ドコモ、KDDI、ソフトバンクが、新SMSサービス「+メッセージ」の機能を拡充した。企業の公式アカウントを各キャリアがそれぞれ審査して認証済みマークを表示、ユーザーが安心して各企業とメッセージをやりとりできるようするそうだ。これによって、本人認証が必要な契約内容の確認や変更といった手続きを「+メッセージ」を使って簡単便利に行えるようになる。

  • 「+メッセージ」が拡充。金融サービスと連携する取り組みを始める

「+メッセージ」は、従来のSMSやMMS、いわゆるショートメッセージの進化形として、2018年の5月にサービスを開始したコミュニケーションサービスだ。世界標準のRCS(Rich Communication Services)に準拠し、これまでのSMSとは違い、写真や動画などを含むメッセージを電話番号宛にやりとりすることができる。

このサービスに、企業の公式アカウントという考え方を加え、認証された企業のメッセージをロゴマークや認証済みマークをつけてわかりやすくする。2019年5月以降(ドコモとソフトバンクは8月以降)、キャリアごとに順次サービスが開始される予定で、まさに令和の新サービスということができる。

金融機関のサービス窓口のひとつに

この発表と同時に、金融機関を横断する共通手続きプラットフォームの検討開始が明らかになった。

参加しているのは、ジェイシービー、東京海上日動火災保険、日本生命保険、野村證券、三菱UFJ銀行、トッパン・フォームズの6社で、プラットフォームそのものの構築は、金融機関を横断する共通手続き化をもくろんでトッパン・フォームズが引き受けることで合意したそうだ。

住所変更の手続きなど、金融機関ごとに異なる事務手続きを共通化し、ユーザーインターフェースを一本化しようというわけだ。これによって、たとえば引っ越しなどの際にも、一回の手続きをすれば、すべての事業者に連絡が行われる。そして、今回は5金融機関の参加検討が発表されただけだが、以降、日本の全金融機関が利用できるオープンプラットフォームを志向していくという。

  • 「プラス銀行」の後ろについた緑のチェックマークが認証された公式アカウントのイメージ。ちなみに今回の機能拡充では、企業アカウントが送信した質問に1タップで返信できる「アクションボタン」も追加される

その携帯電話は本当に本人のものなのか

話だけを聞いている分には素晴らしい。だが、現在の「+メッセージ」が、こうした使い方ができるほどに普及浸透しているかというとなかなか難しい。いまは800万人のユーザーが利用しているそうだが、全モバイルネットワーク利用者の数を考えればまだまだ少ない。しかも、移動体通信事業に新規参入する楽天も、多くのMVNO事業者もまだサービスを展開していない。さらに、電話番号を司るSIMが装着された携帯電話を扱っているのは本人であるという認証は、本当に信頼するに足りるものなのだろうかという疑問も残る。

移動体通信事業者にとってSIMは何者にも代えがたい命のような存在だ。

契約時に厳重な本人確認をしなければ発行されることもない。契約者が端末ごとなくすようなことがあればすぐに無効にできるなど、ユーザーにとっても安心だ。運転免許証くらいしか日常的に持ち歩かない日本人にとっては、自分が自分であることを証明するダイナミックな身分証明書だといってもいいくらいだ。たとえばLINEの年齢確認なども、SIMの電話番号を元に通信事業者が判定する仕組みになっている。

でも、それで本当にいいのだろうか。このITの発達した世の中で、物理的なICカードが本人を証明するものであってもいいのかどうか。確かに、端末から端末にSIMを差し替えれば、以降は新しい端末にメッセージが届くようになる。

だが、過去にやりとりしたメッセージは前の端末に残ったままだ。自動的に新しい端末に引き継がれることはない。SDカードを使ったり、iPhoneの場合はiCloud経由でバックアップし、自分で復元する必要がある。機種変更前と後でOSが異なれば過去のメッセージの復元は不可能だ。

枠組みにこだわるとうまくいかない

また、今回の協業では、公式アカウントを認証するのは各キャリア別々だ。つまり、ドコモではOKの企業でも、ソフトバンクとKDDIはNGということも起こりうる。また、共通プラットフォームを使わずに、個別のサービスを公認アカウントで独自に提供する企業についても容認される。

いろいろなパターンを想定することができ、協業がうまく進まなければエンドユーザーは混乱するだけだ。そんなことなら、ウェブでいいんじゃないか。無理に「+メッセージ」の枠組みに当てはめるのではなく、本人認証の部分だけを電話番号と紐付けるようなかたちでも同様のことはできるはずだ。

「+メッセージ」のサービスを充実したものにしようという電話会社の思惑と、共通プラットフォームでエンドユーザーに便宜を提供したい金融機関の思惑が入り交じり、それがかえって話をややこしくしているようにも感じる。

  • ドコモ、KDDI、ソフトバンクと各金融機関

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)