数年前のパソコンと最新のパソコンの違いは処理能力の違いくらい。できることそのものは大きく違わなくなってしまってきている。だから、パソコンの買い替えサイクルは長くなる一方となり、その市場の踊り場状態が続いている。パソコンのいいところも悪いところも全部同じようになぞっているように見えるスマホも同じ道を歩みつつある。

9月末に開催されたデル新製品発表会にて。新しい「XPS 13」は一見前モデルと似ているが、CPUが第8世代Intel Coreプロセッサに刷新されている

付加価値がわかりにくくなっている

もちろん処理能力が高いことは大きな付加価値だ。特に、機器に詳しい知識を持たない一般のユーザーには間違いなく速いデバイスを薦める。そうはいっても、こうした機器にさける予算には人それぞれで限界があり、結局のところ予算に見合った機器を選ばざるを得ないというのが実情だ。それは、その人がお金持ちかそうでないかというよりも価値感の問題だともいえる。その結果、安くなった旧モデルを選んだりするわけだ。

マイクロソフトが「モバイルファースト、クラウドファースト」の方針を打ち出して久しい。GoogleはGoogleで「AIファースト」を直近のテーマにしているようだ。

機器の付加価値がクラウド側のサービスに依存することが多くなると、機器そのものの処理能力というのはそれほど大きな問題ではなくなる。処理能力はもっとユーザーに近いところで使われ、リッチなユーザーインタフェース、そして、機器そのものを持っていて気分がいいという所有感や、音がよかったり、姿カタチがかっこいいといったことにコストが費やされる。

近頃流行のスマートスピーカーなどもそうだ。各社各様の製品が出てきているが、値段はまちまちで数千円レベルから入手することができる。世の中はこの新しいデバイスをどうしてもAIスピーカーと呼びたいようだが、実際にはそうじゃない。今後、AI対応プロセッサが一般的になってきて、ニューラルネットワーク処理などの難しい処理を機器側で行うことでなんらかの差別化を図る新たなサービスが出てくる可能性もあるが、今の時点ではそうはないっていない。スマートフォンをスマホと呼ぶのと同じように、スマートボイスを略してスマボと呼ぶくらいでちょうどよさそうだ。

こうした最新デバイスの様子を見ていると、あらゆるものがいわゆる耐久消費財に収束していくのかなとも思う。テレビはどのテレビも映る放送局は同じだ。冷蔵庫はどれも冷やすし、電子レンジは食材を暖め、エアコンは部屋の温度を快適に保つ。だが、どう映すか、どう冷やすか、どう暖めるかは付加価値としてあり、それは機器の価格に反映されている。ところが今の時代は、モノクロテレビがカラーテレビになったときのように、その付加価値が火を見るよりも明らかになったころとはちがい、付加価値の意味がわかりにくくなってしまってきている。

価格の理由を考えよう

賢い消費者なら、なぜ、その機器が高いのか安いのか、その理由をきちんと理解して買い物をするようにしたほうがいい。そして、価格が高い要因が自分には必要のないものであれば、そのコストを支払ってまで入手することはない。これは大原則だ。

ところがパソコンの処理能力が高いことが、いかに重要なことかが理解されないように、新たな付加価値を説明されても、その価値を理解できなくなりつつもあるということだ。特に、AIのように新しい分野は数千円から買えるスピーカーにAIが入っていると勘違いされる始末だ。

メーカー側は新しい付加価値を、よりわかりやすいかたちで消費者に説明しなければならないし、消費者は消費者で新しい付加価値が暮らしをどのように豊かでスマートなものにしてくれるかを考える想像力が求められる。

今、世の中は選挙で大騒ぎだが、そういうことを考えて、政見放送を見たりすると、それぞれの政治家のビジョンも見えてくるというものだ。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)