デジタル世界の退屈を打ち破る、ロンドン発の異端児メーカーNothingが、ヘッドフォンの新製品「Nothing Headphone (1) Pro」を発売した。

  • Nothingが、ヘッドフォンの新製品「Nothing Headphone (1) Pro」を発売

    Nothingが、ヘッドフォンの新製品「Nothing Headphone (1) Pro」を発売

同社がヘッドフォンカテゴリに参入したのは2025年8月のNothing Headphone (1)からだった。英国の老舗オーディオメーカーのKEFと協業しての第一歩だった。そのほぼ半年後の2026年3月にはNothing Headphone (a)が発表されている。(1)とは違い、自社チューニングによるポップなカジュアルモデルで、コストパフォーマンスに優れた製品として展開されている。この製品については以前、ここでも紹介している。そのとき「Nothingのオーディオ製品の関係者が、Nothingとしてやりたかったのは、もしかしたらKEFとのコラボで仕上げた(1)の路線ではなく、今回の(a)の路線だったのではないかと思ったりもする」と書いている。

そして今回、満を持して発売されたのがNothing Headphone (1) Proだ。(1)のまま末尾に「Pro」がついている。3Wayトリプルドライバーや強化ガラス、チタンアームを採用した最上位機としての位置付けだ。ロンドンのMetropolis Studiosと共同で詰めた原音忠実なFlat EQスイッチや、Bluetooth 6.1、Auracastに対応したスタジオ・クリエイター志向のモデルとなっている。

Metropolis Studiosとの協業はあくまでもFlat EQに関してだけだ。(1)のときのように製品全般の音作りを頼っているわけではない。この機能は新設された側面の専用物理スイッチを使い、アプリを介さず、ワンアクションで音響補正や空間オーディオ処理をバイパスし、原音に忠実なフラット特性へ切り替えることができるというものだ。USB-C経由のロスレスオーディオ伝送と合わせ、DAW環境での作業にも配慮されているという。

  • Flat EQのオンオフを切り替える物理スイッチ

    Flat EQのオンオフを切り替える物理スイッチ

実際に試してみると、オフのときには艶やかだったサウンドが、落ち着いたものになる。何も強調されず、何も抑制されていない本当にフラット感が高い音場だ。たぶん多くの人は、フラット音は物足りないと感じる可能性もありそうだ。だが、クリエイターが音作りの基準とするためには、ここからのスタートが求められるということなんだろう。

アーム部にチタン素材を採用(アーム単体で45%軽量化)し、筐体にはアルミフレームと強化ガラスを併用した。(1)無印と比較して、ヘッドバンドの幅が10%広く、パッドの厚みが12%増したほか、イヤーパッドの柔軟性が50%向上しており、長時間の側圧・頭頂部への負荷が軽減されている。それなのに重量は5g軽くなっている。

ドライバーは低、中、高域用にトリプルドライバーとなった。位置を少しずつずらして配置することで物理的な立体感のある音場を実現している。

アクティブノイズキャンセルにも手が入った。左右計10基のマイクによるリアルタイムAdaptive ANCを搭載し、風切り音低減やパッシブ遮音壁(厚さ8mmのシリコン構造)との組み合わせで遮音性能が向上している。

  • アーム部は軽量なチタン素材。全体の重量は軽くなったが、パッドの厚みは増しており、長時間の装着での負担を減らしている。筐体はアルミフレームで、強化ガラスのカバー越しにはドライバーのユニットが見える

    アーム部は軽量なチタン素材。全体の重量は軽くなったが、パッドの厚みは増しており、長時間の装着での負担を減らしている。筐体はアルミフレームで、強化ガラスのカバー越しにはドライバーのユニットが見える

価格は64,800円と、39,800円だった初代から倍とはいわないまでもかなり高くなっている。だからというのもあるのだろう(1)無印は併売されるという。初代無印とProは単なる新旧交代ではなく、「カジュアル機(39,800円)」と「プロ・クリエイター向けフラッグシップ(64,800円)」という明確なグレード分け・棲み分けだ。KEF頼みから始まった試行錯誤は、自前のサウンドシグネチャーを確立する過程で、既存の本格オーディオブランドの権威を借りることでオーディオファンへの説得力を担保しようとしたことで始まった。これは、いわば「安全策」のフェーズだ。

それが大きく変わったのがHeadphone (a)だった。外部ブランドの監修を排し、自社チームのチューニング(Nothingサウンド)だけで勝負に出たにもかかわらず、バランスが良く音楽を楽しく聴かせる見事な完成度に仕上がっていた。「有名オーディオメーカーの看板に頼らなくても、自分たちで良い音を鳴らせる」という手応え得たのではないだろうか。

そして、その自信の先にある「原音」への挑戦が始まる。今、ここだ。今回のProは、まさにHeadphone (a)で掴んだ「自社の音」をベースに据えながら、さらなる高みへ挑んだプロダクトといえるだろう。Nothingが「自分たちの鳴らしたい音」を確立した上で、プロ向けの基準値(リファレンス)として必要な部分だけスタジオの耳を借りるというのはとても理にかなった建て付けだ。ストラップホールのついたハンドバッグ型ケースなど、ちょっとしたカジュアルさの演出にも抜け目はない。そこはNothingならではだ。

  • ヘッドホンのアーム部を活かしたハンドバッグ型ケース

    ヘッドホンのアーム部を活かしたハンドバッグ型ケース

最近Bluetoothスピーカーやヘッドホンのトレンドが変わってきていて、BluetoothだけでなくWi-Fiで楽しもうという流れも出てきている。Sonosがシステムを刷新してヘッドホンをその輪に入れたり、BoseもWi-Fi対応を進めたりしている。音源と再生機器の関係が変わってきているが、Nothingとしては、提供したい音質や再生時間を考慮すると、今のところはBluetooth 6.1の進化で対応するのが解として合っていると考えているようだ。Auracast対応で自機が親機となって音声をワイヤレス中継・シェアできる点など、据え置き型スピーカーのWi-Fiマルチルームに対抗する「パーソナルなワイヤレス共有の解」としてのNothingらしさがそこに垣間見える。その一方で、同梱のUSBケーブルや3.5mmジャックを使うことでロスレスを楽しめる。とことん音質を追求するなら有線で楽しんでほしいというのが本音らしい。