スマートフォン、デジタルカメラ、自動車、産業機器、医療機器など、さまざまな分野でのアプリケーションが期待されるイメージセンサ市場において、ソニーは、裏面照射型CMOSセンサをベースとしたさまざまな独自技術で、高画質と多機能/高性能を実現する製品を産み出し、世界をリードし続けている。
同社は1983年に最初のイメージセンサを出荷して以降、2019年5月に累積出荷数量100億個達成し、世界シェアの5割を握っている。それでもさらなる増産のため、長崎工場の隣接地に新たなファブ建設を決め、シェア6割を目指すとしている。2019年の半導体企業売上高ランキングで、キオクシア(旧東芝メモリ)を抜いて日本トップの半導体企業になることが確実のソニーのCMOSイメージセンサ(CIS)製造を担当するソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(本社:熊本、以下ソニーと略記)の門村慎吾氏(技監)が、「AEC/APC Symposium Asia 2019」にて招待講演を行い、ソニーのCIS製造戦略について語った。
増加するプロセスコストを生産技術力の向上で解決
門村氏は「ソニーのCIS生産拠点(熊本、長崎、大分、山形)において、デバイスの高性能化に伴うプロセスコストの増加を製造技術力で解決するためのものづくりを目指して、ビッグデータ分析やAI関連技術を駆使した工場のスマート化に取り組んでいる」ことを強調し、最先端のものづくりの現場で行われている活動を紹介した。
ソニーは、スマートファクトリを目指して次のような7つのプロジェクトを立ち上げて活動を行っているという。
- インテリジェントな製造装置(エッジコンピューティングの活用)=すべての製造装置のセンサ出力をモニタして機械学習で小さな変動を自動検出してフィードバック・フォワードをおこなう。
- バリューチェーン(市場投稿調査、需要予測、顧客情報収集)情報に基づく工場生産管理)
- インテリジェントなMES(製造実行システム)
- 革新的なエネルギーシステム
- 統合ITシステム
- 部品や材料のスマートな購買活動
- スマートなエンジニアリングシステム (ビッグデータの活用)
これらを総合して、究極の高歩留まり、製造コスト低減、タイムリーな供給体制を目指している。
ソニーは、毎回のシンポジウムで仮想計測(VM)の発表を行っているが、同社は製造装置に設置したセンサからの信号に基づくVMを徹底的に活用して予測可能なプロセス制御を行っており、極力、製品ウェハ上の検査をやめる方向だという。
さらに、製造工程内に多数の低価格の監視カメラを設置しAIと組み合わせてプロセスの異常をリアルタイムで監視する取り組みの進めているとする。
門村氏は、VMとAPC活用の一例としてCVD/ドライエッチング工程におけるプロセス制御について紹介した。CVD装置から出力されるガス流量、ヒーター温度、チャンバア圧力、プロセス時間などの諸データに基づいて仮想計測で堆積膜厚を予測し、ドライエッチング装置にAPCでフィードフォワードし、エッチング時間を決める。エッチング装置から出力されるデータを基にエッチング状態を予測し、実際のウエーは上の計測を廃止することができる。APCによりばらつきも最小に抑えられるとしている。
門村氏は、まとめとして「ビッグデータ分析やAI関連技術を駆使したAEC/APCを最大限に活用して究極のものづくりを目指す」と述べた。
チュートリアル1:セマンティックウェブ技術の活用
最後に、AEC/APC関係者に対して教育的な講義を行うチュートリアル2件の概要を紹介しよう。
まずシンポジウムの冒頭に国立情報学研究所の武田英明 教授が「データの相互運用性のためのセマンティックウェブ技術」と題した講義を行った。
武田氏は「データの相互運用性は領域内あるいは領域間でデータを利用するときの鍵である。 セマンティクウェブ技術(ウェブページに記述された内容について、それが何を意味するかを表す情報についての情報、メタデータ、を一定の規則に従って付加し、コンピュータシステムによる自律的な情報の収集や加工を可能にする技術)はウェブ上の情報を人間とコンピュータ双方に理解可能にする技術として開発されてきたが、近年、データを人間とコンピュータ双方に理解する技術として有用な技術であることが認識されている。 データに対して意味のレイヤを付加することは単に人間の理解促進だけでなく、データ間にある意味の違いを吸収することで、領域内および領域間でのデータ相互運用性の向上に有用である」と述べ 、セマンティックウェブ技術によるデータ相互運用性向上に関わる実践例として、農業分野でのオントロジーの構築を紹介した。これにより農業情報や農業データは共有が容易や統合が容易になったという。今後、半導体製造分野でも、セマンティックウェブ技術を取り入れていきたいと、参加者は感想を述べていた。
チュートリアル2:データのセキュリティ強化
2件目は日本アイ・ビー・エム・サービスのであるシニア・アーキテクトである大石修氏による「SEMI スタンダードを活用したセキュリティ強化とオペレーション指向のレシピ管理」と題した講義である。
製造ラインをよりスマートなものにするには、より多くの関連システムにより、ファブ・データを広く共有する必要があり、さらに高度なセキュリティ管理スキームが不可欠である。また、データの整合性が保証され集中的に管理される必要もある。
半導体工場において装置レシピはもっとも重要な情報の1つであり、十分に保護されている必要がある。しかし、現在のGEM300では標準化されたセキュリティ管理スキームがないため、十分に保護されていないのが現状であり、以下の様な課題が存在する。
- ユーザ認証が多数の装置に分散されており、集中管理ができない
- 装置内の単一のレシピ・スペース内でレシピが管理され、作業目的による分離ができない
- 本来目的やセキュリティレベルが異なるレシピ操作が、単一のセキュリティレベルで実行される
講義で、大石氏はSEMIスタンダードを活用したセキュリティ強化の手法とオペレーション指向のレシピ管理について解説を行ったが、今回の2件のチュートリアルは、デジタル化が進んだ半導体製造にも、業務効率を上げるために標準化すべきところが多々あることを示唆するものとなっていた。
なお、次回の「AEC/APC Symposium Asia」APC/AECシンポジウムAsia2021年11月に東京神田で開催される予定である。また、親会議であるISSM(半導体製造国際会議)は2020年12月にSemicon Japanの併催イベントとして東京両国で開催されることが決まっている。