IHS Markit主催の「第38回 ディスプレイ産業フォーラム」において、FPDの面積需要の7割を占める主要応用分野であるテレビ分野を中心とした大型FPD市場について、IHS Markitコンシューマエレクトロニクス部門TV市場担当のエグゼクティブディレクター&フェローの鳥居寿一氏が講演し、テレビ分野は有機ELおよび8Kが停滞気味となっており、次の革新を待つ状態となっていることを明らかにした。

  • 第38回 ディスプレイ産業フォーラム

    IHS Markitコンシューマエレクトロニクス部TV市場担当のエグゼクティブディレクター&フェローの鳥居寿一氏 (画像提供:IHS Markit)

注:本連載はあくまで2020年1月30日時点のIHSによる予測であり、2月に入り本格的に猛威を振るい始めた新型コロナウイルスの感染拡大による影響は考慮されたものではないことに注意していただきたい。

きれいなだけでは付加価値と言えなくなったテレビ市場

この1年のテレビ市場に関する動きは以下の通り。

  • 2019年前半:米中貿易戦争による関税問題を受ける形で米国市場では、2019年前半に追加関税前の過剰(積み増し)出荷の影響から、中国ブランドのテレビが販売店で過剰在庫となり、セット価格が年初から大幅下落という負のスパイラル(悪循環)が発生。
  • 2019年後半:9月1日以降、追加関税(15%)が賦課されたため、出荷・在庫(TVブランド・販売店)の大幅調整が顕在化。
  • その結果、2019年は後半比率が56%(従来の平均は60~65%)という、"異例かつ激動の一年"となった。
  • 2020年2月中旬:「第一段階」の通商合意により、追加関税は7.5%へ引き下げられる。
  • 2020年前半(予測):セット価格の下落が落ち着き、実売は弱含みの展開(前年比)となるとみられる。

また、テレビを取り巻く環境の変化については、以下のようなことが挙げられている。

  • スマートTVで動画配信サービスを視聴するスタイルが普及。米国発でDisney+、Apple TV+と対Netflixの競争が激化している。日本でも、NHKのネット同時配信サービスなどに期待したい。
  • 有機ELは対液晶で価格競争力の低下、8Kは消費者の認知度が低い(つまり消費者にとってのメリット・購入動機を訴求出来ていない)、かつコンテンツがほとんど無いことから、需要が停滞し、先行きが厳しい状況となっている。2019年秋の予測よりも市場環境は悪化していると言わざるを得ない。
  • CES 2020では次世代技術が乱立したが、いずれも決め手を欠くものばかりだった。「改良」だけではなく、価格競争力がありライフスタイルに関わるような「革新」が無いとハードウェアで差異化するのは今後困難になってくるだろう。
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  • 米国ラスベガスで2020年初頭に開催された「CES 2020」では数々の次世代テレビが展示された (出所:IHS market)

また、鳥居氏は「2020年は東京五輪の年である。日本市場における台数増加(600万台超)、4K/有機EL化、中小・ノンブランドの活性化(シェア5%から2桁へ)を期待したい」と日本市場における活性化が1つのポイントになるとしている。

高付加価値モデルがけん引するデスクトップモニタ市場

デスクトップPC向けモニタ市場についてはIHS Markit コンシューマエレクトロニクス部門ディレクタの氷室英利氏が登壇。映像信号を供給するデバイスがデスクトップPCであるかモバイルPCであるかに関わらず、「大画面」、「高解像度」、「高画質」というモニターに対する需要は依然として存在することを指摘した。

特に大画面化のメリットは必然的にモニターでしか享受できない要件であり、足元では、ゲーミングモニターやウルトラワイド・カーブドモニターに代表される高付加価値モデルの増加が続き、モニター需要を下支えする存在となりつつあるとする。また、大画面化ニーズの延長線上に派生型として生み出されたポータブルモニターも稼働環境の多様化やモバイル環境の整備・改善から一定の需要が見込まれるようになってきたとする。特にノートPCのチャネルで販売される事が多く、PCブランドによるセット販売がシェア上位をしめているという。

55型や65型の有機ELなどをモニターと称した超大画面のセットモデルが登場してきたことなども挙げられ、デスクトップモニタの高付加価値化は継続していくと同氏は説明する。出荷金額については、ほぼ横ばいに推移することが予想されるものの、今後の単価上昇により、緩やかな上昇につながる可能性もあるという。

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    IHS Markit コンシューマエレクトロニクス部門ディレクタの氷室英利氏 (画像提供:IHS Markit)

成長拡大市場として期待されるパブリックディスプレイ

また氷室氏は、大型パブリックディスプレイ市場について「成長拡大市場であり、5Gなどのインフラ整備や文教のICT化など国策による需要拡大に合わせ、導入可能な地域や都市が世界的に継続して増加していく見通しである」とし、サイネージ&情報ディスプレイは多用途のため、情報量を多く表示できる4Kパネルの採用が増加、その一方で4K対応テレビの浸透で4Kパネルの平均販売価格の下落が加速するとした。

こうした背景から、特に新興国地域でインフォメーション向けパネルが65型および75型を中心に堅調な出荷が期待されるほか、企業のデジタル化トレンドも追い風になる可能性があるとする。

さらに液晶パネルを用いたビデオウォールについては、46型ならびに55型が需要の中心だが、狭額縁競争は極限までたどり着いたといえ、今後は額縁のないLEDビデオウォールとの直接対決となるとみられるものの、形成はやや不利と見られ、単独使用やLEDでは画面から近すぎるケースなど、競合しない使い方で活路を見出していく必要があるという。

そのLEDビデオウォールについては、中国ブランドを中心に狭ピクセルピッチ化が急速に進む一方で、LEDの低価格化によりモジュール価格の下落が進行しているため、インフォメーションパネルなど液晶が先行している各アプリケーションでの競合が進むことが予想されるが、交通、文教、企業会議室など、各用途において堅調な需要の拡大が期待できるとしている。

ただし、このようにパネル技術が乱立してきたことから、パブリックディスプレイ市場は、大競争時代に入ったともしており、製品や企画のみならず、包括的かつ柔軟なサービス体制など、各メーカー(ブランド)ごとの総合力、付加価値、差別化といった取り組みをいかに進めていくかが求められるようになると指摘している。

ノートPC市場はゲーミングの伸びに期待

IHS Markitコンシューマエレクトロニクス部門モバイルPC担当アソシエートディレクタのJeff Lin氏によると、2020年のノートPC出荷台数は、前年比1%減の1億6800万台との予想であり、台数がふたたび増加に転じるのは、ゲーミングPCが普及するとともに新市場が生まれる2022年以降だという。

また、ゲーミングノートPC市場だけを見れば、2020年の出荷台数は前年比5.2%増の890万台と予想されており、従来予想の同4.5%増よりも、CPUおよびGPUベンダーの競争が激しくなった結果、コストダウンが進み、出荷が増えるため、成長率を引き上げたとしている。

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    フレキシブル有機ELを搭載した折り畳み式モバイルPCの数々 (出所:IHS Markit)

なお、IHS Markitのデイスプレイ部門を統括するシニアディレクターであるDavid Hsieh氏は、AMOLED技術が急速に進化しており、ディスプレイ折り畳み式のノートPCも登場してきたが、これが実際に消費者に受け入れられるのかは疑問であると指摘している。