東京では渋谷の街が突貫工事の真っ最中だ。オリンピックには間に合いそうもないが行くたびにどこかが変わっている。新しいビルも次々に竣工し、ちょっと気を抜くと街の風景が様変わりしてしまっている。

  • 渋谷のハチ公前広場。ここに立てばポケモンのジム4つアクセスできる。スクランブル交差点は電波の混雑でケータイがつながりにくいことでも有名。5Gはそんなこととは無縁になるのかどうか

1964年の渋谷へタイムスリップ

そんなさなか、KDDI、一般社団法人渋谷未来デザイン、一般財団法人渋谷区観光協会が、5Gを活用して、渋谷区が推進する創造文化都市事業への貢献を目的とした「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」をスタートした。

参画企業は32社にのぼり、東急、パルコ、ベイクルーズなど、誰もが知る企業が顔を並べる。その一方で、中核となるはずのJR、東京メトロ、京王電鉄といった、渋谷には欠かせない鉄道関連企業の名前が見当たらない。そういう意味では電車で通り過ぎたり立ち寄ったりする渋谷としてではなく、渋谷そのものを目的地として位置づけることを目指すプロジェクトだといえそうだ。

このプロジェクトのスタートにあたり、渋谷駅ハチ公前広場には5G可搬型基地局が設置され、一般社団法人1964 TOKYO VRの協力のもとに、前回、東京オリンピックが開催された1964年の渋谷の街並みへタイムスリップできる体験ブースを開設した。また、3月31日まではハチ公前の観光案内所「青ガエル」(通称)が、XR技術やAIを実験的に活用し、5Gによる拡張体験施策をガイドする案内所として期間限定でオープンするという。

確かに5Gはすばらしい。渋谷未来デザイン フューチャーデザイナーとしてあいさつした若槻千夏氏も「3Gが4Gになったときとは比べものにならない体験ができる」と声高にアピールする。

だが、5Gの特徴である高速大容量、多接続、低遅延といった特質の恩恵を受けられるのは、電波でつながっている区間のみだ。そのバックボーンは、今、われわれが身近に使っているインターネット(多くは有線)なのだ。確かに5Gの技術を使えば、遠く離れたところにいる患者を遠隔手術することもできるくらいに5Gは頼もしい。でも、その2点は5G-インターネット-5Gでつながらざるをえないことを忘れてはならない。

次世代「6G」構想、遅延は1ミリ秒以下に

この華々しい発表会の前日、楽天モバイルは4月1日のサービスインを目標に、「無料サポータープログラム」の2万人追加募集を開始すると発表した。その日のうちに規定人数に達して応募を締め切っている。同社の基地局建設は順調に進み、3月末には当初の予定3,432局を大幅に上回る4,400局を達成できそうだという。

また、5Gサービスについても6月のスタートをもくろんでいるようだ。すでに半年先の話ではあるが、きいてみると、現行で建設中の基地局は5G対応を想定してはいるものの、基地局のアンテナと無線機については対応していないというから、素人目線でも不安になる。

加えてドコモは、さらに10年先、2030年頃のサービス開始を目指す6G通信規格に関する技術コンセプトを記したホワイトペーパーを公開した。その中でも注目すべきはエンドツーエンドの遅延が1ミリ秒以下の超低遅延伝送だ。また5Gの10倍の多接続もかなうという。

5Gはどう我々を豊かにするのか?

今、この原稿を書いているPCは光回線に有線接続されていて、実測で500Mbpsをはるかに超える速度でインターネットサイトを参照できる。その環境下で、たとえばマイナビニュースのサイトの応答速度は往復で3ミリ秒であることを考えると、6G無線は遙かに低遅延だ。そのからくりとして、ベストエフォート型の公衆網としてのインターネットを使わずに、特定産業向けに特化した個別網を高効率に実現していくことが想定されているようだ。

既存のインターネットは素晴らしい。5Gも技術そのものは素晴らしい。だが、それらの技術が、われわれの身近な暮らしにどのような影響をもたらし、どのように暮らしそのものを豊かにしていくのか。きっと未来は明るい。でも、そこにはまだまだ解決しなければならない課題がたくさんある。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)