既報のように、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月18日、イプシロンロケット3号機の打ち上げを実施。NECから受託した高性能小型レーダー衛星「ASNARO-2」を所定の軌道に投入することに成功した。イプシロンの打ち上げ成功は3機連続。その模様をお届けする本連載の第4回目となる今回は、同日開催された記者会見の内容について報告する。

  • プレスルームで衛星分離の瞬間を見守り、喜ぶ関係者

    プレスルームで衛星分離の瞬間を見守り、喜ぶ関係者

まず衛星の状態であるが、ロケットから分離後、同日8時13分までに太陽電池パドルとレーダーアンテナの展開を確認。同日18時51分に、クリティカルフェーズ運用を無事終了した。今後、機能・性能を確認する初期運用を約5カ月、観測機能を調整する画像チューニング運用を約3カ月実施した後、定常運用へと移行する計画だ。

衛星を開発したNECの近藤邦夫 執行役員は、「この打ち上げにより、NECは衛星の製造から利用サービスまでバリューチェーンを構築するという、新たな事業展開の第一歩を踏み出すことができた」とコメント。「ASNARO-2は、9月から画像販売を行う計画。この事業を通し、日本や世界の安全安心・効率化などに貢献したい」と意気込みを述べた。

ASNAROシリーズは、光学衛星である1号機の打ち上げを2014年11月に実施。レーダー衛星の2号機と合わせ、これで軌道上の2機による運用体制が整備できた。

助成事業としてASNAROプロジェクトを推進してきた経済産業省の平木大作 大臣政務官は、「宇宙由来のデータは、地上の各種データと組み合わせることで、農業、インフラ管理、金融などさまざまな分野の課題に対し、ソリューションを提供できる」とコメント。「新興国を中心に、衛星のインフラ輸出にも繋がれば」と期待した。

  • 左から、JAXA理事長の奥村直樹氏、文部科学省大臣政務官の新妻秀規氏、経済産業省大臣政務官の平木大作氏、NEC執行役員の近藤邦夫氏

    左から、JAXA理事長の奥村直樹氏、文部科学省大臣政務官の新妻秀規氏、経済産業省大臣政務官の平木大作氏、NEC執行役員の近藤邦夫氏

イプシロンがこれまでの2機で打ち上げたのは、いずれもJAXAの科学衛星だった。今回、初めて実用衛星の打ち上げを外部から受託したわけだが、JAXAの井元隆行・イプシロンロケットプロジェクトマネージャは、「強化型イプシロンの飛行実証という目的もあり、プレッシャーはあった。成功して、かなりほっとしている」と安堵の表情を見せた。

今回の3号機では、小型液体推進系「PBS」(Post Boost Stage)と衛星分離機構が新型になっており、その実証を行った。

衛星の軌道投入精度は、目標である誤差±20kmを達成、PBSの性能が確認できた。PBSの目的は、軌道投入精度を液体ロケット並にすることであるが、将来、複数の衛星を搭載したときに、それぞれ別の軌道に投入するといった使い方が可能になると期待されている。7衛星を搭載する計画の4号機でも使用される予定だ。

低衝撃型の衛星分離機構は、衝撃レベルの実測は行っていないものの、衛星分離が正常に行われたことで、機能の実証とした。分離時の衝撃が下がることは、衛星メーカーにとって大きなメリット。打ち上げ受注に向けたアピールになるだろう。なお今回実証した低衝撃型の衛星分離機構は、4号機以降も搭載されることになるそうだ。

2号機で基本形態、3号機でオプション形態の実証ができたことで、強化型イプシロンの開発は無事完了。今後は、JAXAの衛星を打ち上げつつ、民間衛星などの打ち上げ受注を視野に入れていくことになる。

しかし、JAXAの奥村直樹理事長も井元プロマネも、慎重な見方を崩さない。奥村理事長は「打ち上げを積み上げる中で、顧客と話ができる機会が増える。そこで初めてマーケット開拓ができると思っているので、今回の実証でいきなりマーケットが広がるとか、そこまで言えるだけの実績はまだ無い」とコメント。

井元プロマネは、「強化型を実証したことで、これですぐにビジネスが拡大するとは思っていない。厳しい現実を見なければならない。H-IIAもそうだったが、打ち上げ実績を着実に積み上げることが重要。その上で、コスト低減などを行い、国際競争力を持ったロケットにしていく必要がある」と述べた。

4号機以降については、すでにIHIエアロスペース(IA)に製造を一元化することが決まっている。これに関し、奥村理事長は「いつまでも研究開発機関が打ち上げるのは自然な姿ではない。外国の民間事業者のニーズを獲得するためには、H-IIAのように民間事業者に担ってもらうのが良いのでは」と述べ、移管をさらに進める意向を示した。

  • JAXAの井元隆行・イプシロンロケットプロジェクトマネージャは、会見で笑顔を見せた

    JAXAの井元隆行・イプシロンロケットプロジェクトマネージャは、会見で笑顔を見せた

井元プロマネは当初から、サブマネージャとしてイプシロンの開発に参加。2017年度から、プロマネという立場を森田泰弘氏から引き継いだ。今回はプロマネとして初の打ち上げとなったが、これまでのことを「M-Vロケットの運用停止から12年。長かったが、開発が始まってからはあっという間だった」と振り返る。

イプシロンについては、「軌道投入精度が良いロケットになった。衛星搭載環境でも世界トップレベルになった。4号機からは実用ロケットとして活躍してくれることを期待している」とコメント。次の4号機は、「革新的衛星技術実証1号機」を搭載し、2018年度に打ち上げられる予定だ。