台湾で毎年8月に開催されるTouch Taiwanでは、ここ2~3年、Mini LEDやMicro LEDを採用したディスプレイに関する取り組みに力が入れられ、その内容は年々ホットになっている。

今年は、AUO、Innoluxなどのディスプレイパネルメーカーを筆頭にEpistarやLexterなどのLEDメーカー、さらには台湾のMicro LED開発ベンチャーなども出展したほか、関連セミナーと併せてMini LED、Micro LEDの実用化に向けた進展が感じ取れる内容となっていた。特に、Mini LEDはLCDの直下型バックライトとして、ローカルディミング技術を使って高コントラスト比や高演色化のさらなる高性能化を実現しており、すでにゲーミング市場での応用も始まっている。

AUOのMini LEDをバックライトとして搭載したLCD

AUOは、ゲーミング用としてMini LEDバックライト搭載LCDディスプレイを展示した。ゲーム用ディスプレイとしてピーク輝度1500~2500Cd/m2の明るさと100万対1の高いコントラスト比などを強調している。Mini LEDバックライト技術は、性能的には有機EL(OLED)ディスプレイを凌駕しており、ゲーミングだけでなく放送用モニターとしての実用化も始まっている。

  • Mini LED

    AUOのMini LEDバックライトを搭載したLCDディスプレイ。ゲーム用ディスプレイとしてHDR仕様を強調

また同社は開発中のLEDディスプレイとして、チップサイズが100μm以上のLEDを使ったMini LEDディスプレイとチップサイズが30μm以下のMicro LEDディスプレイの2種類も展示していた。

  • Mini LED

    AUOのMini LEDディスプレイ(左)とMicro LED ディスプレイ(右)。ともに、LEDを駆動するバックプレーンはLTPS基板である

大画面/高コントラスト/高演色を打ち出すInnolux

Innoluxは、世界初と謳った120型8K TVを出展していた。直下型LEDバックライトでローカルデミングを採用している。

  • Mini LED

    Innoluxの120型8Kテレビ。パネルはシャープ(堺工場)製で、先立つ7月上旬の上海UDE(Universal Display Exhibition)展示会でシャープ自身が初公開展示をしている。直下型LEDバックライトで1152ゾーンのローカルデミングを採用

また、高コントラストと高演色を強調したLCDパネルの展示も行っていた。これを実現する手法は2通りある。Mini LEDバックライトでローカルデミングによる方法と、液晶パネルを2枚重ねて1枚をバックライト代わりに使うDual Cellである。

この他にも、Innoluxブースでは、110型Mini LEDディスプレイにタッチパネル機能を付加したものや、Mini LEDを使った透明ディスプレイやフレキシブルディスプレイなども展示していた。

  • Mini LED

    InnoluxのMini LEDバックライトおよびDual Cellを搭載したLCDパネル。65型8K AM RGB mini LED TV(左)では、9600ゾーンのローカルデミングで100万対1の高コントラストを実現すると共に、RGBのMini LEDを採用することでBT2020 97%の広い色域を実現している。65型8K Megazone TV(左から2番目)は、Dual Cell 方式で100万対1の高コントラストを実現している

LEDメーカーもMini LEDバックライトをアピール

LEDメーカーであるEpistarやLexterもMini LEDバックライト、Mini LEDディスプレイ、Micro LEDディスプレイの開発を積極的に進めている。この他にも、LEDドライバーを扱うMacroblockのMini LEDバックライト、タッチパネルを扱うGISのMini LEDバックライト、中国国星光電のMini LEDバックライトなど、多くの企業がまずは市場として動き出したMini LEDバックライトを狙って積極的な展示を行っていた。

  • Mini LED

    EpistarによるMini LEDバックライトモジュールの展示。この他にも、4 in 1パッケージを使ったLEDディスプレイ、車のテールライト用のLED表示なども展示していた

  • Mini LED

    LexterによるMicro LEDの展示は米国X display社と共同開発中のもの。この他にもMini LEDバックライト、Mini RGB LEDなどの展示もあった

精力的に活動するMicro LEDベンチャー

台湾では、Playnitrideなどのベンチャー企業が数年前からMicro LED開発で積極的に動いている。Playnitride自身は、Touch Taiwanには出展はしていなかったが、今回RiTdisplayと組んで開発したスマートウオッチ用の0.94型と1.25型の228ppiの超高精細Micro LEDを、RiTdisplayブースで展示していた。輝度1500Cd/m2、NTSC116%の性能を持ち、Appleが採用するという噂も流れている。

この他に、流体整列技術を開発中のeLuxや、マストランスファーとマスリペーア技術を開発しているUltra Displayなどの展示もあり、Micro LEDディスプレイの実用化に向けた動きが台湾で精力的に行われている。

以下に、今回のTouch Taiwan 2019に展示されたMini LED B/L LCD、Mini LEDディスプレイ、Micro LEDディスプレイで掲げられていた代表的な性能を整理した。この表には書き切れない情報も多々あり、非常に台湾ではホットな状況となっているといえる。

  • Mini LED

    Touch Taiwan 2019に展示されたMini LED B/L LCD、Mini LEDディスプレイ、Micro LEDディスプレイ。各社が展示品に掲載していた仕様を整理したもの。チップサイズや消費電力などの数値を載せている展示もあったが、この表では省略した。またMacroblockや国星光電などがバックライトモジュールの展示と詳細な仕様を掲げていたが、この表では省略している

動き始めた日本企業

Micro LEDでは、ソニーが2012年にCrystal Displayを発表した以外は、日本はこの分野で出遅れた感が強かったが、2019年に入ってSIDで京セラシャープの発表が行われ、日本のディスプレイメーカーもやっと動き出した感がある。中でも京セラは、Touch Taiwanの併設セミナーで、今回開発した技術に関する講演も行っていた。

デバイスメーカーと共に、装置メーカーや材料メーカーも新分野でのビジネスチャンスと見込んで積極的な技術開発を行い、アピールを行っている。今回のTouch Taiwanでも、東レエンジニアリング、信越化学、鈴木、大塚科技、トプコンなどが展示を行いMini LED/Micro LEDに対する製造技術をアピールしていた。特に、鈴木は、LEDチップのトランスファー装置を今回初めて展示し、併設セミナーでも詳細な技術説明を行い、参観者の関心を集めていた。

直近のディスプレイ業界では、LCDの供給過剰や期待が高まりながらもなかなか市場に出てこない折り畳みOLEDスマホの状況を横目に見ながら、新しいディスプレイ技術であるMini LEDとMicro LEDがもたらすビジネスチャンスに期待を膨らませている。この状況を睨みながら2020年のTouch Taiwanの企画もすでに走り始めている様である。

著者プロフィール

北原洋明(きたはら・ひろあき)
テック・アンド・ビズ代表取締役

日本アイ・ビー・エムにて18年間ディスプレー関連業務に携わった後、2006年12月よりテック・アンド・ビズを立ち上げ、電子デバイス関連の情報サービスを行っている。
中国のディスプレー関連協会の顧問などもやりながら産業界の動向や技術情報を整理し業界レポートや講演活動なども行っている。

直近では、Touch Taiwanで見たMini LEDやMicro LEDの内容を紹介する講演会「Touch Taiwan 緊急報告! 台湾で実用化目前のMini LED/Micro LED」の開催を予定。