今年(2020年)の春から小学校のプログラミング教育が必修となる。文科省は、それに先立ち、その円滑な実施に向けて最低限必要と考えられる指導体制の基礎が整えられているか、といった準備状況/予定について、市町村教育委員会に調査した(該当PDF)。

結果として、「今年度末までに各校に1人以上、教員に実践的な研修を実施したり、教員が授業の実践や模擬授業を実施済み/実施予定」と回答した教育委員会は93.5%だったという。逆にいうと約7%の教育委員会は、この春から、最低限必要と考えられる指導体制の基礎が整っていないことになる。また、都道府県ごとのばらつきもある。たとえば青森県、福島県、千葉県、長野県、静岡県、島根県、沖縄県は対策を「行っていない、行わない」とした教育委員会を抱えている。文科省ではそれらの自治体へのヒアリング等により、詳しい状況を確認し、当該地域でのセミナー開催や、教育研修用教材などの提供を実施するという。

対策しているのに「していない」と答える教育委員会も

文科省初等中等教育局視学委員 プログラミング教育戦略マネージャーの中川哲氏は「各教育委員会でプログラミング教育の定義は、学習指導要領の徹底等もあって統一されているはずだが、実際に話をきいてみるときちんと対策しているのに対策していないと答えるような教育委員会もある」という。

  • 文科省初等中等教育局視学委員 プログラミング教育戦略マネージャーの中川哲氏

学習指導要領では、例えば小学校の5年生が算数の時間にプログラミングを通して正多角形の意味を基に正多角形をかく。また、6年生では、例えば理科で身の回りの電気の性質や働きを利用した道具があることなどを、プログラミングを通して学習する。

ただし、プログラミング言語を学習するのではなく、プログラミング思考を育むことが目的だ。仕組みがブラックボックス化しているコンピュータと向かい合い、意図した処理をさせる活動によってコンピュータがプログラムで動き、そのプログラムは人間が作成し、コンピュータにはできることとできないことがあることを気づかせることが目指されている。

プログラミング思考の評価は難しい?

プログラミング言語の習得が目指されてはいないといっても、プログラムを作るには何かしらの言語環境が必要となるし、その環境構築のためのハードウェアとしてのパソコンも欠かせない。Scratchなどの、ブロックを組み合わせてプログラミングができるビジュアル環境を使うことで、そのハードルはきわめて低いものになるはずだが、環境特有の概念や用語の違いをどのように扱うかは今なお重要な課題だ。

なによりも、こうした環境を一度も使ったことがない教師が教えることになるわけで、スタート地点としては教える側も教わる側も似たようなものだともいえる。教わる側の方がセンスがあることだってあるはずだが、そこがどのように評価されるのか。仮にアッと驚くようなアルゴリズムを考えついた子どもの芽が摘まれる危惧もある。

「1人1台」は業界のビジネスチャンス

令和時代のスタンダードとしての1人1台端末環境整備に向けたGIGAスクール構想も立ち上がっている。令和5年までに小中全学年で「1人1台」を達成し、あわせて令和2年度までに、高速大容量の通信ネットワークをすべての小中高校特別支援学校等に校内ネットワークとして完備する施策だ。

学習用端末の標準仕様としてのハードウェアは2016年8月以降の製品で、5万円程度の価格帯が想定されているという。ちなみに、OSは、Windows、Chrome OS、iOSとされているが、これはあくまでモデルであり、各自治体の裁量で決められる。野次馬的には、ICT業界にとってここが大きなビジネスチャンスにつながるわけだが、とにかく先の長い話だ。

小学校は6年間、中学校は3年間しかない。子どもにとっては途方もなく長い期間だが、大人にとってはアッという間だ。モタモタしているうちに学習のチャンスを逃し、将来の優れた人材を失うことは避けたいものだ。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)