米国、日本、韓国、中国の4拠点でフラットパネルディスプレイ(FPD)の市場動向調査およびコンサルティングを行っているDSCC(Display Supply Chain Consultants)が、先般、東京都内にて「ライジングチャイナ、岐路に立つFPD業界」と銘打った年次セミナーを開催した。

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    DSCCが開催した年次セミナーの様子 (筆者撮影)

中国勢の猛攻で岐路に立つ韓国のFPD業界

同社は旧ディスプレイサーチ(DisplaySearch)の日本人創業者らを中心に2016年に設立された企業で、今回のセミナー開催にあたり、DSCCアジアおよび日本代表の田村喜男氏はアジアのFPD業界を概観し、「韓国の液晶ディスプレイ(LCD)ビジネスのダウンサイジング(事業縮小)と2020年の需給バランスがFPD業界の最大の焦点である。2019年のLCD市場は、チャイナライジング(中国勢の台頭)に伴いパネルが供給過剰となり、特にテレビ用パネルを中心に価格が急落しており、多くのパネルメーカーが採算割れの状況にある。そのため収益が悪化した韓国・台湾メーカーのFPD事業は岐路に立ち、事業の再編が必要な状況となってきた。2019年から2020年にかけて韓国企業はテレビ用大型パネルの生産規模の縮小を進める見通しで、台湾からはLCDラインの縮小計画などは聞こえていないが、IPSなどの高画質パネルに生産の軸足を移すなどすることで、総パネル生産能力はある程度低減される見通しである」と、中国勢の猛烈な追い上げにより、これまで市場を牽引してきた韓国、台湾勢に重大な局面が訪れていると述べた。

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    国別および世界全体のテレビ向け液晶パネル(第7世代以降)の生産投入面積の推移、および韓国勢のシェア推移。赤い点線は、韓国勢が2019年以降もダウンサイズせずに2018年の計画通りに増産を続けると仮定した場合の生産投入面積のDSCC予測 (出所:DSCC)

液晶から有機ELへとシフトをはかる韓国勢

また田村氏は、「TV用LCD/有機EL市場と需要動向」と題する講演の中で、テレビ向け大型液晶パネルの動きについて、「パネル価格は、2017年第3四半期から2019年第4四半期の2年半にわたり下落基調であり、クリスタルサイクルはほぼ起きなかった。そして2019年第4四半期のテレビ用パネル価格は2017年の前半ピーク価格の45%程度にまで下落している。韓国FPD業界のダウンサイジング、中国勢の生産調整、過剰在庫の正常化などの動きが見られてきており、需給バランスの改善がはかられる可能性が出てきた」とした。

また、テレビ向け有機EL(OLED)パネル市場については、「LG Displayの独占市場であり、多くの参入メーカーが存在するモバイル用のOLED市場とは相反する状況となっている。同社のWOLEDパネルは2018年後半から収益改善し、2019年は設備投資を活発に行ってきた。、またSamsung Displayも巨額を投じて第5世代のLCDラインをQD-OLEDへと転換して、本格立ち上げをはかろうとしている。中国勢が第10.5世代のLCDラインへの設備投資に注力していることもあり、韓国勢はLCDへの増産投資ではなく、OLEDの増産に向かっている。しかし、中国勢も複数の第10.5世代のLCDラインがフル稼働する2021年以降に、それらをテレビ向け有機ELパネルへ転換していく方向になるであろう」としたほか、中国でも有機ELの生産ラインが徐々に立ち上がりつつあることにも言及。「65型や77~83型の異なるサイズのパネルを同一ガラス基板上に形成する生産方式である『MMG(Multi Model Glass)生産』によるコストダウンなどを進めることで、安価なテレビ向けLCDパネルの価格に対応していくことになるだろう。すでに増加する中国産テレビ向けOLEDに対し、中国のテレビブランドからの需要も増加しているほか、新規顧客の獲得も始まっている。彼らのOLEDと、QD-OLED、インクジェットOLED、8K LCDといったパネルの競争が今後のテレビ向けパネルの焦点となるだろう」とした。

なお、テレビ向け有機ELの全世界生産量は、2018年の290万枚に対して、2019年は337万枚とSSDCでは予測している。テレビブランド別のパネル調達枚数シェア(2019年予測)は、LGDisplayが56.4%、ソニーが21.2%、パナソニックが10.1%、TPVが5.0%、Skyworthが2.8%、Hisenseが2.3%、その他が1%以下となっており、前年比ではLGがシェアを落とす代わりに、日本勢のソニーとパナソニックがシェアを増やす見込みであるという。

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    テレビ向け有機ELのパネルサイズ別需要予測 (出所:DSCC)

(次回は10月24日に掲載します)