日産自動車が2026年までに2兆円を投資、電動化を推進するとの発表が世界中に流れた。Bloombergをはじめさまざまなメディアがそのニュースを取り上げたが、多くは5年間で2兆円もの投資額に焦点が当たっていた。日産自動車代表執行役社長兼CEO(最高経営責任者)の内田誠氏と代表執行役兼COO(最高執行責任者)のAshwani Gupta氏が日産の今後の戦略である「Nissan Ambition 2030」について語った時の発表である。このプレゼンビデオを見る限り、EVの車体プラットフォームを構築し、新型電動車を23車種以上、2030年までに拡大・展開していくことに重点が置かれていた。

EVのプラットフォームそのものを変更

日産は2011年に電気自動車「リーフ」を世界に先駆けて発表、出荷してきた。しかし、従来のハイブリッドカー、トヨタ自動車の「プリウス」のようにバッテリーを搭載する位置を後部座席の下に置く方式であり、車室内やトランクルームを狭くしていた。このため車体デザインの自由度が少なく、本来の電気自動車のコンセプトからは遠かった。従来の内燃エンジン車は、エンジン部分の重量と体積から設置場所がほぼ前面のボンネットの中、と決まっていた。EVはエンジンを持たないため、車体デザインの自由度が上がるというメリットが期待されていた。にもかかわらず、リーフは従来の内燃エンジン車と何ら変わらないデザインに終始していた。

一方、最初から電気自動車だけの企業で出発した、Tesla Motors社のクルマは、2012年のTeslaモデルSの発表において(参考資料1)、バッテリーの電池セルを床一面に敷き詰める方式を採用し、車体バランスなどを考慮しながら安定なクルマ作りの時代を先取りしてきた(図1)。今では、テスラの床全面方式が世界中のEVの主流になっている。

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    図1 2012年Teslaがバッテリーを床一面に敷き詰める方式を見せたモデルSのシャーシ (出典:Teslaの会見の際に筆者撮影)

この車体プラットフォームこそ、これからのEV車体設計の基本となる技術である。このプラットフォームは、複数のバッテリモジュールから出来ており、1つのバッテリモジュールには多数の電池セルが直並列に接続されており、電池容量を稼いでいる。この車体プラットフォームだけを提供し、自動車メーカーはその車体プラットフォームに搭載する車両デザインに注力する、というビジネスモデルを特長とするスタートアップまで現れている(参考資料2)。イスラエルのREE Automotive社だ。

床一面に電池セルを敷き詰める方式のバッテリーのプラットフォーム化が今や世界の主流となっており、その視点から見ると日産はリーフでEVの商用化では先行したものの、車体プラットフォーム化では遅れていたのである。今回の同社の発表は、EV向けの車体・シャーシを根本から見直し、複数の車種に渡りプラットフォーム化するコンセプトである(図2)。

  • 日産自動車

    図2 車両の床一面にバッテリーを敷き詰める方式でプラットフォーム化 (出典:日産自動車のプレゼンビデオからスクリーンショット)

床一面に電池セルを敷き詰める方式のプラットフォームのメリットは、多くの車種ごとに車両シャーシを設計する必要がないことである。普通車、高級車、軽自動車、SUV車、スポーツカーなど数種類のプラットフォームで全モデルをカバーできるようにしておけば低コスト化につながる。1種類の方式ですべてのクルマをカバーできるわけではないが、数十もの車種を数台のプラットフォームで共通化させるのである。車台の前後にモーターを設置し4WDにも対応するプラットフォームとする。

実は日産はEV車「アリア」からこの敷き詰め方式のプラットフォームを採用することを決めている。同社が「CMF-EVプラットフォーム」とよぶ車体プラットフォームでは、現在は液体冷却を利用した63kWhのバッテリパックで360km走行するが、プラットフォームをそのままに87kWhの液冷バッテリパックを搭載すると500kmも走行する。

内田社長はさらに、日産の強みをルノー、三菱自動車とEV車両のプラットフォームを共通して使えるため、コスト的には有利になる、としている。

電池そのものも開発へ

Ashwani Gupta COOは、電池セルの正極材料や負極材料、電解質などを改良する新しいリチウムイオン電池の開発により、安定で低コスト化を進めていくと語った。2028年までには現在のコストの65%低下させる75ドル/kWhにし、さらに固体電解質を使う全固体電池にして65ドル/kWhにまで削減するという目標を掲げた。このロードマップに沿って2026年までに1400億円を投資、2024年にパイロットラインを設置し電池を試作する計画だ。そのためには2022年に工場の建設を開始する。そして2028年に量産するという計画だ。試作と量産を同時に進めることにより最適な工場ラインを生み出すとしている。

EVのメリットは何といってもEVそのものからはCO2を出さないことだ。もちろん、EVを製造するために必要なエネルギーや、電気を充電するための電力網でCO2を出す火力発電所の電力だとEVでもCO2を出す乗り物とみなされる。トヨタ自動車は、ハイブリッドカー3台が排出するCO2削減効果を、EV1台で達成するという見積もりを出している。

日産は、EV車「リーフ」の電気エネルギーを使わない時には電力網へ戻し、電力の平準化、安定化に協力してきた。ここに150社以上のパートナーと協力し取り組んできたが、バッテリーのV2X化と呼ぶ、このコンセプトを2020年代半ばには商用化するという目標を掲げている。さらにバッテリーの2次利用も進めていく。すなわち、バッテリーの電荷量を正確に測定診断する技術を活用し、その2次利用を世界に向けて拡大する。2022年に欧州に、2025年には米国に2次利用する施設を建設する計画だ。使用済みバッテリーに新たな価値をもたらすことで、バッテリーの低コスト化につなげていくとしている。

参考資料

・ 1. 津田建二、「連載40回カーエレクトロニクスの進化と未来:シャーシの基本設計を見直し、480kmの走行距離を実現したTeslaの新型EV」、マイナビニュース、2012年9月10日
・ 2. 同上、「連載143回カーエレクトロニクスの進化と未来:EV時代のシャーシプラットフォーム戦略をイスラエルのスタートアップが展開」、マイナビニュース、2021年2月9日