖房をオフにしてからの壁の温度、室温もオイルヒーターのほうが上回っている。

快適とはいえオイルヒーターを使いづらい社会事情

暖房器具には、暖めた空気を部屋の中に循環させるタイプのものと、暖房器具からの熱で使用者を直接暖める物とがある。もちろん例外もあるが、前者は部屋全体の暖房に向いている製品が多く、後者はどちらかというとスポット暖房的な用途に向いている製品が多い。

前者の代表的なものといえば、今回取り上げたエアコンや、さらには石油ファンヒーターなどといったところで、後者の代表的なものといえばカーボンヒーターを初めとする電気ストーブといった感じになるだろう。

オイルヒーターやパネルヒーターは、その両方の性質を持った製品だ。部屋の中に温風を送り出したりはしないが、その熱によって空気の対流を発生させ、部屋の空気を次第に暖めてくれる。また、オイルヒーターやパネルヒーターの表面は大して熱くないが、それでも近くに行けば、そこからの輻射熱により、暖まることもできる。これがエアコンやファンヒーターなどとは違った快適さを生み出しているのだろう。

この原稿を書く少し前の11月26日、非常に冷え込んだので、ついに今シーズン初めてオイルヒーターの電源を入れた。

するとどうだろうか。東京電力から、電力需給が逼迫しているというプレスリリースが発表された。このようなことがあると、いくら快適とはいえ、暖房をすべてオイルヒーターで賄うのは少々考えてしまう。

次回に続く