ドコモが通信料金と端末料金の分離を実現する新しい施策を発表した。「スマホおかえしプログラム」だ。

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    「スマホおかえしプログラム」はNTTドコモの2019年夏の新製品発表会で発表された

ひとことでいえば、ドコモから36回割賦で購入したスマホの支払いのうち、最大12回分の分割支払金が免除されるというものだ。ただしプログラム名の通り、免除を受けるには、そのスマホをドコモに返却する必要がある。

新料金プラン発表のとき、ドコモの吉澤社長は「(通信料金と端末料金の分離は明確にするが)そうはいっても、高額なスマホを少しでも安く提供する方法を考えたい」と、なんらかの割り引き施策の展開を匂わせていたが、それがこの新施策だ。

「分離プラン」を意識した割引施策

過去においても似た施策はあった。たとえばauのアップグレードプログラムEX/EX(a)などだ。 ただ、この場合は機種変更を伴わなければならなかったり、プログラム料金が必要だったりしていた。

「スマホおかえしプログラム」は、こうした条件がほぼないに等しい。あるのは購入のタイミングでドコモの回線を有することのみだ。購入直後に解約してもかまわないという。ただし、即時解約では契約手数料や契約に伴う一か月分の通信費を考慮しなければならないし、機種変更の場合は従来の「月々サポート」が終了してしまう点には注意したい。

通信料金と端末料金の分離が求められての新施策だが、実際には過去においても分離されていた。だが毎月の請求との合算で分離の事実がわかりにくくなっていたにすぎない。

つまり「月々サポート」は端末購入にともなう割り引き施策であり、新たな端末の購入でそれが終了するのは当たり前といえば当たり前なのかもしれない。月々サポートでは10万円程度の端末を購入した場合、3,000円×24回分=72,000円近い戻しを受けることができていた。今回の割り引き施策では、それが半分以下になってしまうという見方もある。

3割ほど安くなるが、端末は返却

いずれにしても、今回のプログラムによって、36回分の12回分、すなわちドコモが定めた価格の約33%引きで新しい端末を手にすることができる。

もちろん、36回分を払い続けることもでき、その場合は端末の返却は必要ない。手持ちの端末の残債12回分と、中古ショップなどにその時点で売却した場合の買い取り価格を比較し、総支払額が安い方の手段を選べばいい。リセールバリューの低い端末では素直に免除を受けた方がよさそうではある。

逆に1年12回支払い程度で別の端末に機種変更するようなヘビーユーザーの場合は、残り1年の間にその端末の扱いを考えて、売るか返すかを決めることができる。

プログラムは端末を返却するか、端末を手元に残したまま36回分を支払った時点で終了する。その先のことについての規定はない。新たに別の端末を購入してプログラムを始めるなり、ドコモからではない別ルートで端末を入手して使うなりできる。

従来は、月々サポートが切れる24カ月目を迎えることが機種変更のモチベーションになっていた。そうしないとトータルの支払い額が増えてしまうからだ。機種変更時の端末価格も、MNPは安いといった理不尽なこともあった。だから、安く端末を入手するためだけにキャリアを往来する手法が有効だった。実に不毛だったのだ。だが、今回の施策によってそうした面がなくなり、端末入手の主導権がユーザー側に移ったともいえる。

惜しいのは一括支払いで購入するユーザーに対する配慮が皆無である点だ。一括購入の場合の金額は36回分割の総額と同じで、今回の「スマホおかえしプログラム」の適用はない。個人的には端末の購入に際して、量販店でのポイント還元を目当てに一括支払いをしてきたが、36回ということになると、手数料等の必要がないオンラインショップでの購入に移行することになりそうだ。

通信料は4割下がり、端末代は4割上がる

いずれにしても今回の施策によって「スマホは欲しいときが買い時」という原則を、月々サポートの切れ目などを気にすることなく実践できるようになるというのは大きな一歩だ。

だが、端末価格の上昇という点では予測通りになってしまった。3万円程度の実質負担で購入できていた10万円の端末が倍額になるイメージだ。そして、その分は通信費の値下げに回されるということで、結局のところドコモ側の取り分は変わらないということなのだろうか。2年後くらいの決算結果を見てみないとわからないが、おそらく緻密なシミュレーションによる勝算があるのだろう。乱暴な言い方をすれば通信料金は4割下げたが、端末代金は4割上がってチャラというわけだ。

きっと、この先2年以内に訪れる5G対応の新端末ラッシュには、おそらく高額製品が勢揃いする。それに興味津々のパワーユーザーの購入モチベーション向上にも功を奏するだろう。そういうことまで視野に入れたプログラムだ。

ただ、毎月の支払い額だけを見ていれば、こうした施策の影響には気がつかないことも多そうだ。やはり求められるのは自分が支払っている金額の細部を把握する消費者としての賢さだ。それについてはどんな施策のもとにも変わらない。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)