2020年は、日本でもついに次世代のモバイル通信規格「5G」がスタートします。社会を大きく変えるとして高い期待が寄せられている5Gですが、2020年の時点で実現できるのは5Gの要素の一部に過ぎず、いざサービスが始まったら失望を招く可能性もあると考えられます。5Gは本当に、我々の生活を変える存在となるのでしょうか。

商用サービス開始直後の5Gは機能が限定

諸外国ではすでに商用サービスが始まっている、次世代モバイル通信規格の「5G」。日本では当初より、商用サービスの開始を東京五輪の開催に照準を合わせてしまったため、諸外国より大幅に遅れて商用サービスを開始することとなってしまいました。

ですが、その2020年がようやく訪れたことで、今年日本でも5Gの商用サービスが開始することとなります。大手3社のスケジュールを見ると、NTTドコモは2020年春、KDDIとソフトバンクは2020年3月に商用サービスを開始するとしていることから、3月には5Gの商用サービスが始まると見てよいでしょう。

5Gはスマートフォンだけでなく、自動運転や遠隔医療、さらには多くの産業のデジタライゼーションを進めるなど、社会インフラを支える存在になるとして、いま大きな注目を集めている技術の1つです。それだけに、最近では5Gの商用サービスによって「凄いことが起きる」と非常に強い期待感を抱いている人も少なくありません。

  • 2019年12月24日の「SoftBank ウインターカップ 2019」に合わせて実施された、ソフトバンクの5Gプレサービスより。5Gと新しい技術を活用した、未来的なコンテンツやサービスのアピールが積極的になされているだけに、5Gへの強い期待感を抱く人も多い

ですが筆者としては、ここ最近の5Gの盛り上がりぶりに疑問を抱いているというのが正直なところです。商用サービス開始時の5Gは、4Gのネットワークの中に5Gの機器を導入し、5Gの一部機能を実現する「ノンスタンドアローン」での運用となるため、実力をフルに発揮できないのがその理由です。

それゆえ当初、5Gのサービスで実現できることは、通信速度が大幅に速くなる「高速大容量通信」のみ。自動運転に必要な「低遅延」も、産業のデジタライゼーションに欠かせない「多数独自接続」も実現できず、あえて言ってしまえば、スマートフォンの通信速度が早くなるにすぎないのです。

しかも、5Gはエリアの整備途上なので、当然のことながら現在の4Gと同じエリアで利用できるわけではありません。5G対応スマートフォンが登場しても、大半のエリアでは従来通り4Gで通信することとなることから、5Gのサービスが開始したからといって急に大きな変化が起きるわけではないのです。

それだけに、サービス開始当初はむしろ高まり過ぎた期待感の反動から、「ほとんど変わらずにがっかりした」という評価が多くなるのではないかとさえ予想しています。

  • KDDIが2019年2月に実施した、5Gを活用した一般公道での自動運転実証実験より。商用サービス開始時点の5Gでは、自動運転に欠かせない「低遅延」は実現できないことから、自動運転などのサービスがすぐ登場するわけではない

データ通信の「使い放題」が生活を変える

ですが、だからといって5Gが世の中を変える技術にはなり得ないのか?というと、そうではないとも考えています。確かに、5Gの商用サービス開始当初は利用できる機能が限定されますが、2021年ごろには5Gの機器のみでネットワークを構成する「スタンドアローン」運用へと移行していくので、徐々に低遅延や多数同時接続などにも対応していくことになるでしょう。

また、NTTドコモが5Gのネットワーク整備計画の前倒しを打ち出すなど、海外と比べ大きく出遅れている現状を取り戻すべく、今後各社とも5Gのエリア整備を積極的に進めていくことが考えられます。エリアと技術が整えば、5Gの実力をフルに発揮した先進的なサービスの提供が可能になるでしょうが、それには5年や10年といった長い時間がかかる可能性が高いのです。

では、より短期間のうちに5Gが世の中を変える可能性はないのか?というと、実は1つ考えられることがあります。先にも触れた通り、商用サービス開始当初の5Gで実現できることは高速大容量通信のみですが、その高速大容量通信の実現によって、携帯電話各社の料金プランが大きく変わると見られているのです。

5Gの高速大容量通信は「高速」の部分に目が向きがちですが、実は携帯電話会社からすると「大容量」、つまり一度に通信ができる“道幅”が大幅に広がることのほうが重要であったりします。というのも、携帯電話会社は通信容量が増えれば、多くの人が同時にたくさん通信をしてもネットワークがパンクしなくなるので、よりたくさんの通信ができる料金プランを提供できるからです。

そこで、5Gの商用サービス開始と同時に増えると見られているのが、データ通信がし放題になる料金プランです。すでに、KDDI(au)が5Gを見据えて「auデータMAXプランPro」などのデータ通信が使い放題になる料金プランを提供していますが、5Gでは他社もこの動きに追随すると考えられています。

  • KDDIは2019年5月に、通信容量が無制限となる「auデータMAXプラン」を発表して以降、データ通信使い放題の料金プランの拡充に力を注いでいる

スマートフォンでのデータ通信がし放題になれば、「ギガ死」を気にすることなくデータ通信ができるようになり、いつでも動画を視聴するようになるなど、スマートフォン上で利用するコンテンツやサービスが大きく変化することとなります。そうなれば、スマートフォンの使われ方も大きく変化していくでしょうし、昨年日本でも発売された「Galaxy Fold」など、より大画面を実現する折り畳みスマートフォンの人気が高まるなどして、端末の形状に変化をもたらすことも考えられるでしょう。

  • 動画利用の拡大による大画面需要の高まりから、「Galaxy Fold」のような折り畳みスマートフォンの人気が高まるなど、スマートフォンの形状に変化を与える可能性は十分考えられる

5Gの商用サービスが始まったからといって、2020年、我々の生活に劇的な変化をもたらすわけではないでしょう。ですが、従来より高いポテンシャルを持つ5Gがもたらす環境変化によって、我々の生活に徐々に変化を与えていく可能性は十分あり得るのではないかと、筆者は考えています。

著者プロフィール
佐野正弘

福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。