巨匠リドリー・スコットが、史上最高のディストピア小説の一つとも評されるピーター・ヘラーのベストセラー小説"The Dog Stars"を映画化した『ラスト・サバイバー』(公開中 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)の制作の舞台裏をキャストのコメントから紐解いていこう。
『ラスト・サバイバー』は、史上最高のディストピア小説の一つとも評されるピーター・ヘラーのベストセラー小説"The Dog Stars"を映画化。ジェイコブ・エロルディを主演に迎え、絶望がひろがる終末世界で、わずかな光《希望》を追い求める物語を描く。監督を務めるのは、第99回アカデミー賞でアカデミー名誉賞を授与されたことも記憶に新しい、88歳の巨匠、リドリー・スコット。
本作の舞台となるのは、謎のパンデミックで人口の大半が死滅し、人間性を失った"狂った生き残りたち"が奪い合い殺し合う【荒廃した世界】。愛犬と亡き妻の記憶を拠り所に生き延びていたパイロットのヒッグ(ジェイコブ・エロルディ)が、無線に届いた謎の声に導かれ、終末世界にまだ残されているかもしれない希望を求めて、未知の空へと飛び立つ――。
今を時めく最旬俳優のジェイコブをはじめ、世界的大ヒットを記録した『アベンジャーズ』(2012〜)シリーズにてサノス役を熱演したジョシュ・ブローリンや、『サブスタンス』(2024)にて第82回ゴールデングローブ賞の助演女優賞にノミネートされたマーガレット・クアリー、『ブルータリスト』(2024)にてアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたガイ・ピアースといった超豪華キャストによる息をのむ「静寂の人間ドラマ」と「五感を刺激するアクション」の見事なコントラストが見どころの一つとなっている本作。ハリウッドの第一線で活躍し続けているキャスト陣を束ね、指揮を執るリドリーはいったいどのような撮影方法で本作の制作に臨んだのか。今回はキャストのコメントを基に制作の舞台裏について紐解いていく。
キャスト陣が明かす、リドリーの大胆な撮影スタイル
2007年に『アメリカン・ギャングスター』でリドリーと共演したジョシュ・ブローリンは、彼が世界的な巨匠として認知されている要因について、「現場ではまったく準備なしといった雰囲気があるんだ。彼は準備万端でいながら、常に新しい挑戦を試みている。非常に頭脳明晰な人で、常に改善策を模索しているんだよ」と見解を述べ、常に高みを目指し続ける姿勢に深く感銘を受けている様子を見せている。
近年の作品は撮影枠が決まっており、それに沿って計画的に撮影していくのが一般的だが、リドリーの場合は数台のカメラを回し、カメラの位置を移動する変動的な撮影スタイルが採用されているのだそう。その手法に対し、ジョシュは「リドリーの現場では、どこにカメラがあるのか分からない状態で撮影が開始されるんだ。しかも、6台だったり、4台だったり、7台だったり、とにかく何台ものカメラが同時に回っている。しかもリハーサルの時間はほとんどないので、毎テイクごとにセリフも変えていったんだ。」と明かした。加えて、「撮影しながら常に脚本を書き直していった。監督がその場で即興的に脚本を変えるなんて、珍しいことだよ」とその型にはまらない大胆な手腕に驚愕したこともコメントしている。
続けて、「彼の発言というのはフィーリングとか本能からの発想だと思う」と撮影当時を振り返り、「いったん撮影が開始されると、監督はモニターに目を通しながら、"なんかフィーリング的にしっくりこない。あのスピーチが場に合っていないというか、これを切ってみよう"と提案するんだ。それに対して、"そうすると、最初の部分とつじつまが合わないのでは?"と僕らが応じると、"じゃあ最初から撮り直そう"と述べて、その場で脚本にペンを入れて、撮りなおすんだ」と撮影の裏話も明かした。また、「こういった撮影方法は彼を心から信頼しているからこそできることなんだ。彼と撮影現場を共にすると、他の監督と仕事したくなくなるくらい、創造的な満足感で満たされるんだ」と口にし、監督への厚い信頼と愛着を見せている。
一方、『プロメテウス』(2012)のピーター・ウェイランド役への抜擢以来、監督と度々作品を共にし、関係を育んできたガイ・ピアースもジョシュ同様、「経験によって積み重ねられたあふれんばかりの自信だろうな」と、長年の付き合いならではの視点で彼の巨匠たる所以について語っている。続けて、「彼はキャストの提案もどんどん受け入れてくれて、自分が信頼されていると感じさせてくれる、意思や感情を直接伝えることができる監督なんだ。だから、今回そんな彼と、またこうして仕事ができたことを幸運に感じるよ」と述べ、現場に立つ俳優たちの意見を大切にしてくれる監督の懐の深さに、心からの敬意を示している。
リドリー本人が明かす、撮影するうえで欠かせない、事前準備の大切さとは
現場ではキャストの提案を積極的に受け入れ、即興による変更も楽しむことで知られるリドリー・スコット。一方で、非常に具体的で詳細な手書きの絵コンテを自ら描き、万全の準備を整えて撮影に臨む監督でもある。
本人は絵コンテについて、「私にとって絵コンテとは、ひとつひとつのシーンをどう撮るかを準備する行為なんです。紙に描かれているから、目を通すことで位置関係もわかるし、他の可能性も見えてきます」と語っている。
また、撮影現場ではキャストに「今日はこんなふうに撮りたい」と自分の考えを説明したうえで、「もっといい案があれば出してくれ」と都度伝えているという。
絵コンテを用いて自らの撮影イメージを的確に伝えつつ、その場で新しいアイデアを試したり、キャストやスタッフと活発に意見を交わしたりするために、徹底した事前準備を行っているリドリー。緻密に計算された入念な準備と、現場で生まれる直感や俳優のアイデアを掛け合わせることで生み出される、唯一無二の映画体験は多くの観客の心をつかんでいる。豪華キャスト陣が全幅の信頼を寄せ、カメラの前で最大限のパフォーマンスを引き出された本作は、まさに巨匠の撮影スタイルの魅力が十分に発揮された作品と言えるだろう。極限の終末世界で紡がれる熱い人間ドラマと、魂を揺さぶる圧倒的な映像美を、ぜひ劇場の大スクリーンで堪能していただきたい。
■ストーリー
謎のパンデミックで人口の大半が死滅、人間性を失った者たちが奪い合い殺し合う荒廃の地で、パイロットのヒッグは、元軍人のバングリーと共同戦線を張ることで、日々を生き延びていた。ヒッグの理性をつなぎとめていたのは、愛犬ジャスパーの存在と亡き妻の記憶だけだった。そんなある日、小型機の無線に「謎の声」が届く。失われた日常を求め、その声に導かれるようにヒッグは未知の空へと飛び立つ。世界の終末 にまだ希望は残されているのか――。
■出演者(役名:俳優名)
ヒッグ:ジェイコブ・エロルディ
バングリー:ジョシュ・ブローリン
シーマ:マーガレット・クアリー
ジャック:ガイ・ピアース
■スタッフ
監督:リドリー・スコット
原作:ピーター・ヘラー『ラスト・サバイバー』(堀川志野訳、ハヤカワ文庫)
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